住民投票条例の制定を求める直接請求について

2018年10月7日 00時29分 | カテゴリー: 活動報告

10月5日、市民団体が、鎌倉市役所移転の是非を問う住民投票条例の制定を求める「直接請求」に必要な署名8521筆を市選挙管理委員会に提出しました。
今後署名の審査が行われ、市民団体は有効と確定した署名を添えて市長に直接請求を行ないます。
1ヶ月という定められた期間の間に8千超の署名が集まったことは、市役所移転方針に対する市民の関心の高さのあらわれであることは確かで、市も議会も重く受けとめなければなりません。

38年前(!)の直接請求
今回以前に鎌倉市で条例の制定を求める直接請求が行われたのは、1980年です。
環境負荷や人体へ害が指摘される合成洗剤の使用をめぐり、生活協同組合のメンバーらが、県下7市(川崎市・横浜市・藤沢市・座間市・大和市・海老名市・鎌倉市)に合成洗剤を追放する条例制定の直接請求を行いました。
この時は、横浜市で9万5千人、鎌倉市で2万人超、7市合わせて22万人もの署名が集まりました。
しかし、条例案は7市議会すべてで否決されました(もっとも、その後、各市の公共施設で石鹸の使用は着実に広がりました)。

条例案が議会で否決されたことをきっかけに、政治を市民に身近なところに引き寄せるために議会に自分たちの代表を送ろう、という機運が高まりました。
そうして誕生したのが、神奈川ネットワーク運動(1984年設立)です。
私たちは、今回の直接請求により、直接民主制と間接民主制の関係が再び問われていると感じています。

署名収集の体験談を聞く
今年の7月、かながわ市民オンブズマン(※)の月例会で、昨年横浜市で行われた住民投票条例制定の直接請求の体験談を聞く機会が持たれました。
同オンブズマンが、横浜市へのカジノ誘致を阻止するために住民投票の実施が可能なのか、有効なのかを探るべく、先行した取組みを参考にしようとした学習会です。
オンブズマンは、「不正・不当な行為を監視し、これを是正することを目的とする組織」という意味で誰でも自由に名乗れる名称ですが、全国市民オンブズマン連絡会議に加わっているのは、神奈川県では、かながわ・かわさき・さがみはらの3団体のみです。)

その学習会の報告記事を、9月19日発行の同オンブズマンの広報誌142号に寄稿しました。
全文『住民投票条例制定の直接請求~政令市で行うハードルは極めて高い』はコチラで見られます。
http://kana-ombuds.world.coocan.jp/kouhou/2018/kouhou142.html

記事の大半は学習会の報告記事ですが、後段で鎌倉市の住民投票に向けた動きについても触れております。その部分を抜粋して以下に掲載します。記事を書いたのは9月の初めでしたが、署名収集が行われている間は、掲載を控えました。

・・・・かながわ市民オンブズマン広報誌142号掲載記事 (抜粋=1~4項を省略)・・・・
5 住民投票の結果の法的拘束力とは 
―(略)―
確かに、法定数の署名を集めて直接請求をしても、議会が住民投票条例案を否決して住民投票が実施されなかった事例、住民投票を実施しても、その結果を首長が尊重せず、既定の方針・計画を改めなかった事例が幾度もありました。

また、住民投票の結果が自治体行政に対して拘束力を持ちうるのかというと、総務省は「拘束的住民投票は、法律に根拠がある場合のみ可能と解される」としています。
法律に根拠がある場合とは、憲法95条の住民投票や、市町村合併特例法の住民投票を指し、条例(住民投票条例)に基づく住民投票は、これに該当しません
判例では、名護ヘリポート市民投票訴訟の那覇地裁判決(平12.5.9)が、「住民投票の結果に法的拘束力をもたせるのは、間接民主制と整合しない」と指摘しています。
現行法の解釈では、条例にもとづく住民投票の結果には法的拘束力は持たせられないということになります。

そうではあっても、住民投票によって示された市民の意思を首長が尊重すべきであることもまた確かです。
そのためには、「住民投票の結果から市民の意思が読み取れること」が大前提となります。
住民投票が50%を優に超える投票率で実施され、カジノ誘致反対の票が賛成票を大きく引き離せば、林(横浜)市長は無視できない、無視することはないだろうと推測したいところです(甘いでしょうか?)。

6 付録―鎌倉市における住民投票に向けた動き
最後に、私が市議を務める鎌倉市で現在(2018年9月)署名集めがされている動きについて触れます。
鎌倉市で市民が制定を求めている住民投票条例は、老朽化して手狭な市役所本庁舎を現在の鎌倉の中心部から藤沢との市境に近い深沢地区に移転整備する市の計画に対し、「深沢への移転に賛成か反対か」を問うものです。
これは、横浜へのカジノ誘致に賛成か反対かを問う住民投票が、反対の場合の対案を必要としないものであること(誘致しないだけのこと)とはケースを異にしていると思います。
深沢移転に反対の立場なら、現在地での建替えなのか、大船など他の地域に移転させるのか、何もしないで現庁舎が老朽化するのを見ているか、ともかく何らかの対案を示す選択肢になっていないと、反対票が市民のどんな意思を反映したものかわからないからです。
「深沢移転が嫌だ」という市民がどの程度いるかがわかるからOK、という理屈なのかもしれませんが、それよりも、市民が望む市役所整備がどのようなものかが示されることの方が大事だと思います。

また、「住民投票の結果から市民の意思が読み取れる」と言うには、投票率得票率(有効投票の過半数を得た票数の有権者数に対する割合)が関わってきます。
これまでに各地で提案されてきた住民投票条例の多くが、投票率50%以上を成立要件としています。
一方、
①投票率を成立要件とすると棄権を促す運動が有効となるおそれがある、
②投票率にかかわらず開票を行って結果を公開すべき、
③(投票率ではなく)得票率を成立要件や投票結果の尊重義務の尺度とすべき、とする主張もあります。
では、鎌倉市で署名集めが行われている住民投票条例案ではどうなっているかというと、成立要件の規定がありません

その一方で、「市長及び市議会は、住民投票の結果(中略)に拘束されねばならない」との規定があり、前項で述べた現行の法制度の解釈と相容れないとともに、成立要件の不規定との関係でもバランスに欠けると言わざるを得ません。(注:末尾) 

人口172,000人、有権者数15万人弱の鎌倉市では、約3,000人の署名を集めれば直接請求ができるので、住民投票条例案は11月以降に議会にかかると見られています。
ともあれ、議会は、議会制度という間接民主主義と共にあるものとして、住民投票のような直接民主主義的活動を尊重する立場にあると考えます。
法定数の署名が集まって直接請求が行われたなら、議会は原則として住民投票条例案を可決させるべきでしょう
一方、議会は修正案を提案し、それを可決させることもできます
内容的に修正の必要を感じる点があることは、上述のとおりです。
しかし、修正を加えることで、署名された多数の市民の意思との間で齟齬が生じることもありうるわけで、そのあたりに頭を悩ませながら署名収集活動の推移を見ているところです。 (了)

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(注)(住民投票の結果に拘束される、とするのは)現行の法制度の解釈と相容れないとともに、成立要件の不規定との関係でもバランスに欠けると言わざるを得ません。

記事執筆時点では、上記のように考えましたが、
現在は、条例に基づく住民投票は諮問型であり、その結果に拘束されないという前提に立てば、成立要件の不規定を問題視する必要はなく、
投票率や賛成・反対の割合などと照らし合わせて、住民投票の結果の尊重義務が果たされるものと考えています。