12月議会 振り返り~本庁舎整備のこと

12月議会に提出された本庁舎等整備関係の陳情
鎌倉市議会12月定例会が12月22日に閉会しました。

本庁舎等整備の関係では、14日(木)の建設常任委員会で 市庁舎現在地利活用基本計画の策定に向けた検討状況の報告 陳情22号「本庁舎等整備事業の財源について検証を求める陳情」の審査、15日(金)の総務常任委員会で 陳情27号 「鎌倉市庁舎の保守点検、修繕、管理についての陳情」の審査がありました。

陳情22号は、建設常任委員会において鎌倉市の財政状況と本庁舎等整備事業の財源について陳情者の求める検証を果たしたため、「議決不要」と決しました。

陳情27号は、総務常任委員会で多数挙手により採択されましたが、22日の本会議では少数挙手で不採択となりました。中継録画での確認はまだですが、賛成は10人(共産党・銀河鎌倉の2会派と無所属議員)、反対は14人(4会派と無所属議員)です。

同じものを見て分かれる見解
陳情27号の話を続ける前に、他市の庁舎の被災について触れます。

日立市役所は、東日本大震災で被災したため防災拠点機能の充実を掲げて新たに庁舎を整備しました。ところが今年9月の記録的な大雨で近くの川があふれ、地下の電源設備が水につかって庁舎全体が停電し、災害対策本部を一時的に消防本部に移す事態となりました。この出来事を受けて、「柏尾川に近い深沢に市役所を移転するのはとんでもない」という議会発言がありました。しかし、日立市役所の被災から学ぶべき教訓は、「豪雨災害多発の今日にあっては、電源設備を地階や1階などの低いところ配置すべきではない」ということです。昨年委員会視察で訪ねた岐阜市役所は、長良川のすぐ近くに移転した際に、熱源機械室・電気室・発電機室は8階に集約しています。

鎌倉市の現庁舎は電源設備が地階にあります。庁舎見学で機械室の入り口の止水板の差込口を確認しましたが、大量の水が流入した場合に浸水を防止できるとは思えない簡単なものでした。電源設備の上階への移設は、東日本大震災の後に必要性が叫ばれましたが、配線系統まで全てやり替える庁舎の大規模改修になってしまうため、困難だと結論付けられました。
他市の庁舎の浸水被害から学ぶ教訓は「川に近い深沢に市役所を移転しない」ではなく、「地下にある電源設備を上階に移設できない現庁舎を今後も長く使い続けるべきではない」ということではないでしょうか?!

これと同様に、同じものを見ても、見る人の「かくあってしかるべき」という思いによって全く違って見えてしまうのだ、ということを、陳情27号に向き合った際にも感じました。

鎌倉市役所。手前の低いコンクリート塀は地階へのスロープの降り口。

陳情27号に対する反対討論
採決に先立って私が行った討論を掲載します。

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陳情の名称は、「鎌倉市庁舎の保守点検、修繕、管理について」というもので、「入念な保守点検と必要な修理、改善を行い、適切に管理すること」を求めていらっしゃることについては、異存ありません。
しかし、本陳情ではそうした対応を「民間マンションのように長期修繕計画を立てて行う」ように求めています。「陳情の理由」の中にそのように記載されていますし、総務常任委員会での口頭陳述の中ではいっそう強調されていました。
既に築後54年が経っている現庁舎の長期修繕計画をたてるということは、現庁舎にさらなる耐震改修・老朽化対策の修繕・大規模な設備更新をして長寿命化を図るということを意味します。そういう趣旨であると受け止め、本件陳情には反対いたします。

以下、本陳情について考えるところを大きく3点に分けて申し述べます。

1点目。現庁舎の屋上から地下まで、建物の内部も外観もくまなく見て回れば、現庁舎の長寿命化という方向性はあり得ないと思うのが普通の感覚ではないでしょうか。
総務常任委員会で、ある委員から「現庁舎の見学会が実施されたのは、うがった見方をすれば、このように老朽化し、このように狭いのだから移転はやむなしと思わせるためではないか」という発言がありました。しかし、見学会の意図はまさに「この庁舎の老朽化と狭さの現実を直視してください」ということでした。意図が巧妙に隠されていて、うがった見方をしなければ気づかないなどというものでは全くありませんでした。

そして、現実を直視したら、築54年の庁舎がこれから20年も30年も使い続けられる状態ではないことは自ずから明あきらかですし、それ以上に執務スペースの狭さが強く印象付けられたはずです。

神奈川県市町村公共施設概要のデータから県内の一般市16市の本庁舎の職員1人当たりの床面積を算出したところ、鎌倉市は現在16市中14位でした。15位の厚木市と16位の三浦市は新庁舎を整備中ですから、ごくごく近い将来、鎌倉市の本庁舎は職員1人あたりの床面積が県内一般市で最も小さい庁舎だということになります。
狭いということは執務上の差し障りであり、大地震などの災害発生時に脆弱だということです。耐震補強で多数のブレースを追加設置すれば使える面積はさらに狭くなりますが、現状においても狭いのですから、ブレースを設置しない工法で補強をすればよい、という話ではありません。現実を直視すべきです。

2点目。市は、2017年3月に「本庁舎機能維持基本方針」、同年12月に本庁舎機能維持実施計画を策定しました。以後、本庁舎機能維持実施計画に基づいて、大災害発生後の機能維持を優先するとともに、毎年度必要な箇所を選んで補修・修繕を行っています。
本庁舎機能維持基本方針と同じ2017年3月には本庁舎整備方針がつくられています。そこには「本庁舎は移転により整備する」という方針が掲げられていることから、移転までの期間において、現庁舎の大規模修繕は行わないというのが市のスタンスです。
大規模修繕は多額の費用を必要とするためで、総務常任委員会の総務部長の答弁の中では「大切な税金」という言葉が使われていました。やはり限られた財源の中で二重投資は避けるべきなのです。

そもそも、大規模修繕の計画は、その建物をその後どれくらいの期間持たせるのかという方針が定まらなければ立てられません。20年なのか30年なのか、どれくらい持たそうとするのかによって修繕・改修の経費は大きく変わりますが、築54年の現庁舎を20年、30年使い続けることのメリットが「必要とされる経費」に果たして見合うのでしょうか。厳しく問わざるを得ないと思っております。

本市が現庁舎の大規模な設備改修に入ろうとした矢先に東日本大震災が発生しました。改修工事で使えくなるフロアの代わりに職員の執務室に充てる予定でプレファブ棟を用意していましたが、緊急対応で未耐震の旧おなり子どもの家の引っ越し先にそのプレファブ棟を使うことになったため、現庁舎の施設改修工事は見送られたという経緯が陳情審査の中で紹介されました。庁舎の一部フロアの施設・設備改修でもプレファブ棟を用意しなければならなかったのですから、長期・大規模な修繕にかかる経費は推して知るべしです。

3点目。「本庁舎の深沢への移転はもうできないのだから、現庁舎の長寿命化は二重投資にならない」とう声が聞こえてきそうなので、それへの反論です。
本市は、2018(平30)年3月に公的不動産利活用推進方針を策定し、本庁舎を深沢に移転して整備することを決めました。議会の特別議決を要する「本庁舎の位置を定める条例」改正は行われていませんが、昨年12月議会で位置条例改正議案が否決となったことをもって深沢への移転ができなくなったわけではありません

市長が昨年12月議会に位置条例改正議案を提出したのは、9月に「新庁舎等整備基本計画」が完成を見たことを受けたタイミングでした。同時に「市庁舎現在地利活用基本構想」も完成しています。この2つは、市役所の位置を深沢に定める条例改正議案に対して議会が判断を下すための極めて重要な判断材料です。
私はかねてから、新庁舎の整備と現在地の利活用はセットであって、2つが合わさって鎌倉市のまちづくりと市民生活をよりよいものになるのかどうかが問われているのだと申し上げてきました。昨年の12月議会で位置条例議案に賛成したのは、「新庁舎等整備基本計画」と「市庁舎現在地利活用基本構想」により、その判断ができると考えたからです。

ついでに申し上げておきます。
「なぜ、本庁舎を深沢に移転して整備すると決めた時点で位置条例改正を提案しなかったのか、順番がおかしい」という意見がありますが、それは違います。
深沢にどのような市庁舎を整備することができるのか、それが鎌倉市全体のまちづくりにどのような波及効果を持つのか、移転後の現在地にどのような新しい価値を創造することができるのか、鎌倉エリアの住民の行政サービスへのアクセスが不便にならないか、そういった諸々のことについての見通しが示されなければ、議会として責任ある判断はできません。
ですから、「本庁舎の深沢移転方針を決めた時点で議会に位置条例改正をはかるべきだった」という主張は、鎌倉市の本庁舎は何が何でも、旧鎌倉の中心エリアになければならないという発想を前提としたものだと言うことができます。

話を本筋に戻りますと、一旦否決された位置条例改正案は、今後タイミングを見計らって再提案されることになります。そのタイミングは現時点では未定のようですが、何らかの判断材料が新たに示されることがきっかけになるでしょう。

近いところでは、今年度中には「現在地利活用基本計画」が策定されます。
これにより、支所と同等以上の行政サービス機能の確保および中央図書館・鎌倉生涯学習センター・NPOセンターの機能の集約化が施設規模として可能であること、鎌倉地域の災害時の防災拠点となること、公共機能に必要なスペースの確保を優先し民間機能は余剰面積の範囲での検討とすること―などが、昨年9月の基本構想の段階に比べて、さらに具体化・明確化します。

私自身は1年前の段階で市役所移転に合意の判断をしてよいと考えましたが、その時点では合意できないとした会派・議員の中からも、新たな判断材料を踏まえて合意に向かう人が出てくることは可能性としてあるわけです。その可能性を全否定して「深沢に移転できないことは既に決したことがらである」と決めつけることには全く賛同できません。

「深沢に新庁舎をつくれない」とは考えていないので、「深沢に新庁舎をつくれないのだから、現庁舎の長期の修繕計画を作って長寿命化をはかるべきである」という論法にも賛同できません。

結 び
本庁舎を深沢に新築し、現在地に多くの人が集う市民の拠点を作る計画は、全市的なまちづくりと防災力向上、公共施設の維持管理・更新に係る将来負担軽減、脱炭素施策の推進、市民活動の推進といった多くの観点から進めるべきだと考えます。

ただ、進捗した場合でも最短で7年余りを要するわけですから、現庁舎の効率的な補修と安全対策はぬかりなくやってほしいと思います。
その点に関しては陳情者が「市庁舎は市民全体の所有物である」と述べていることと、思いを同じく致します。

以上で討論を終わります。