鎌倉市議会総務常任委員会で住民投票条例の修正案が可決
臨時会2日目の11月22日、午前中に本会議が開かれ、住民投票条例制定請求代表者6人の意見陳述が行われました。
午後は総務常任委員会での住民投票条例案の審議でした。
委員会は、原局への質疑→市長への質疑→高野洋一委員による修正案の提案・質疑・採決で7時間近くを費やし、採決において賛成3人・反対3人の可否同数となったため、委員長裁決より修正案を可決させました。
(1)修正案は違法と指摘された部分を修正
8270人の連署をもって制定請求された住民投票条例案に対して市長が付した意見書は、「住民投票により、単に深沢地域への移転に賛成か反対かを問うことは、これまで多くの方々と丁寧に議論して築き上げてきた結果と過程をないがしろにするものであり、到底容認できない」ということを中心に据える一方、条例作成の技術的な面における言わずもがなの難癖を並べた、きわめて冷淡な内容でした。
◆条例12条を諮問型に
特に、市長意見書が字数を割いて問題視したのは、「市長及び市議会は、住民投票の結果に拘束されなければならない」とした条例案12条です。
住民投票の結果に法的拘束力をもたせるのは間接民主制と整合しないことが裁判所の判例で指摘されており、総務省も、「拘束的住民投票は、法律に根拠がある場合(憲法95条の住民投票や市町村合併特例法の住民投票)のみ可能と解される」としていることから、12条が違法性を問われるのは免れません。
そこで修正案では、多くの住民投票条例の先例にならい「市長及び市議会は、住民投票の結果を尊重しなければならない」と修正されています。これにより、違法性の指摘は当てはまらなくなりました。
◆成立要件
また、市長意見書は、「住民投票の成立要件についての規定が無いため、市民の少数意見だけが反映されるおそれがあり、その結果は民意を充分に反映したものとはならない」と強調しています。
確かに、住民投票の結果に法的拘束力を付与した条例(上述のとおり、法的拘束力の付与は不可ですが)であれば、市民の少数意見が多数意見(議会制民主主義に託された多数意見)をねじふせるおそれがあります。しかし、12条を「住民投票の結果を尊重しなければならない」と修正することにより、市長意見で示されたような事態の回避は十分担保されました。
条例に基づく住民投票は諮問型であり、その結果に拘束されないという前提に立てば、(市長や市議会は)投票率や投票結果における賛成・反対の割合など、様々な結果を勘案した上で尊重義務を果たすものであると解されるわけで、成立要件を設ける特段の必要性はなくなります。
その意味で、12条は、「住民投票の結果を尊重しなければならない」とするだけでも事足りると考えられます。しかし、修正案では12条の後段に「また、住民投票の総数が投票有資格者の総数の2分の1に達したときは、その結果の重みを十分に考慮しなければならない。」との文言が付け足されています。
これは、「投票率や投票結果における賛成・反対の割合など、様々な結果を勘案した上で尊重義務が果たされる」ということの理解を助ける目安として、特記したものと理解しています。
(2)総務常任委員会で出た反論
委員会では、条例原案および条例修正案に反対の立場の委員から、次のような意見・疑義が示されました。
(委員長なので委員会では意見表明はできませんでした。「⇒」以降に保坂の見解を記します。)
◆修正すること自体への疑義
「8270人分の署名は原案に賛同したものであるので、修正を加えると署名に託した住民の意思との間に隔たりが生じるのではないか」という質問がありました。
⇒ 修正案は、現行の法解釈と異なる部分(第12条)に変更を加えた以外は、用語及び条文作成の技術的な変更にとどまっています。
条例案の趣旨である第1条の目的と第2条の住民投票で問う内容は、実質的に原案のままであるので、住民意思との隔たりは生じないと考えます。
◆住民投票で問う内容への疑義
「条例案に掲げられた≪深沢移転に賛成/反対≫の選択肢で住民投票を行うことで、果たして民意がはかれるのか?」
「投票の結果、深沢移転反対が多数派であると認められた場合、深沢移転をしない場合の代案が示されないまま深沢には建てられないということだけが決まるのか」
「この選択肢では選べない、あるいは現時点では判断できない・したくないという民意をどうやってはかるのか」
といった疑義が示されました。
⇒ ≪深沢移転に賛成/反対≫を問う選択肢が住民から示されたのは、深沢移転という方針にもとづいて、これに異議を唱える市民にきちんと向き合わずに事業を進めようとする市に対して、立ち止まるように求めているということに他ならないと思います。
修正案において、12条「市長及び市議会は、住民投票の結果を尊重しなければならない」とされたことで、「投票結果から総合的に民意を読み解く」義務が市長と議会に課せられました。例えば、投票率が低かった場合、市は、民意が示されなかったと総括するのではなく、市民が判断を留保した理由を掘り下げて、その後の進め方に反映させなくてはなりません。
◆住民投票を行うには情報不足であるという指摘
「現段階では、住民投票を行うには情報不足ではないか」「未成熟な情報しかない状況で投票を実施したら市民の間で分断が生じる」という指摘もありました。
⇒ 市は現在、深沢移転の方針に従って基本構想の策定を行っていますが、そのプロセスにおいて市民に提供している情報と、基本構想の中身となるべき情報(深沢は本庁舎をつくれる場所なのか、本庁舎をつくって機能するのか、御成の現在地はどうなるのかetc.)が不足しているのは事実です。
しかし、情報不足だから住民投票を行うべきではない、というのは違うと考えます。
むしろ、住民投票の実施を求める直接請求は、「このような情報不足のままでよいのか」という住民からの問いかけでもあると受けとめるべきです。
◆条例の実効性
修正案に対し、「住民投票の結果を尊重するという諮問型の条例は実効性がない(だから条例をつくって住民投票を行う意味がない)」という指摘も出ました(原案の選択肢に関連して「条例に基づいて住民投票を実施しても民意は明確にならない」という意味がこめられている可能性もあります)。
⇒ いずれにせよ、条例の実効性は、市長に、修正12条を真摯に受けとめる姿勢と、住民投票の結果を読み解くリテラシー、結果を受けとめる受容力あれば、おのずと発揮されると考えます。
市長が議会に付した「市長意見書」は、議員が条例案に反対しやすいように否決のための理由を満載したものでした。
しかし、地方自治法に定められた有権者の2%以上という要件を上回る5%の連署で請求された条例制定を「請求された市民の意思を重く受けとめる」と口では言いつつも拒否するということは、議会のあり方として甚だ疑問です。
(3)位置条例はいつ定める?
地方自治法第4条第1項は「地方公共団体は、その事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは、条例でこれを定めなければならない」とし、同第3項は「第1項の条例を制定しまたは改廃しようとするときは、当該地方公共団体の議会において出席議員の3分の2以上の者の合意がなければならない」としています(過半数よりもハードルを高くした特別多数議決)。
22日の本会議および総務常任委員会で、同僚議員がこの本庁舎の位置を定める条例について質疑しました。
条例制定時期を問われた際の市長、行政経営部長の答弁は「条例制定は庁舎の建設にかかる財源の見通しが立った時期」というものでした。
行政実例を根拠とした教科書的な答弁とも言えますが、実際問題、「本庁舎は深沢地域整備事業用地に移転して整備するという方針」を市が決めただけの現段階で、本庁舎の位置を定める条例の議案が示されても、議会としては賛否の判断は困難です。
本庁舎整備の基本構想、基本計画、設計と進んでいく中で、少なくとも基本計画までは作られなければ、賛否を的確に判断することはできません。
答弁を受けて「財源の見通しが立っていないのに、深沢への移転整備を決めたのか」という問いかけもありました。
これに対して部長は、方針⇒基本構想⇒基本計画と進めて行かないと、必要な整備費用(※)とそれにあてる財源の見通しは立たないと答えていました。
これは理屈としては間違っていません。但し、本庁舎整備基金の積立額の低さは大きな問題です。
(※現時点では、25,000㎡×60万円/㎡=150億円という建設工事費にその他の関連経費を合せた166億円という概算の事業費が示されているに留まる)
(4)神奈川ネットのスタンス
今回の住民投票条例を巡り、議会は「条例案に賛成=深沢移転に反対、条例案に反対=深沢移転に賛成」という図式で見られていると思いますが、神奈川ネットは、条例案には賛成ですが、深沢移転に反対ということではありません。
現在地での建替えは立地要件(津波浸水想定域か否かではない)により困難であると考えることから、深沢への移転という方針に基づいて本庁舎整備の検討を進めることは是としています。
但し、これまでにも明らかにしているとおり、前提として、次のような課題がクリアされなければならないと考えています。
(1) 深沢地域整備事業用地への交通アクセスや周辺地域の交通事情の課題解決への道筋が示される
(2) 深沢地域整備事業用地の洪水浸水などの被災リスクが対応可能なものであることが、わかりやすく示される
(3) 現在地において、
①行政機能が窓口業務などの市民対応機能を中心に十分な形で残る
②図書館、ホールなどの公共施設の適切な集約化が実現する
③景観的にも鎌倉のこの場所にふさわしい施設が整備される
―これら①②③が現在地の整備構想として明示される
このように、神奈川ネットとしては、前提条件を付けつつも深沢への移転という方針に基づいて検討を進めてもよいとの立場です。
そうではあっても、「市による深沢移転方針決定の前にさかのぼって、市庁舎整備についての市民の意思を確認すべきだ」と多くの市民が声をあげられたことは尊重しなくてはならないと考えます。
それゆえ、住民投票を行うことについては賛成です。