鎌倉市の新型コロナワクチン接種会場へのタクシー代助成

鎌倉市議会2月定例会最終日は3月19日から20日に延会となり、深夜の0時47分に新型コロナウイルスワクチン予防接種事業の補正予算案の採決が行われました。
補正予算案には、集団接種会場へのタクシー代として2.5億円が計上されていたため、異論が噴出して長時間の議会となりました。既に1週間以上が経過していますが、複数の方から紛糾の理由や経緯についてのお問合せをいただいたので、整理してお伝えします。
コロナワクチンリーフレットのサムネイル

 

1)補正予算の内容
国は、新型コロナウイルスワクチンの接種について、
「臨時接種」と同様の趣旨(疾病のまん延予防上緊急の必要)で実施
原則として接種勧奨の実施と接種を受ける努力義務を適用
必要に応じて、例外的に適用しないことも可能  ―としています。

そして、市町村の役割を次のように規定し、「ワクチン接種の実施に当たっては、地方自治体の負担が生じないよう、国が必要な財政措置を講ずる」としました。
医療機関との委託契約、接種費用の支払
住民への接種勧奨、個別通知(予診票、クーポン券)
接種手続等に関する一般相談対応
健康被害救済の申請受付、給付
集団的な接種を行う場合の会場確保

鎌倉市では、国の補助金を受けてワクチン接種事業の実施に向けた準備を行うため、1月臨時会(1月22日)が招集され、予防接種事業に係る経費10億5600万円の補正予算が成立しました。
このうち8億1600万円が接種費用、約1億円がコールセンターの設置費用でした。

その後、国がワクチン接種事業にかかる補助金上限額の増額を提示してきたことから、2月定例会の終盤になって、追加経費の補正予算案が組まれ、最終日の19日に議案上程、委員会審査、本会議採決が行われることになりました。

今回の補正予算の総額は6億2000万円で、主な追加経費は次のとおりでした。
集団予防接種会場(計8か所)整理員人件費 2億6000万円
コールセンター増員分の委託料           3000万円
システム改修委託料の追加            400万円
タクシー助成にかかる経費          2億5000万円

2)タクシー券は全額市費!
問題になったのは、65歳以上の市民を対象に、集団接種会場へのタクシー代を市が全額負担する費用です。
運賃片道1,000円(迎車料金は300円)で計算し、2回接種で2往復、それが65歳以上の人口5万5千人分で2億5千万円という算定です(片道運賃が1,000円を超えても満額助成)。

市の説明は、
 4月23日を目途に、65歳以上の市民に宛て接種券、ファイザー社のワクチンの説明書とともにタクシー券を郵送
市は、(一社)神奈川県タクシー協会鎌倉支部と委託契約を結ぶ。利用者は、支部加盟のタクシー会社から選んで予約する。タクシー会社はタクシー券が使われた分(利用額)を市に請求する
ファイザー社製ワクチンは保管や配置数の管理が難しいため、鎌倉市では集団接種場での接種とし、会場は福祉センター・御成小・腰越小・武道館など市内8か所を予定している
徒歩や公共交通機関では接種会場に行けない高齢者が予想されるので、接種を希望しても受けられないことがないようにタクシー助成を行うことにした
補正予算の他の経費については国の補助金を充当できるが、タクシー助成は補助金の対象となる支出ではないため、全額市費で賄う。市の財政調整基金を繰り入れ、コロナウイルス感染症対策基金も一部取崩す
ーというものでした。

集団接種会場のひとつ、福祉センター

3)批判的意見が相つぐ
予備審査の観光厚生常任委員会、付託審査の総務常任委員会では、タクシー助成に対する批判的な意見が噴出しました。

  • 接種券郵送時にタクシー券が同封されていると、接種しなくてはならないと受け止められるのではないか
  • 国の補助対象外であるにもかかわらずタクシー助成を行うのは、行き過ぎた接種の勧奨にならないか
  • 一律に送り付けるのではなく、「必要な人はコールセンターに申し出てください」ではダメなのか
  • コロナ禍の影響を受けたタクシー事業者を支援する意味合いがあるのではないか ― 等々です。

私も、タクシー助成に2億5千万円をつけるべきではない、という意見でした。
「タクシー助成が、改正予防接種法で市町村の役割とされた『住民への接種勧奨、個別通知』を逸脱する行き過ぎた接種勧奨かどうか」という議論はさておき、予算規模が大きすぎることは確かで、そこが一番の問題です。

接種会場に行くためのタクシー代を助成する自治体は、鎌倉市のほかに全国で11自治体程度しかないとのことです。総務常任委員会では、それらの他市の事例をあげて「大盤振る舞い」に疑義を呈する意見を述べました。他市では、一定額の自己負担を求めたり、対象者を介護保険サービス利用者に絞ったり、助成する運賃の上限を設けたりしており、事業規模は1千万円~数千万円台です。

利用者には、バス代相当の400~500円程度の自己負担を求めてもよかったはずです。また、実際の利用者が5.5万人のうちの何割程度かを推計して予算規模を設定するべきだったと思います(例えば、利用する人が20%であれば5千万円)。

市も、同封の案内文に「徒歩や公共交通機関で接種会場に行けない方はタクシー券をご利用ください」という趣旨の記載をする、と言っていますが、「およそ〇割程度の方のご利用を見込んで予算化しています」と明記すれば、受け取る側も判断しやすくなったに違いありません。

4)総務常任委員会と本会議で減額の修正案
総務常任委員会と本会議は、次のような展開でした。

  • 総務常任委員会では、高野委員長が補正予算案(6億2000万円)からタクシー助成費用(2億5000万円)を減額する「修正案」を提出しましたが、賛成2、反対3で少数否決となりました(保坂は交代で委員長を務めたため、この表決は行っていない)。
  • その後開かれた本会議では、動議により、再び同じ内容の修正案が提出されました(余談ですが、この時提案理由の説明を行った議員が、総務常任委員会で提案された時の文言をそのまま読み上げたのには驚きました)。
    神奈川ネットの保坂と安立を含む10人が修正案に賛成しましたが、13人が反対で少数否決。
  • 修正案否決後、原案の採決が行われ、賛成多数で可決。

神奈川ネットは、修正案の否決を踏まえて、原案の採決では賛成しました。修正案にも原案にも、タクシー助成費用以外のワクチン接種にかかる経費が盛り込まれているためです。

新型コロナウイルスのワクチンは、従来の生ワクチン、不活化ワクチンとは全く異なるmRNAワクチンであり、身体への未知の影響についての懸念が払しょくできないため、個人的にも会派としても接種を積極的に推進する立場ではありません。しかし、高齢者の多くが早期の接種を希望され、また感染を恐れて外出を控えることによる体力の低下が心配な方がいらっしゃるのも事実です。議会として(過剰な額のタクシー券は別にして!)接種関連予算を認めることは必要だと判断しました。

 

5)鎌倉市のコロナ対策関連予算について
昨年来、鎌倉市が独自に打ち出したコロナ対策関連事業には、
・中小企業家賃支援補助金
・鎌倉応援買い物・飲食電子商品券「縁むすびカード」事業
・新生児とおなかの中のあかちゃんのための特別給付金
などがあります。
このうちの中小企業家賃支援補助金は、国の動きが遅い中で少しでも早く支援を行うことに努めた点では評価しているところですが、これらの事業には、「県内でもここまでやっているところは少ない」あるいは「他市の同種事業と比較すると金額や規模が突出している」という共通点があります。これに加えて今回のタクシー助成です。

コロナ禍の市民生活を支援する、地域経済の下支えをはかる―という趣旨はわかりますが、思い切った予算をつけることを「見せる」意図が働いているように思えてなりません。
このことに対する危惧が、タクシー助成に反対した根底にあります。