新庁舎基本設計の業務委託~契約議案 賛成討論

新庁舎等基本設計及びDX支援業務の業務委託契約の締結に係る議案は、先の12月定例会本会議(12月23日)において賛成多数で可決し、鎌倉市は(株)日建設計と本契約を締結しました。

議案採決に先立って2名が賛成の、3名が反対の「討論」を行いました。
保坂が行った賛成討論の全文を掲載します。
(約13分の中継録画はコチラ 録画映像を見る(録画映像) | 鎌倉市議会 映像配信 )

普通なら、契約議案の賛成討論で判例の解釈を述べたりなどしないのですが、「従来とは異なる位置での新庁舎の開庁は、庁舎の位置を変更する条例が成立しないままではできない」ということを「位置条例の改正がないまま新庁舎整備の基本設計の経費を支出するのは違法だ」にすり替える主張が議会で大手を振るのは市民を惑わすことになるので、このことにも言及し、やや長い討論になっています。
便宜「見出し」を付けていますが、見出し以外は発言のままです。

議案第42号についての討論
議案第42号業務委託契約の締結に賛成の立場で討論に参加します。
新庁舎の基本設計とDX支援業務を、公募型プロポーザルにより最優秀提案者として選定され、優先交渉権者となった(株)日建設計に委託する契約です。

1.基本設計に着手することは本庁舎整備事業の進め方として妥当性を有すること
(1)判例から導き出されること
2022年の12月議会で市役所の位置を深沢とする条例案は出席議員の3分の2の特別議決のラインに届かず否決されました。位置条例改正条例が成立していない状態で基本設計の業務委託費を支出することを違法だとする指摘がありますが、これは、裁判判例で示された司法の判断からは導き出されない指摘です。

横浜地裁所令和6年3月27 日判決のポイントは、
市役所の移転事業に関係する支出は、市役所の位置を定める条例の改正案の議決がされる前においても、改正案の否決後においても、当然に違法になるとは解されない。支出が違法であるか否かは、当該支出をすることの合理性や必要性の有無等に即して検討すべきものである ということです。

この判決には「位置条例改正案の審議に先立って、移転の必要性を調査したり、市役所の移転先や移転後の本庁舎の概要等を検討したりするために市役所の移転事業に関係する支出をすること自体はあり得る」と書かれていますが、この文言は、
「移転の必要性の調査」や「移転先や移転後の本庁舎の概要等の検討」などは「市役所の移転事業に関係する支出」だが、
庁舎の基本設計以降の取組みは「市役所の移転事業に関係する支出」ではない
―という線引きをしているものではありません

その後に続いて「これらの支出が違法であるか否かは、当該支出をすることの合理性や必要性の有無等に即して検討すべき」という重要な部分を述べるために「『移転の必要性を調査したり、市役所の移転先や移転後の本庁舎の概要等を検討したりする』そういうことだってありうる」と説明している、そのような文脈だと捉えるべきものです。

また、本年2月定例会で本件新庁舎等基本設計等事業費予算を含む令和6年度一般会計予算は多数の賛成により可決し成立しているのですから、予算上の裏付けがあるという意味でも、基本設計に取組むことに法的な疑義を呈する主張には無理があります。

では、基本設計費が無駄遣いの誹りを免れなくなるのはどのような場合かというと、それは、基本設計等が完了した以降のどの段階かにおいて、「深沢に新庁舎を整備するのはやめます」と整備事業を白紙撤回した場合です。本件支出に関する住民監査請求に対する監査委員の監査意見はこのことを述べており、全く道理にかなった意見です。

(2)鎌倉市における支出の合理性・必要性
「支出が違法であるか否かは、当該支出をすることの合理性や必要性の有無等に即して検討すべきものである」という部分が横浜地裁判決のポイントだということを指摘したので、鎌倉市におけるその合理性および必要性とは何かということについて改めて述べますが、この際付け加えると、「市長の裁量権」という考え方も、「市長は自分がやりたいと考えればできることの範囲が広い」などということを指すものではなく、「自治体に固有の事情に照らして合理性や必要性があるかどうか」の判断は尊重される、ということを言っているのです。

鎌倉市の場合は、
東日本大震災後に自治体の庁舎が防災面で機能することの重要性の認識が高まる中、老朽化し、狭いことが大きな課題となっている本庁舎を、風致地区の高さ制限や埋蔵文化財に影響を及ぼす工法が取れないなどの土地利用の制約から現在地で建替えることが困難であること、
建物の長寿命化改修では、元々狭い庁舎の執務スペースがますます狭くなり、狭いこと自体が防災面での脆弱さであるという現庁舎の課題を解決しないということが、深沢に新庁舎を整備する合理性・必要性として真っ先にあげられます。
津波浸水想定区域が現庁舎敷地の間近に迄及んでおり、かといって現在地に十分機能する防災庁舎が作ることが困難であることも固有の事情としては大きいです。
能登半島地震の被災状況を見ても、災害時に業務継続ができ、救援・復旧の拠点として 十分な機能を発揮する本庁舎が消防本部と合築で整備される必要性は明らかで、足踏みしている場合ではありません。これもまさに本市に固有の事情として考慮されると思います。

(3)判断材料が増えれば賛否は変わり得る
もう1点、深沢での新庁舎整備にかかる支出が、「市役所の位置を定める条例の改正案の議決がされる前においても、改正案の否決後においても、当然に違法になるとは解されない」と判断される根拠としては、三重県の旧紀勢町の庁舎建設についての名古屋高裁平成18年3月28日判決があります。
名古屋高裁は「紀勢町議会の議員が総勢14名であるところ、そのうちの3分の1を超える5名が庁舎移転に反対であったことが認められるものの、このことから直ちに将来にわたって条例制定の可能性が全くないと断ずることはできない」と判示しており、この考え方は、鎌倉市の新庁舎整備においても当然踏襲されます。

2022年12月議会で位置条例改正議案に反対した議員は、ずっと反対のままで変わらないと断定するような声も聞こえてきますが、どうして断定できるのでしょうか?!
2022年12月議会での位置条例改正案の審議は、『鎌倉市新庁舎等整備基本計画』と『鎌倉市市庁舎現在地利活用基本構想』が策定された段階でしたが、その後 今年3月には『鎌倉市市庁舎現在地利活用基本計画プラン1.0』が策定されました。そして、本件に係る新庁舎基本設計等の事業者選定の公募型プロポーザルでは、提案概要を通して新庁舎を整備することによって広がるまちづくりの可能性が示されました。

私は、本庁舎の移転先を深沢地域整備事業用地と定める公的不動産利活用推進方針が決定された2017年度当時から、「新庁舎の深沢での整備は現在地の利活用とセットで考え、取組まなければならない」と訴えてきました。現在地に市民のための拠点施設を整備し、必要な行政機能と防災機能を備えることに関しては、公的不動産利活用推進方針の段階より内容的に大きく前進しており、この2年間における議論を通して、さらに良いものになっています。このように市役所の深沢移転についての判断材料は変わってきているわけですから、2022年12月議会時点で位置条例改正に反対した議員が、再提案の際に賛成することは何もおかしなことではありません。来年4月の市議会議員選挙を経るのかどうかには関わりなく、名古屋高裁の判決で示されたことは生きています。

以上は、基本設計に着手することが違法性を指摘されるようなものではないこと(基本設計に着手することの妥当性)について述べました。

2.本件業務委託契約について
続いて、本件業務委託契約に賛成することについて、4つの点から述べていきたいと思います。

(1)公募型プロポーザルによる選定過程での市民参加
1点目。優先交渉権者を公募型プロポーザルの手法で選定し、その過程でプロポーザルに参加した4チームの提案概要を公開して新庁舎整備によって広がる様々な可能性を示して市民の関心喚起をはかり、市民から意見や質問を募ったことは、大きな意義があったと思います。また、公開されたプレゼンテーション動画を視聴した市民の多くが優先交渉権者が選定されたことに納得感を持ったと推察されます。
選定の経緯について、市民に対する説明責任を果たすことができたということだとも受け取れます。

(2)「審査講評」における中間層免震の提案への言及について
2点目。公募型プロポーザルの審査報告書の審査講評の中に、優先交渉権者の免震層を2階と3階の間という中間層に設ける提案に対し、委員から、非免震階となる1、2階について、書架の地震対策や上部階と空間的に分離しない工夫が必要との意見が付されたことが記載されています。
地下配置と比べコスト縮減が可能であること、ジョイント部材が1階周りに無く1階が利用しやすくなること、免震層を災害時のためのスペースとして活用できることなどの中間層免震の利点に触れた上で、工夫すべき留意点が示されているということなのです。
「これをどう受け止めるか」ということですが、公募型プロポーザルは事業者を選定するものであって、事業者が示した提案がそのまま基本設計のベースとして変更の余地がないものとされるの訳ではありません。意見が付されたことで基本設計の中身が危ぶまれるということにはならないし、専門家委員が中間免震層の利点に触れていることからも、このことが優先交渉権者の提案力不足を示すものではないことは明らかです。

優先交渉権者は、鎌倉市が基本設計に求めていることをよく理解しており、その理解度の深さが選定につながったものと考えられます。本契約を締結し、基本設計に取り掛かるに際し、コスト縮減に限らず、どういった点を免震構造の要件として重視するのか、対話を通して確定していくということだと思います。

(3)提案上限額の算出根拠の確認
3点目。本議案を建設常任委員会で審査した際、委員から公募型プロポーザルにおける提案上限額に関する見積り資料の請求があり、委員会において提案上限額の算出根拠を確認しています。

(4)大船消防署現在地に消防機能を残すこととの関係
4点目。この12月議会では、消防施設の配置について議論がありました。
その中で、消防本部を深沢の新庁舎との合築で移転することに伴って大船消防署を廃止する方針を改め、大船消防署の建物が使える間は消防署現在地に消防機能を残すという答弁が消防長およびまちづくり計画部長からありました。大船消防署の地元自治会等からの要望を汲んだ変更であるとのことです。

しかし、本庁舎と消防本部の合築により、防災力の向上をはかるという根幹部分には変更はありません。大規模災害発生時における市役所と消防の連携体制の強化ということだけでなく、市役所と消防本部を合築させた庁舎に面して広いオープンスペースが設けられれば災害対応時に大きな役割を果たします。本庁舎と消防本部の合築による防災力の向上は、新庁舎整備事業において極めて大きな意味を持っています。

深沢に新庁舎と合築で整備する消防本部及び消防署と、消防本部移転後にも消防機能が残る大船の消防施設の2か所それぞれに配置する消防車両の台数などについての検討は今後行うことになるにせよ、新庁舎等整備基本計画の見直しを行うべき変更ではないのですから、新庁舎基本設計に入らず、一旦立ち止まる必然性は認められません。

 

3.議会は基本設計段階に責任をもって関わっていくべき
縷々述べてきましたが、最後に建設常任委員会の議案審査で付した意見を再度申し述べます。
本件契約を締結した後、新庁舎の基本設計とDX支援業務が進められますが、将来を見据え、住民福祉の増進の視点でよりよい庁舎となるように、その内容をつぶさにチェックし、具体的な提案をしていくことは議会の果たすべき役割です。基本設計ができあがってからでは遅すぎます。議会は、市役所の位置を定める条例の改正の議決をできる限り早期に行い、基本設計段階でのチェックや提案を責任をもって行っていくべきなのです。

以上で、新庁舎の基本設計等業務委託契約議案に対する賛成討論を終わります。

 

【付記】
鎌倉市は、新庁舎等基本設計及びDX支援業務委託の公募型プロポーザルの実施にあたり、提案時において次の(1)~(5)の書類(「企画提案書等」)の提出を求めていました。

提案概要書に対する意見聴取期間に市民から寄せられた意見の中に、FU案(日建設計の案)については「全体の構成がわかりにくい」「(他の3社の提案に比べ)情報が少ない」という意見がありました。
公開プレゼンテーションの質疑で選定審査会の国吉会長がこれについて質問したのに対し、プレゼンテーターから納得のいく回答があったことが「最優秀提案者の選定理由(審査講評)」に記されています。
≪審査講評・抜粋≫
提案概要書について、市民から受けた意見に対し、「市民を受け入れる器であり、1階が市民のコミュニティの場としてとても大切であることを重点的に説明した。」と、市民利用のシーンをメインに見せたいという提案概要書の作成意図を具体的に聞くことができた。

企画提案書(事業実施方針に関する提案 4-1-1) ※鎌倉市HPより

企画提案書(技術提案 4-2-6) ※鎌倉市HPより