携帯電話中継基地局の位置をいつまで非公開のままに? ― 2022.8電磁波特集 ⑦

市有財産に設置させている基地局の位置情報の公開請求訴訟、来月判決
基地局設置のために携帯電話会社に貸し付けている市有財産(土地・建物)の位置情報を鎌倉市長が非公開としたことを違法として公開を求めた訴訟は、提訴から2年近くが経過し、9月14日がいよいよ地裁判決期日です。

この訴訟については、本サイトの「携帯電話中継基地局に使わせる市有財産の所在地を非公開にするのはおかしい (1)2020年9月23日 (2)10月20日 (3)10月31日」 の3本の記事で報告しています。(各記事には、カテゴリーの「5G・携帯電話中継基地局」からアクセスできます。)

鎌倉市が、行政文書に記載されている基地局の位置(住所)を非公開としていることに対しては、本件提訴の10年前から異議を申し立てています。その経緯は上記(2)の記事で紹介しています。
また、本件訴訟の原告としての中心的な主張は、上記(3)の中で述べているように、「鎌倉市の行政文書に記載された携帯電話中継基地局の位置情報は非公開情報に当たらない。公有財産を基地局の設置に使わせている場合は、その位置情報はなおさら公開すべきである」というものです。

 

行政は透明性を求められる
8月14日付記事(特集④)では、フランスのアベイユ法を紹介しました。正式名称は、「電磁波のばく露に関する節度・透明性・情報及び協議に関する法律」です。フランスの法律は透明性が重要であることをしっかりと押さえています(もちろん設置場所が公有か民有かを問わず、すべからく重要ということです)。

翻って鎌倉市はどうでしょうか。
せっかく条例を作ったのに、施行直後に後出しジャンケンで(=条例案提案時には一緒に示さずに)基地局の位置を非公開にする「取扱い基準」を公表しました。そして、まさか市有財産に設置されている場合は隠さないであろう…という予想も裏切りました。

本件訴訟の事案である情報公開請求は、公有財産を民間会社に使用させる行政運営に関わるものです。行政手続法は第1条において、透明性を「行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう」と定義しています。民有施設に設置する場合とは格段の違いで透明性を求められているのです。

 

行政は民間の手本にならなくてはいけない
もう一つアベイユ法から学ばなくてはならないのは、節度という考え方だと思います。

今日、基地局をどこにも設置すべきでないなどとは言えません。しかし、地権者がOKなら闇雲にどこに設置しても構わない、というものではないでしょう。
基地局からの距離や方向によっては、1桁または2桁の(=小数点以下でない)μW/㎠の電磁波を浴びる環境で生活する人が出てきます。特に、土地や建物の高低差等により、居室の窓の外の同じ高さのところに基地局のアンテナが見える場合は要注意です。
節度を謳ったフランスの法律は6V/m(10μW/㎠に相当)を超える測定地点に関し、電磁波の強さの低減を事業者に求めています。低減策は、その場所を設置場所としないことも含め、様々なレベルで講じられます(特集④参照)。

自治体が、公有財産を基地局の設置に提供するよう、国から促され、事業者から求められていることは承知しています。しかし、それを社会的な要請と捉えて機械的に公有財産を提供(貸与)するのか、住民の生活環境に配慮する視点で貸与に適した場所かどうかを立ち止まって検討するのかで、自治体の姿勢が問われます。

私は後者であるべきだと考えます。

鎌倉市が基地局設置に提供している市有財産の位置を公開するのは(公開と言っても、ホームページに一覧を掲載するといった積極的な公開ではなく、情報公開請求に対して墨塗りにしないという、ハードルの低い話なのですが…)、「市有財産の貸与」が適切であるかどうかを市民に判断してもらう材料を示すことに他なりません。

気になる実例からも、今後に備える
実際に問題のある事例をあげます。

1つは、特集③で紹介した、6月議会に陳情があがった基地局設置計画です。近接住民が法務局で土地の登記を調べたところ鎌倉市の土地であることがわかったので、土地を携帯電話会社に貸さないことを市に求める陳情を行ったものです。
写真を再掲しますが、市有地の面積が狭小なため隣地のアパートに寄せたところが設置場所となっており、居室とあまりにも距離が近いのは一目瞭然です。

電磁波が「かなり強い」場所が生じるおそれ

また、訴訟係属中に基地局を設置している道水路管理課所管施設を「目視」で調べました。七里ガ浜浄化センター屋上の基地局と隣の七里ガ浜小学校との位置関係がどうしても気になります。設置事業者に小学校の教室の電波密度を計測するよう求める必要があります。

手前の白い建物が小学校、奥の茶色い建物が浄化センター

5Gの通信エリア拡大に向けて、事業者は基地局を密集して設置する必要があります。自治体にも設置場所の提供を求めてきます。周辺環境への影響が過大になる恐れがない適地ならよいですが、そうでない場合は「貸さない」という選択をしやすくするためにも、基地局設置に貸与する市有財産の位置は公開するべきです。