新しい年を迎えて
メキシコとの国境に壁を作ると言ったり、イスラム教徒は入国させないと言ったりする共和党のドナルド・トランプ氏が間もなくアメリカ大統領に就任します。
ヨーロッパ諸国でも、複雑に絡み合った経済・雇用状況の行き詰まりの原因を単純化して「外側」に求め、難民・移民を排斥する傾向が強まり、右派ポピュリズムへの支持が広がっています。今年4・5月のフランス大統領選での極右の国民戦線(FN)の躍進も現実味を帯びてきました。
こうした欧米の状況の背景には、「自分たちの立場が無視されていると感じている」人々の間で、社会的にも経済的にも「より弱い」立場の人々(マイノリティーや移民)によって自分たちの暮らしが脅かされるという危機感が蔓延していることがあります。似たような構図は、日本でもヘイトスピーチや生活保護へのバッシング、インターネット上での右翼的な言論の中に見られます。本当に怒らなければならない相手は、格差社会の上層であるにもかかわらず、逆の方向に怒りが向かう傾向は大変危険です。世界的に広がるポピュリズムの潮流を乗り越えることは、市民社会に突き付けられた大きな課題だと思います。
映画監督の想田和弘さんが2014年夏に『熱狂なきファシズム』という本を出したとき、少し大げさな書名だと感じましたが、昨年の「一強」状態を盾にした強引な政権運営を見ると、全く大げさには思えなくなっていることに改めて気づきます。
思想家の内田樹さんは、安倍政権の政治手法を、「株式会社化」だと看破しています。営利企業では最高経営責任者に全権が委任され、従業員の同意を得なければ経営方針が決められないなどということはありません。選挙の得票率で相対的に与党が野党を上回れば、官邸に全権が委任されたと解釈し、立法府(国会)での決定過程を丁寧に行うことなどは非効率と見なす。これは、営利企業の管理システムをそのまま政治過程に適用した発想です。内田さんは、行政府の長と立法府の長が同一人物であることが独裁制だが、それが意味することの恐ろしさに国民もメディアも気づいていない、と歎じています。内田さんの抱く危機感はとてもよくわかります。
日本社会において、国家の統治システムも営利企業のようであるべきだと容易に信じてしまう層は、サラリーマンを中心にかなり厚いと思われます。
上述の「官邸への全権委任」とは別の角度の話ですが、「行政は株式会社のようであっていいのか」という問題意識で自治体経営について触れます。
行政改革が叫ばれるようになってこの方、「民間並みにやれ」という掛け声が、至る所で絶えず発せられています。無駄が多い放漫な行政運営を改めるのは当然のことです。「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と地方自治法第2条の14項に定められているとおりです。
しかし、自治体は、利潤の追求を目的とする民間企業とは違います。採算が取れない部門を採算が取れないという理由だけで切り捨てることはできませんし、非効率にならざるを得ない現場、効率化が馴染まない現場も抱えているのが、自治体経営だと思います。
「民間並みにやれ」という掛け声は、民間企業の業務遂行の懸命さを見習って襟を正せ、という意味ではその通りですが、民間企業とはそもそもが違うという前提は踏まえるべきです。
会社経営者がアメリカ大統領になる新しい年の初め。今更申すまでもないことを敢えて書きました!