「工事請負金額の変更を市長専決処分に追加」の意味
3月25日の本会議で鎌倉市議会2月定例会が閉会しました。代表質問から予算等審査特別委員会、最終本会議までの期間は議会対応に追われて記事の更新ができませんでした。
この後も数日間は紙媒体の記事の作成をするので、ホームページ等への報告記事の掲載は月末以降にまとめて行います!
ただ、本会議で可決した「市長専決処分」に関する議会提出議案について、新聞報道に誤解を招きかねない部分がありましたので、早めに書き残しておきたいと思います。
市長専決処分
市長専決処分とは、本来は議会が議決しなければならない事件(地方自治法 第96条に規定)について、行政運営の遅れや滞りを防ぐため、例外的に市長が議会の議決に代わり意思決定することを指し、次の2種類があります。
① 災害復旧のための応急措置など、時間的に議会の招集を待てない場合などの専決処分。事後に議会への報告と議会の承認が必要。
② 軽微な内容で、あらかじめ議決によって指定(委任)している専決処分。議会への報告が必要。
多くの自治体議会は②について定めており、鎌倉市と市議会では、次の「市長専決処分事項指定の件」をルールとして運用してきました。
専決処分事項は議会が決めるものなので、本件については、2月17日付で松尾市長から市議会議長に追加の依頼がありました。
追加依頼の専決処分事項は工事請負契約額の1割以内の変更契約
市長からの依頼は、「議会の議決を経て締結した工事請負契約について、当初契約金額の1割以内の変更をする契約」の締結を(再度の議決を要せずに)市長専決で行えるように「市長専決処分事項」に追加してほしい、ということでした。
依頼の背景には、建設資材等建設物価が高騰し急激な上昇傾向が止まらない状況とともに、鎌倉市発注土木工事における「週休2日確保工事」の導入があります。
「週休2日確保工事」の導入とは
建設業では、就労環境の厳しさから就業者の減少が深刻化し、現場の担い手確保が官民挙げての課題です。
公共発注の土木工事の工事現場における週休2日制の実施に向けた動きが全国的に進む中、鎌倉市も「鎌倉市 週休2日確保工事実施要領(土木工事)」を定め、1月1日以降に発注公告の工事(当初設計価格2,500万円以上)から実施しています。
鎌倉市週休2日確保工事実施要領
国交省に倣い、対象期間内(期間全体)で4週8休以上の工事現場閉所日を設けることを「通期の週休2日」とし、対象期間内の全ての月で4週8休以上の現場閉所日を設けることを「月単位の週休2日」として、「月単位」の方が理想であるため、インセンティブをプラスします(「表」参照)。

インセンティブに関する表(「週休2日工事実施要領」抜粋)
『実施要領』には「経費補正の実施」について「当初の設計金額において(略)通期の週休2日の経費補正を行う。月単位の週休2日の現場閉所を達成した場合は、(略) 請負代金額を増額変更し、通期の週休2日の現場閉所が達成できなかった場合には、(略) 請負代金額のうち当該補正分を減額変更する。」と規定されています。
要するに、「週休2日確保工事」の導入により、週休2日の達成度合いに応じて、経費補正が行われる工事の増加が見込まれるということなのです。
工事請負契約額の1割以内でかつ変更幅は1億5000万円未満
背景の説明を先にしましたが、再びその内容についてです。
市長から議会に示された案には「当初契約金額の1割以内の変更(当該変更の額が鎌倉市議会の議決に付すべき契約および財産の取得または処分に関する条例(略)第2条に規定する額未満のものに限る)をする契約を締結すること」とあります。
この条例第2条は、「議会の議決に付すべき契約」として「地方自治法第96条第1項第5号の規定により議会の議決に付さなければならない契約(※)は、予定価格1億5,000万円以上の工事又は製造の請負とする」という規定です。(※地自法96条1項5号に基づいて自治体ごとに条例で定めているので、例えば、横浜市は6億円以上、平塚市は1億7千万円以上、秦野市や逗子市は鎌倉市と同じ1億5千万円以上です。)
ですから、市長が「専決とさせてほしい」と依頼してきたのは、当初の工事請負金額から1割以内の変更で、かつ変更の額が1億5,000万円未満の変更契約です。
議会運営委員会で出た意見を反映し要件を付け足し
本件は、議長からの諮問を受けて3月6日と同19日の議会運営委員会(議運)で話し合われました。
「1割以内」としたことに関し、3月6日に契約検査課長から「1割以内とすることで工事内容の変更を伴う工事請負契約の変更を(専決の対象から)除外している」との説明がありました。これに対し、「工事内容の変更を伴う工事を除外することを明確に示す必要がある」という意見が出ました。
そのため、19日の議運には、「次に掲げる事由により」として、
(1) 鎌倉市週休2日確保工事実施要領の規定による経費補正の実施
(2)予期することのできない特別の事情による工期内における急激なインフレーション又はデフレーション …… という金額変更事由が付け足されました。(2)は、「鎌倉市工事請負契約約款」第26条6項を引っ張ってきたもので、「公共工事標準請負契約約款」にある、いわゆるスライド条項の準用です。
意見を出した委員は、この付け足しで「工事内容の変更を伴う工事を専決の対象としないことが担保できた」と評価しました。
ところが、銀河鎌倉の委員は「(全国的に採用されているスライド条項の文言にもかかわらず)予期することができない特別な事情が何か、急激なインフレ・デフレがどこを基点にして何パーセントなのかの定義が必要」とか「無所属議員を抜きにして議運で決めるべきではない」とか、果ては「市議選後の来期に改めて話しあえばよい」と述べて賛同しませんでした。他の8人は専決事項への追加を認めましたが、議運の協議については「できる限り全会一致となるよう努力する」という議会先例があるため、議運としては意見の一致を見なかったことになりました。
常識による歯止めが効かないと、タラレバ(もし…したら、もし…すれば)の空論が暴走します。それを「市民のため」と称したり、「二元代表制の一翼を担う議会の役割」と思い込むのはいかがなものでしょうか。
この件については、具体的に何を懸念しているのか最後までわかりませんでしたが、「○○工事で市長が好き勝手に契約金額のつり上げを繰り返しても議会がチェックできなかったら…」と思っていたのなら、多分その○○工事の1割は1億5千万円を優に超えますから、ご懸念は無用です!
市発注工事を取り巻く昨今の状況を見れば、工事の遅れや経費補正の遅れによる建設事業者へのシワ寄せの回避につながる専決処分事項への追加は妥当であり、不可とする理由はありません。銀河を除く5会派から1人ずつ提案者になり、議会議案として最終本会議に提出することになりました。
専決処分事項の追加指定議案(「専決処分議案」ではない)は賛成多数で可決
3月25日の本会議でも、銀河の当該議員は議案提出の議員に「質疑」をしました。私も回答の準備はしていましたが、提出者を代表して議案を読み上げた納所議員が申し分のない答弁をされたので出番はありませんでした。
鎌倉銀河の議員は「市長への白紙委任を許してはいけない」「専決を許せば意思決定のプロセスの透明性が損なわれる」という趣旨の批判を展開していました。一般論というか、観念的なこと(「市長の好き勝手を許さない」)を述べているに過ぎず、この件については明らかに失当です。
専決事項追加指定の内容は、市長の意思(あるいは「好き勝手」)が及ぶ金額変更ではなく不可抗力による金額変更なのですから!
翌日の神奈川新聞の記事には「専決を認める条件として工事現場の週休2日による経費増やインフレによる資材費増加を明記する事例は県内で初めて」と書かれていました。
これは、その通りです。週休2日確保工事の導入というタイミングで市長から議会に指定の依頼があり、議会から明文化をすべきという指摘があったことを受けて文言を追加したのです。
但し、県内では横浜市、川崎市、相模原市、逗子市、三浦市、秦野市、厚木市、座間市の8市が既に議決契約金額の1割以内の工事請負契約の額の変更を専決処分事項としています。
同記事に「地方自治法と同法施行令は1億5千万円以上の工事では議会の承認を得る必要があるとしているが、今後は議会の議決なく契約金額の変更が可能になることから反対の声も上がっていた。」とも書かれています。
既に述べたように ▽鎌倉市の条例も議会の議決に付すべき契約を予定価格1億5,000万円以上としており ▽本件専決処分事項の追加でも、専決処分の対象を変更額1億5,000万円未満の場合としているのですから、「議会の議決なく1億5千万円以上の契約金額の変更が可能になる」と読めてしまう記事の記載は、銀河の議員の主張に惑わされたのか、意図的に応援したかったのかは不明ですが、誤解を招くと言わざるを得ません。