知る権利をおびやかす秘密保全法案
秋の臨時国会に法案
68回目の「終戦の日」、8月15日。第2次安倍内閣が初めて迎える8月15日ということで、新聞の紙面の多くは全国戦没者追悼式での首相の式辞や閣僚・国会議員の靖国神社参拝についての記事で埋まりました。
その中で、神奈川新聞、東京新聞を含む数紙が、「政府が秋の臨時国会への提出を目指している特定秘密保全法案で、機密流出の罰則を強化」という記事を掲載しています(朝日、読売などは同内容を既報)。2010年秋に起きた尖閣沖漁船衝突事件のビデオ映像のYouTubeへの流出を好機と捉えた政府は、秘密保全法制の必要性を声高に唱え始めました。翌年8月には「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が提出した報告書の中で法制の枠組みが示され、政権交代後も既定路線として引き継がれています。臨時国会に上程された後、短期間のうちに可決してしまうかもしれません。
同法案は、
①守るべき秘密を(1)国の安全(2)外交(3)公共の安全・秩序の維持に分類。このうち「国の存立にとって重要な情報」を行政機関が「特別秘密」に指定する
②秘密を扱う人とその周辺の人々を政府が調査・管理する、「適性評価制度」を導入する
③「特別秘密」を漏らした人、それを知ろうとした人を厳しく処罰する
といったことを柱とするものと見られます。罰則の強化の例をあげれば、現行の国家公務員法が情報漏洩の罰則を1年以下の懲役または50万円以下の罰金と定めているところ、法案では、懲役5~10年とする方向で調整に入った、と報道されています。
法制の枠組みは、一昨年夏の有識者会議の報告書で概ね固まっているにもかかわらず、法案概要等はいまだに公表されおらず、今回のように報道資料で小出しにされているだけです。日本弁護士連合会や市民団体からは、法案の公表によって、反対運動が活発化することを警戒した情報隠しだという批判の声も上がっています。
公共の安全・秩序の維持に関する情報が特定秘密に
日弁連は、有識者会議の報告書を基に、「秘密保全法の問題点」として
①プライバシーの侵害 ⇒「特別秘密」を取り扱う人のプライバシーを調査し、管理する「適性評価制度」における秘密取扱者には、国家公務員だけでなく、地方公務員、独立行政法人の職員、国からの委託を受けた民間事業者や大学等で働く人も含まれ、さらには本人の家族や友人などにも調査が及ぶ可能性がある。どんな情報が「特別秘密」に指定されたかということも秘密なので、個人情報を収集・管理される人の範囲は知らない間に際限なく広がってしまうおそれがある。
②拡大解釈、恣意的な運用のおそれ ⇒「特別秘密」の対象になる情報は、「国の安全」「外交」「公共の安全と秩序の維持」に関する情報とされているが、「特別秘密」を指定するのは、その情報を管理している行政機関であるため、何でも「特別秘密」になりうる。知られたくない情報を「特別秘密」に指定して、国民の目から隠してしてしまうことも可能となる。自治体、独法などの現場では情報公開にあたり自己規制が働くこともありうる。
③マスメディア等の取材・報道の自由の侵害 ⇒「特別秘密」を漏洩する行為だけでなく、それを探る行為も、「特定取得行為」として、処罰の対象になるため、メディアの記者および研究者等の自由な取材を著しく阻害し、正当な内部告発、正当な報道を萎縮させるおそれがある
などをあげています。
8月15日に秘密保全法が現実味を増してきたという報道に接したことで、思い起こすのは戦前の治安維持法です。秘密保全法案は、1985年に国会に提出されて廃案になった「国家秘密法」(スパイ防止法)案と同じ性格を持っていますが、「特別秘密」の中に「公共の安全・秩序の維持に関する情報」を付け足したことで、より広範な一般の人々に影響を及ぼすものと懸念されます。知る権利の保障の明文化、不開示情報の範囲の限定などを盛り込んだ情報公開法の改正法案が棚上げされている一方で、議論が広まらないまま秘密保全法が成立してしまうことがないよう、今後の動きに注意を払いたいと思います。