県立近代美術館鎌倉館の今後
雪ノ下1丁目の我が家から徒歩数分の鶴岡八幡宮の敷地に建つ県立近代美術館・鎌倉館。美術館の中に入り、池に張り出した1階のテラスや2階の喫茶室にいると、周辺の道路の騒音はどこへやら、敷地を囲んで重なり合う高い木立のお蔭で森の中にいるような錯覚に陥ることもしばしばでした。八幡宮と言うと、小学生の頃は、当時通行が許されていた赤い太鼓橋を一気に登って渡り終えることが訪れて最初の儀式でしたが、高校生になると近代美術館の佇まいに惹かれるようになりました。さらに大人になってフランス語を習い始め、世界的な建築家ル・コルビュジエについて知り、近代美術館がル・コルビュジエの弟子の坂倉準三氏の設計による日本のモダニズム建築の代表作だとわかってからは、地元民として見るたびに誇らしい気持ちにさせられます。
この近代美術館が3年以内に解体される可能性が出てきました。美術館は八幡 宮の土地に建っていますが、土地の貸借期限は2016年3月31日で、更地にして返還するよう契約書で定められています。緊縮財政の県は、前知事の時から契約更新をしない方針を明らかにしてい
ます。県が3館に分散している近代美術館のうちこの鎌倉館を廃止するのは既定路線ですが、美術館以外の用途で建物を残す、という選択肢がないわけではありません。新聞報道等によれば、県も八幡宮も美術館の近代建築としての価値を理解して、着地点を模索中とのことです。市民としては今後の進展が気になります。この問題、鎌倉市は当面のところ当事者ではありませんが、まちづくりの視点で関わっていくべきだと考えます。
私が昨年8月に訪ねた青森県弘前市では、坂倉準三とともにル・コルビュジエに師事した前川國男の手による公共建築物が多く残って現役で使われており、弘前市の町の魅力のひとつとなっていました。鎌倉市には歴史的、建築学的に価値がある美しい民家が沢山あり、お住まいの方の努力で維持されていますが、シンプルで均衡のとれた美しさを湛える近代美術館の建物も市民の財産として残していける道を探っていきたいものです。