鎌倉市、スーパーシティにエントリーを決定  ~それが今選ぶべき道なのか?!

ついに手上げを決めた鎌倉市
政府が進める国家戦略特区の新形態であるスーパーシティは、「AIやビッグデータなど先端技術を活用し、都市内の様々な事業やサービスに共通に使用できるデータ基盤を整備することによって、社会の在り方を根本から変えるような都市を設計すること」であり、「大胆な規制改革等によって、世界に先駆けて未来の生活を先行実現する『まるごと未来都市』を目指すもの」だとのことです。
その問題点については、本サイトで再三取り上げてきました(末尾参照)。

この間、松尾市長は「スーパーシティの区域指定にエントリーするかどうかは、公募要領が示されてからの判断になるが、速やかに判断できるような準備はしておく」としてきましたが、1月28日の神奈川ネットとの意見交換の席で「12月末に政府から公募要領 (注1) が示されたことを受け、鎌倉市としてスーパーシティの実現に向けた提案を行う(=エントリーする)」と明言しました。
その翌日の1月29日には、スーパーシティ指定への応募を共に行う連携事業者候補の公募 (注2) が公表されました。

注1【スーパーシティ型国家戦略特区への指定を希望する自治体の公募】
スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する公募について (kantei.go.jp)

注2【自治体(鎌倉市)による連携事業者候補の公募】
鎌倉市/鎌倉市スーパーシティ構想に係る連携事業者公募のお知らせ (city.kamakura.kanagawa.jp)


スーパーシティへの指定で一挙に解決…ということは到底考えられないが
1月28日の市長の説明によれば、鎌倉市は、スーパーシティに指定されることで人口減少・少子高齢化への対応交通渋滞緩和・観光適正化(オーバーツーリズムの解決)気候変動・災害激甚化への備え の3つの課題の解決をはかり、行政のデジタル化を進めるのだそうです。

応募する自治体は、提案書の中で、スーパーシティ構想の概要と共に、個別事項としてスーパーシティで展開する「複数分野の先端的サービス」や「広範かつ大胆な規制・制度改革の提案」について記載します。ロードプライシング、キャッシュレス、自動運転、ドローン配送…一体どんな先端的サービス・規制緩和を考えているのでしょうか。それは市民が望むもの、あるいは市民生活の課題を解決するものなのでしょうか?!
神奈川県内では小田原市が昨年11月にスーパーシティに名乗りをあげましたが、藤沢市は検討の結果、名乗りをあげないことを決めたようです。

なお、複数分野での先端的サービスを連携させるのが「データ連携基盤」で、スーパーシティの要と位置付けられますが、同時に個人情報が集約されるブラックボックスになりうるものです。

内閣府「スーパーシティ構想について」抜粋


複雑な仕組み、アーキテクト・連携事業者・データ連携基盤…
内閣府が示した公募要領には、自治体が提案を行う際の必要事項として、次の2つが盛り込まれています。
地域課題の設定、事業計画の作成、先端的技術の活⽤など、スーパーシティ構想全体を企画する「アーキテクト(全体統括者)」が存在していること(※例:つくば市は筑波大学のシステム情報系教授を選任)
データ連携基盤整備事業および先端的サービスを実施する主要な事業者の候補が、自治体の公募により選定されていること。また、これらの事業者の候補が、その構想を実現するために必要な能⼒を有していること。(※例:つくば市jigoyusha51.pdf (tsukuba.lg.jp)

鎌倉市が連携事業者候補の公募を開始したのは、このように決まっているためです。
わかりにくいことに、自治体がスーパーシティの公募にエントリーする際に選定しておく連携事業者は、あくまで候補であり、スーパーシティに区域指定された場合、指定後に設置される国家戦略特別区域会議において改めて事業者の公募による選定が行われるとのことです。要するに国は、「提案(エントリー)にあたっては、しかるべき民間のパートナーがいて、そのパートナーにやってもらえる事業なのだという証拠を示せ」と言っているのでしょう。

何を危惧するのか
鎌倉市がスーパーシティの事業展開をグリーンフィールドである深沢地域整備事業用地を舞台に行ったら大々的なものになるでしょう。しかし、スーパーシティの区域指定と深沢地域整備事業の進捗とはタイミング的にずれているので、それはありません。実際に鎌倉市は「スーパーシティに取組む場合は既成市街地(ブラウンフィールド)から始める」と言っています。

ですから、これまでの例(SDGs未来都市)からして、提案する「複数分野の先端的サービス」は、そんなに大掛かりなものではないと推測します。しかし、だから影響が少ないとは思いません。

危惧するのは、次のようなことです。
① 展開する複数分野の先端的サービスが大掛かりなものではないにかかわらず、行政の仕組みが大きく変わってしまうこと。民間事業者による「ミニ独立国家」(竹中平蔵の発言)により「公共」がゆがめられること。

②データ連携基盤を運営する事業者に市民、市内企業の情報が集積されること。
鎌倉市も国もデジタルデバイドの解消を強調しているが、デジタル化を敬遠するのは、デジタル技術を使えず、デジタル技術の便利さを知らないからだと決めつけるのは誤り。
管理社会化が進むこと危惧するゆえに、歯止めの利かないデジタル化やデータ集積を警戒する市民がいることを認識すべき。

③先端的サービスの提供のために、安全性が立証されていない5Gの電波の広範な利用が早まること。

今後のスケジュールとしては、連携事業者候補募集の結果通知は2月22日、国へのエントリー(提案)締切は3月26日とされています。
鎌倉市の連携事業者候補公募のページには「個人の生活や権利、そして安心・安全を最優先にした、自己決定権を尊重したまちづくり」とありますが、スーパーシティはそれとは逆方向のものとしか思えません。間もなく始まる2月議会でもスーパーシティを取り上げていくつもりです。
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2020年6月19日「リスクにも目を向け、スーパーシティへの手上げは慎重に」
・  同      5月28日「スーパーシティ法の成立で鎌倉市はエントリーに進むのか」
・  同      1月27日「鎌倉市は本当にスーパーシティをめざすのか」
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