特定秘密保護法案―「知る権利」を明記すればいいのか
10月17日、今臨時国会に国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案とセットで提出される特定秘密保護法案の最終案の全容が明らかになりました。
法案そのものが知る権利への脅威
神奈川ネットワーク運動では、10月14日、情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子さんをお招きし、この法案についての学習会を持ちました。特定秘密保護法は、2007年に発行した「日米軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)を有効に実行するための国内法と位置づけられ、国の安全保障(防衛、外交、スパイ防止、テロ防止)に著しく支障を与えるおそれのある情報を行政機関の長が秘密指定し、その漏えいなどに重い罰則を課すものです。また、戦後の日本の秘密保護法制は、もっぱら「秘密を漏らすこと」を罰する(公務員が情報を漏らした場合、国家公務員法や自衛隊法などで罰する)ものでしたが、特定秘密保護法は、秘密を取得すること、取得しようとすることを罰する仕組みも取り込んでいます。
最終案では、公明党の修正要求が反映され、「知る権利」と「取材の自由」を明記し、取材を「正当な業務による行為」とする規定が加わることになりました。しかし、「知る権利」や「取材・報道の自由」に配慮する規定を設けるかどうかの問題ではなく、法案そのものが知る権利への脅威である、と三木さんは指摘します。特定秘密は、リアルタイムで政府にアカウンタビリティ(説明責任)を果たさせることができるようなレベルの情報ではありませんが、秘密解除についての手続、枠組みなどを仕組み化し、年月をかけてでも政府にアカウンタビリティを果たさせることができなければ、秘密は秘密のまま廃棄され、闇に葬り去られてしまうからです。
民間人も無関係ではない
また、特定秘密の取り扱い業務を行うことができるのは、「適正評価」で秘密を漏らすおそれがないと認められた者だけ、とされています。それには国の行政機関の職員と都道府県警察の職員だけではなく、行政機関との「契約業者の役職員」も含まれます。折しも学習会が開かれた10月14日の神奈川新聞に、海上自衛隊の護衛艦に使われている川崎重工業製のエンジン部品を、英国向けに輸出して英国海軍艦船へ提供する取引を政府が容認した、という記事が載っていました。三木さんは、武器輸出三原則がなし崩しにされていく昨今の流れの中、軍事転用が可能な技術を持つ民間企業が特定秘密を取り扱うことになる可能性に言及していました。
自治体の情報公開の現場に影響は?
さて、この学習会で私は、自身が行なった情報公開請求の事例について報告しました。鎌倉市内の携帯電話中継基地局の設置場所情報が非公開とされた事例です。非公開の理由として「基地局への破壊活動が容易に実行されるおそれがあるため」(鎌倉市情報公開条例6条5号該当)が挙げられました。
秘密保護法制の対象領域の情報が、情報公開請求で公開されることはなく、公開か非公開か争われる領域はその外側に広がっていると考えるべきです。また、国が特定秘密に指定した情報を自治体が国と共有化するケースは、(県警情報を除いて)極めて稀でしょう。でも、個人情報保護法成立後に、個人情報保護が拡大解釈され、保護の対象とならないものにまで網がかかってしまったことを思うと、特定秘密保護法成立後に、法の存在が自治体の情報公開に影を落とすおそれがないとは言えません。「犯罪の予防(中略)その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ」を事由に掲げて、非公開とすべきでない情報が隠される傾向が生じないように、目を光らせておく必要があると思います。