金沢市の無電柱化の取組みを視察

無電柱化推進法で計画策定が自治体の努力義務に
国は、災害の防止、安全・円滑な交通の確保、良好な景観の形成等を図ることを目的に2016年に「無電柱化の推進に関する法律」を制定し、2018年に「無電柱化推進計画」(国の計画)を策定しました。

同法は都道府県・市町村に対して無電柱化推進計画の策定・公表を努力義務として課しており、神奈川県は2019年に県計画を策定(2021年度末に改定)、鎌倉市もこのほど市計画を取りまとめました(無電柱化対象路線の市道の一覧を掲載。総延長4,770mのうち施工済みは1,100m)。

計画の策定と共に「鎌倉市無電柱化条例」を制定する予定で、市長は条例案を12月議会に提案するとのことです。無電柱化を義務化する路線と区域を指定すること及び無電柱化の促進をはかることを目的とした条例です。


2009
年度に「無電柱化推進実施計画」を策定した金沢市
こうした動きを踏まえ、建設常任委員会では10月24日に金沢市の無電柱化の取組みを視察しました。

戦災での街並みの消失がなかった金沢市では、歴史的遺産やまちなみを後世に継承するために景観保全に力を注いでおり、その一環で早くから無電柱化に取り組んできた経緯があります。2009年1月には国から歴史的風致維持向上計画の第1号に認定され(鎌倉市はそれから7年後の認定)、同年「金沢方式無電柱化推進実施計画」を策定しています。

その内容は、「まちなか区域」の約860hを無電柱化を推進する重点区域とし、その中で 「景観・歴史まちづくり」、「観光・商業まちづくり」、「安全・安心まちづくり」の観点から重点整備エリアを設定したゾーニングを行い、まちなみの特徴を生かした様々な整備手法を採用した無電柱化を進めるものです。

整備手法が多様であることが金沢方式の大きな特徴です。地中化による方法として①完全地中化方式 ➁既存ストック(流雪溝や通信管路などの空きスペース)活用 ③浅層埋設(小型トラフ方式)④ソフト地中化(地上に機器を置かず、照明柱に機器を埋設または添架)、さらに地中化以外の方法として ⑤軒下配線 ⑥裏配線・脇道配線 の手法を採用しています。

重要伝統的建造物群保存地区の無電柱化の修景の努力
市役所で道路建設課無電柱化推進室長さんらから説明を受けた後、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)の主計町茶屋街とひがし茶屋街を視察しました。

地区としてまとまりを持った歴史的まちなみが素晴らしく、無電柱化がまちなみの魅力を高めていることがよくわかりました。無電柱工事後の「修景」にも配慮が行き届いていることが印象的でした。

浅野川沿いの主計町の茶屋街の町並み

電柱のない主計町茶屋街(完全地中化方式)。地中から建物への電線の配管は、壁面の色に合わせた塗装。

主計町の川沿いから少し入った一画の軒下配線。家屋が連接して軒の高さが概ね一様でないと採用できない手法

無電柱化の防災面での利点について
金沢市も無電柱化の効果として(国の無電柱化推進法の目的とほぼ重なる)「景観・観光」「安全・快適」「防災」の3つを挙げています。

その中で一番知りたかった防災に関し、次の質問を事前に送付していました。
Q 無電柱化を進めれば、地震・台風等が発生した時に、電柱の倒壊等による道路の寸断を防止でき、強風による停電も防げるなど、防災面での効果が大きいこと理解できる一方、大地震で甚大な被害が生じた後のインフラの復旧で、地中埋設の上下水道管よりも地上の電線の復旧が早いことを考えると、電線を地中に埋設した場合の復旧(埋設管の損傷も想定)の難易度については、どのように捉えればよいのか。

金沢市無電柱化推進室からは、これに対して次のような回答をいただきました。
無電柱化事業では、管路や特殊部に被害が生じた際の復旧は、基本的に道路管理者が行うこととなる。また、復旧に向けた調査においても、地下に埋設されていることから、時間を要するデメリットはある。
ただ、管路の特殊部との接手部に地震時に離脱が生じないよう十分な “差ししろ” を持たせていることや、伸縮接手構造として地震動を吸収できる構造となっていることから、 能登半島地震でも被害は発生していない。

(地中埋設の管路や特殊部が損傷した場合の復旧には時間を要することが考えられるものの)災害時の停電リスクが低く、道路を塞ぐリスクが少なく、72 時間以内の人命救助や、孤立集落の防止、迅速な応急救急活動を確保する上では、無電柱化の効果は非常に効果は大きいと考える。
北陸電力よれば、3月15日現在の配電設備被害状況は、電柱傾斜(約2,310本)電柱折損(約760本)断線・混線(約1,680箇所)に及んだが、無電柱化区間ではこれらの危険性は考えにくい。特に、人命救助・復旧支援活動に不可欠な “緊急輸送道路” においては、無電柱化の役割は大きいと認識している。

鎌倉市ではどうだろうか
金沢市は、「保全と開発の調和」というまちづくりの方針のもと、明確な目標をもって無電柱化に取り組んきたとのことです。経費と時間だけでなく、大変な手間を要する事業であることも垣間見られた視察でした。

鎌倉市での取り組みにあたっても、「市域の無電柱化達成率○%」などの大風呂敷を広げるのではなく、地域(路線)毎の目標を明確にして取り組むべきものだと感じました。その意味で、「鎌倉市無電柱化推進計画」において、無電柱化推進路線として選定した路線ごとに①防災 ②安全・円滑な通行確保 ③景観形成 ④道路事業等に合わせた無電柱化 ⑤ その他(地域の魅力アップなど)の5つの観点のうちのいずれに該当するかを付記しているのは妥当だと思います。

≪付記≫
特に、緊急輸送道路については無電柱化を急ぐべきです。
但し、鎌倉市が災害に強いまちづくりを目指す上では、大地震・津波による壊滅的な被害を免れることができるように鎌倉処理区の下水道幹線を再整備することが喫緊の課題です。無電柱化も下水道整備も都市整備部の事業ですが、持続可能型下水道幹線の再整備が長い期間を要するものだからと言ってスローペースでよいというものではありません。

ひがし茶屋街の完全地中化による無電柱化(地上機器は目立たないように配置)