鎌倉市の地域拠点校構想について考える

前の記事で「地域拠点校選定の考え方(素案)」の概要を書きました。
ここでは、地域拠点校構想の課題、今後に向けた留意点について所感を述べたいと思います。

1.中身の問題
①制約が多く、限られた選択肢
今回の素案で、地域拠点校の一次抽出結果を見ると、当然ながら、複合化する施設(2000㎡程度を想定)を整備するだけの余裕が学校用地にないところはふるい落とされています。
また、いくつかの学校が立地する第一種低層住居専用地域・第一種中高層住居専用地域の建築物の用途は、建築基準法により、住宅、学校、図書館等に限られ、地域拠点校の機能とされている多世代交流スペースが含まれないことも、選定結果に反映されました。
一方で、評価条件で「×」が付く津波想定浸水範囲にある学校が選定されています。

要するに、選択肢が限られた中からマイナスポイントが少ないところが選ばれた訳ですが、施設の集約化を学校施設に求めたこと自体、「無理を承知で」の感を否めません。
素案では、学校施設複合化についての文部科学省の報告書について触れられています。
その中で紹介されている都内や市川市の事例を見ると、鎌倉市の学校よりも物理的、法的な制約が少なく、鎌倉市では到底同様にはできない、という印象です。
また、そもそもの取組み方針にある「学校機能を損なわないために工夫や配慮を行いながら」という前提が、高層化などが考えられない鎌倉市では高いハードルでもあります。

今後、地域拠点校の整備を進めていくに際しては、各地域の固有の状況とニーズに配慮して、修正や見直しを繰り返して柔軟に進めていくことが望まれます。

 ②身近なところの「場」の確保も
また、大きな問題として、市民活動、地域活動、生涯学習のための集いの場(地域活動支援機能)は、拠点校に集約するだけでよいのか、ということがあります。
特に地域の見守り活動のような地域密着型活動の拠点としては、小さな集いの場が身近なところに必要です。
地域拠点校構想とは別に、空き家、空き店舗、空きスペースの利活用も視野に入れた「場」の確保を公民連携で考えていきたいと思います。

2.他の施設の整備計画との関係
①学校施設の整備
拠点校構想が打ち出された当初から、拠点校に選定された学校とされなかった学校との間で施設整備の格差が広がることへの懸念の声が上がっています。御成小学校、第二中学校、大船中学校を除く市立小中学校22校の築年数の平均は42.1年で、経年劣化が進んでいます。拠点校に選定されたという理由で建替え、大規模改修の順序を早めるのではなく、教育部が全校を視野に建替え、大規模改修の検討を進め、公共施設再編(またはファシリティ・マネジメント)の担当がこれと連携していくことが大切です。

②図書館の整備とあり方検討
行政センターの中にある市立図書館分館が、拠点校に図書館機能が集約されることで変質することを懸念する声もあります。
図書館については、中央図書館と分館の役割分担も含めて、全体的なあり方を考えていかなくてはなりません。

築年数が40年を超え、構造耐震指標(is値)が0.55の中央図書館は、2015年度にis値改善の耐震設計が実施され、耐震工事が予定される一方で、市役所本庁舎の現在地からの移転にともない、本庁舎跡地への移転・改築もありうる状況になっています。
未確定要素が多い中、たとえ1校であっても分館の拠点校への集約化が先行して、後に齟齬が生じることがないように、施設整備を複線的に見ていく必要があります。

3.進め方の問題
①行政センターの廃止との関係
行政センターの地域活動支援機能や生涯学習機能は地域拠点校に移り、支所の窓口機能は、証明書類のコンビニ交付に移行するとされ、行政センターは廃止の方向です。
しかし、地域拠点校の整備時期は、行政区によって大きく異なります。
ある地域では行政センターが廃止され、ある地域では存続するという変則的な移行期が長期化することに留意しなくてはなりません。

また、そもそも、証明書類の交付をコンビニ交付に全面的に移行することについての市民合意が必要ですし、高齢者への配慮が望まれます。

②素案の策定過程
最後に、素案の策定過程についてです。
素案は、学識経験者、学校教育・社会教育関係者、公共的団体関係者からなる地域拠点校選定委員会で検討されました。
同委員会は、今年1月までに4回開催され、2月9日現在、第3回までの議事要旨が市のホームページに掲載されています。これを見ると、委員の間で様々な意見が交わされてきたことがわかります。第4回の議事録は確認できませんが、もっと議論を深める必要性を感じている委員もいるのではないかと推察されます。
委員による市内の学校の視察は2校にとどまっており、策定スケジュールのタイトさを感じます。

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以上、いろいろな角度から地域拠点校について考察しました。
現在実施中の素案のパブコメに、様々な立場から沢山の意見が寄せられることを願います。