文化財専門委員会で「北鎌倉トンネルがある尾根の文化財的価値」について意見が一致

7月8日、30人近い傍聴者を集め、鎌倉市文化財専門委員会(会長 河野眞知郎・元鶴見大学教授)が開催されました。

協議事項は、
(1)北鎌倉隧道にかかる現在までの経緯(道路課、文化財課による説明)
(2)北鎌倉隧道が所在する尾根の文化財的価値について
(3)北鎌倉隧道の安全対策について でした。

5月に隧道の現地視察を行った文化庁は、「隧道が先端部に位置している尾根は、円覚寺の境界を画するもので文化財的価値がある」という見解を示して、鎌倉市に対し、「市の文化財専門委員以外の専門家(外部有識者)による検証が必要である」と伝えてきました。市議会も、6月議会において「北鎌倉隧道が所在する尾根の文化財的価値の公正な検証を求める決議」(神奈川ネット等9議員による議員提案)クリック決議文を可決させました。本日の文化財専門委員会はこうした経緯を受けた開催です。

「文化財専門委員以外の専門家」の選任には時間がかかると思われたので、早期の委員会開催は予想外でした。市は、文化庁のアドバイスにより、世界遺産登録推進で協力いただいている専門家4人と地質学関係の専門家1人に出席を要請したとのことです。そのうち、本日の出席が可能だった外部有識者は、五味文彦・東京大学名誉教授(日本中世史)と藤原良章・青山学院大学教授(日本中世史)のお2人で、河野委員長、7人の専門委員(3委員が欠席)とともにテーブルにつき、上記事項について協議し、意見を述べられました。

北鎌倉隧道が所在する尾根の文化財的価値について
担当課による経緯の説明の後、すぐに河野委員長から「昭和42年の国による円覚寺の史跡指定の際に当該尾根が指定の範囲に入らなかったことが、そもそも意外だ」との発言がありました。

外部有識者の藤原教授は、
「尾根が削られているかどうかの判断はさておき、部分的に削られているから全体として価値がないとするのはおかしい。尾根自体、史跡として指定されるべきものだった」、
五味名誉教授は、
「国の史跡指定の際に尾根が指定範囲から外れたのは地権者の同意が得られなかったからだと推測されるが、史跡に追加指定されるよう努めるべきだった。史跡指定の根拠は、円覚寺境内絵図にある。また、トンネルは近代になって出来たものだが、慣れ親しんだ鎌倉の風景、文化的景観として保護していくものではないか。」と発言。
一部の委員からは、往時の景観と大きく隔たった周辺環境についての言及もありましたが、「尾根には文化財的価値があり、国史跡への追加指定を目指すべきだ」ということで、委員会として意見の一致を見ました。

隧道の安全対策について
文化財的価値についての協議に次いで、文化財部長から隧道の安全対策についての見解を伺いたいとの投げかけがありました。
これに対し、委員からは、史跡としての追加指定を目指すとしながら尾根(トンネル部分)を開削することはありえない、という意見とともに、土木を専門としない文化財の専門家に安全対策工法について問いかけること自体がそぐわない、との声があがりました。
五味名誉教授は「基本は、いかにして史跡として保護して史跡指定に持っていくか、ということ。工法については知恵の出しどころで、市はよく考えてほしい」との意見を述べられていました。

外部有識者の御2人を含め、委員各位からは課題に向き合った率直な意見が示されました。専門外の「隧道の安全対策」に議題をそらさず、尾根の文化財的価値を論じる中でトンネルをどう捉えるかという点で協議を深めるべきであったと思います。
それでも、全体として「尾根に文化財的な価値があるのは明白で、安全性に配慮しながら保全していく」という方向性は確認されました。今日の結果がどのように総括されて市長に伝わるのか、市長がそれをどう判断するのか、注意深く見ていきます。