鎌倉市議会が、甲状腺被爆を防ぐ安定ヨウ素剤の配布を求める陳情を採択

鎌倉市議会6月定例会に、市民団体から「市備蓄の安定ヨウ素剤の事前配布と乳幼児用ゼリー状安定ヨウ素剤導入を求める陳情」が提出されました。
陳情は総務常任委員会に審査付託され、6月25日の同委員会で総員賛成(退席2名)によりで採択され、同29日の最終本会議で賛成多数で採択されました。

安定ヨウ素剤とは? 
原発の事故で放出される放射性物質には多くの種類がありますが、事故の初期に大量に放出される放射性ヨウ素131が甲状腺に取り込まれると、甲状腺がんや他の甲状腺の病気になるリスクが高まります。首の前面にある甲状腺は、成長に不可欠なホルモンを出す臓器であるため、成長が活発な小さい子どもほど大きな影響を受けます。

放射性ヨウ素の吸収を防ぐには、あらかじめ放射性ではないヨウ素によって甲状腺を飽和状態にしておくことが有効です。
日本医師会のガイドラインによれば、放射性ヨウ素被爆の24時間前に安定ヨウ素剤を服用した場合、90%以上の放射性ヨウ素を阻止する効果がある一方、被爆後24時間後の服用だと7%の阻止効果しか認められないとのことです。

安定ヨウ素剤

鎌倉市の現状
国の方針では、安定ヨウ素剤を、原発から5キロ(PAZ)圏内では住民に事前配布、30キロ圏内(UPZ)では保管施設に配備することになっています。
鎌倉市は原発30キロ圏内には位置していませんが(原子力艦船が入港する横須賀港からは10㎞余)、万が一の事態に備え、40歳未満の市民6万人に行きわたらせる計算で、安定ヨウ素剤11万錠を市役所内に備蓄しています。
原発事故発生等の緊急時には、応急救護所(避難所である市立小中学校から12カ所を指定済)に分散配備して薬剤師会の協力を得て対象市民に配布するとしています。

市民からの要望は、事前配布
陳情は、事故時の混乱の中で、被爆を恐れながら配布場所まで安定ヨウ素剤を取りに行くのは困難であり、折角備蓄した安定ヨウ素剤が行き渡らなかったり、効果を発揮するタイミングで服用されなかったりするおそれが大きいとして、薬剤師等立会いのもとでの事前配布を市に求めたものです。
また、市は3歳以下の乳幼児には丸薬を割って与えるとしていますが、乳幼児用ゼリー状安定ヨウ素剤を市が購入して配布することも要望しています。
陳情団体は今年2月、鎌倉市内で安定ヨウ素剤の自主配布会を医師立会のもとで実施、当日は約400名の参加があり、約12,000錠が配布されたとのことです(写真参照)。
小さいお子さんのいる家族を中心に、市民の関心は大変高いと訴えています。

「ぐるぅぷ未来」facebookより

配布方法の工夫は可能
原発30キロ圏外の自治体では、兵庫県篠山市が2016年1月に全国で初めて安定ヨウ素剤の説明・配布会を開催し、事前配布を始めています。
国外に目をやれば、国内2箇所に老朽化原発があるベルギーで、政府が今年3月、国内のほぼ全域の希望者に対し、安定ヨウ素剤の薬局での無料配布を始めたとのことです。
また、ベルギー原発に近いドイツ西部のアーヘン市が、50万人の住民を対象に、市のウェブサイトで引換券を申し込めば、安定ヨウ素剤を薬局で無料で受け取れるようにしたとの報道もあります。

30キロ圏外でも、市独自の判断で
陳情への反対討論では、「事故等発生時に鎌倉市に影響を及ぼす原発はない」という発言もありましたが、事故後に放射性物質を含むプルームが風に乗ってどこまで移動するかは予測できません。
チェルノブイリ事故では、原発から280キロ離れた村が汚染により廃村になった例があります。
中部電力が4号機、3号機の安全審査を申請している浜岡原発と鎌倉市の直線距離は150キロほどしかありません。

鎌倉市には、市民からの要望を市議会が賛成多数で支持したことを受けて、臆することなく事前配布に向けた検討を進めていくことを求めます。