鎌倉市議会2月定例会(中間振返り②) 北鎌倉隧道安全対策の調査結果を踏まえた工法案が示された

2月28日の建設常任委員会では、鎌倉市が2017年度に日本トンネル技術協会に委託した「北鎌倉隧道安全対策検討業務委託」の報告書(概要版)が示されました。http://kamakuracity.gijiroku.com/g07_Video_View.asp?SrchID=1772
(1:53:50(1時間53分経過後から)

今回の報告書所収の隧道工事の緑化イメージ図

 今回の報告書に至る経緯
2016年7月の鎌倉市文化財専門委員会において「隧道が位置する尾根には文化財的価値がある、史跡指定を目指すべき」という判断が示されたことから、鎌倉市は、隧道の安全対策としてそれまで進めてきた開削工事を中止し、工法の見直しを行うことを決めました。

その結果、2017年3月の北鎌倉隧道安全対策検討委員会において、
ライナープレートによる仮設工法が了承されるとともに、
本設の工法案として①小型自動車通行案 ②救急車通行案 ③歩行者のみ通行案の3案が示されました(これら3案は、同月末付で取りまとめられた安全対策検討業務報告書に所収)。

翌2017年度に協会に新たに委託して行った安全対策検討業務では、2018年1月になって安全対策に係る関係地権者から調査実施への理解を得られたことから、同年3月~5月に地形測量・地質調査が実施されました。

今回の報告書では、2017年3月に示された3つの工法案(業務委託が平成28年度であったことから「H28案」と略)に、この地形測量・地質調査を踏まえた検討による変更を加えた工法案(同様に「H29案」と略)が示されました。

 

どのような変更があったか
H2829案は、
ア)隧道内部(山側)を削って拡幅し、通行に必要な断面を確保する点
イ)トンネル内部の空間にコンクリート等による覆工を行う点
ウ)厚さの薄い部分があるJR側の側面及び坑口付近を人工地山(エアモルタル等)で補強する点
エ)トンネル構築後に表面に擬岩処理を行って現況の岩肌に似せる点
等においては変更がありません。

一方、変更点(上記①~③の通行案に共通)の概要は次のとおりです。
【トンネル本体の構造補強】
H28案では、「隧道上部の切土が極力発生しないよう、トンネル線形を折り、坑口付近の安全確保のためにトンネルの延長を長くする」ことが推奨された。
これに対し、H29 案では、地質調査において「不安定土塊」「ゆるみ土塊」が確認されたため、これらを除去してトンネルの構築をすることにより、H28案よりトンネルの延長が短くなり、形状が直線になった。

【尾根部の落石防止】
H28案であがっていた崖面全体の安全対策H29案では行わず、不安定土塊・ゆるみ土塊を除去した上で補助工法(ロックボルト工)を併用し、大船側坑口のオーバーハング部は人工地山で支持することになった。

【尾根表層の対策】
地質調査で落石の発生源となる浮石や転石が確認されなかったため、H28案であげられた「厚ネット+植生マット工法」から、H29案では植生マット工のみとなった。

 3つの通行案への評価は?
H29案における①小型自動車通行案 ②救急車通行案 ③歩行者のみ通行案 の比較表を見ると、
③歩行者のみ通行案に対しては「車両が通行できなくなるため、地域の安全や生活の利便性は低下する」とH28案とほぼ同じ記載があります(但し、H28案では「×=計画上許容できない」であったのが、H29案では「△=計画上許容可能」になっている)。 

一方、トンネル部の工事を山岳工法(吹付けコンクリート+鋼製支保)で行うことに関連し、
①小型自動車通行案が「鋼製支保の間隔に一部狭い箇所があるが、設置間隔を工夫することで施工可能」と「〇優れている」になっているのに対し、②救急車通行案は、「吹付けコンクリートの密実な充填施工が行えない可能性がある(これを回避するために支保工間隔を広げる場合は、坑門まで影響し景観が大きく変わる)」とされて「△」が付き、評価が低くないっています。

建設常任委員会の委員外席からの質問で確認したところ、2019年度は、この3通行案(トンネル計画)について、関係地権者と話合い、また市民の意見を聞く会を開催して意見を聴取し、市の方で1案に絞り込んでいくとのことです。
市民意見の聴取が、形式的なものに終わらず、中身のある議論を踏まえたものになることを望みます。

 H29案をどう受けとめる?
建設委員会で報告を聞き、報告書(概要版)に目を通しただけの現段階では、工法の詳細についての理解は深まっていません。

ただ、H29案の緑化イメージ図は、鎌倉市が2015年8月にトンネル協会の安全性検証等業務の中間報告を受けて開削を決めた際に報告書中に掲載された「対策工」のイメージ図が、「補強案でも外観は人工的なものとなり、景観の保全にならない」という開削工法選定理由の一つを裏付けるものであったのとは異なり、「これなら良いかもしれない」と思わせる意図が見て取れるものだと思います。
開削方針で行こうとしていた時と、トンネルを山側に拡幅するが開削はしないという方針の時との違いが対照的です。

隧道が存する尾根の文化財的価値について説明を受けたいという地権者からの求めにより、2月6日に文化庁の文化財調査官が鎌倉に来られ、意見交換が行われたそうです。
意見交換の後に市がH29案の3通行案を文化庁側に示し、「文化財的価値の保全方針と整合する」との見解を得たとのことです。

北鎌倉隧道について私は、安全性(付随して住民の利便性・通行の確保)と景観保全(付随して文化財的価値の保全)の両方を追求する中で、どこに着地点を見出すか、という問題だと一貫して考えているので、H29案提示後の展開を注意深く見ていきたいと思います。

同じくイメージ図