鎌倉市庁舎現在地~整備する複合施設についての検討が進捗

12月14日の建設常任委員会で、市庁舎現在地利活用基本計画の策定に向けた検討状況の報告があったことは、ひとつ前の記事で紹介しました。この時は、10月25日の第15回本庁舎等整備委員会(以下、「整備委」と略)の資料をもとにした報告でした。

その後12月20日に第16回の整備委が開かれ、年明けの1月半ばからパブリックコメントが行われる市庁舎現在地利活用基本計画(素案)について協議されました。

基本計画の概要は、「中間とりまとめ」について報告した2023年7月31日の記事で書いているので、今回は12月の第16回整備委を傍聴してわかったことの要点と、委員から出た意見の中から重要だと思われた指摘(保坂のメモに基づく)について書きます。

市庁舎現在地利活用基本計画(素案)概要版の表面

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新築の優位性を明記
既存施設(現在の市庁舎)を改修・増築して活用するのか、解体して新築するのかについては、施設整備のビジョンへの適合性、耐震補強の難易度などに加えて新築の方が既存施設活用よりも工事費が少なくなることも含めて検討され、「新築が優位である」と結論付けられました。但し、民間提案を募る際には、既存施設を活用した提案も受け付ける考えであるため、「新築に決定」とはされていません。

図書館エリアに対する配慮
既存市庁舎で地下を有する部分の敷地(=過去に埋蔵文化財の発掘調査済み)は、杭基礎を用いた鉄筋コンクリート造の採用が可能であることから、床の積載荷重の確保が必要な書架スペースは原則としてこの部分に配置する案が示されています。

また、貴重な蔵書を保管する書庫(閉架および歴史的公文書等)は、万が一の浸水リスクを回避できる配置(2階)となっています。

施設の位置づけを「鎌倉庁舎」に
基本計画素案には、施設を「鎌倉庁舎」と位置付けることが明記されました。
現在の市役所1階で対応している主な手続や相談について「できない手続きはない」状態をめざして「支所と同等以上」であることを明確化し、さらには鎌倉地域の災害時の防災拠点、現地災害対策本部機能を持たせるなどの観点からだとの説明です。

「市民に親しまれる名称は大事。『ふみくら』ではなかったのか?」という整備委の委員からの質問に対しては、所管部の次長が「鎌倉庁舎は施設の位置づけ、ふみくらは施設整備のビジョン、施設名は今後(整備が進んでから)決める」と答弁しました。

事業手法についての詳しい分析
施設整備の事業手法は、7月の「基本計画 中間とりまとめ」では簡単な紹介にとどまっていましたが、基本計画素案では、想定される4つの手法の分析、比較検討が詳細に行われています(市が策定支援業務を委託している(株)日本総研の面目躍如という印象)。

なお、その前提は「民間施設と合築した複合施設を整備する事業であることから、民間企業が設計事務所や建設会社に業務を発注する手法が適している」ということですが、そもそも民間施設との合築には、賑わいの創出や公共機能との相乗効果の追求という目標とともに、整備にかかる市の財政負担の圧縮ということが大きな意図としてあります。特に、支出を長期で平準化する手法を採用すれば、単年度における過大な支出が市財政を圧迫することを回避できることについては、市民の理解を広げることに努めてほしいと思います。

市民参画を視野に入れるという意見も
事業手法の分析と4つの手法のうちの最有力候補と次点候補が提示されたことに関しては、建築を専門分野とする委員から「民間事業者の参入の仕方が(どのような業種の民間事業者かも含めて)わからないのに、どの事業手法がよいのかという話は少し早すぎる。現段階では、『こういうやり方があります』と示す程度でよいのではないか」という意見も出ました。
市民の参画を進める可能性を念頭に入れた意見のように聞こえました。

私はかねてから施設(市民利用施設の部分)の運営にNPO法人が参画する、あるいは「ふみくら」の開設を機に生涯学習事業財団を設立して指定管理者とする、といった方向性が市民の拠点の管理運営に相応しいと考えているので、委員の意見は非常に重要な指摘だと受けとめました。

基本計画で提示すべきものと提示されたものの受けとめ方
また、同じ委員から、「基本計画素案では配置図や平面図がモデル案として示されているが、それよりも大事なのは、全体として『新たな価値』―この複合施設を整備することによって、今後可能になること―を提示することである」「素案を見る側も、配置図や平面図を見て、駐車場が狭いのではないか、という議論に向かうのではなく、この施設で何ができるか、何ができるようになったらよいかという視点で見てほしい」という趣旨(←やや意訳気味)の発言がありました。

確かに平面図や公共機能の各分野の想定面積の数字などを見ると、「これは狭いのではないか。従来よりも狭くなっていないか」といった話になりがち(例えば図書館スペース)ですが、それらの提示は暫定的なものであって、少なくとも基本計画の是非の判断にかかる事柄ではないと思います。

基本計画を「案」として策定?!
策定委を傍聴して一番驚いたのは、配付された基本計画「素案」(正確には素案として確定する前の「素案(案)」)に、「本計画は『案』として策定し、今後必要に応じて改定することとします」と記載されていたことです。施設建設は新庁舎の開庁後に始まり、供用開始は早くとも現在から10年後と想定されることから、その間の情勢の変化や新たな知見等にも対応できるようにするためなのだそうです。

これに対しては、長年関わってこられた委員から、「『案』を付けたままにすると、不確定の印象が強くなる。モデルプランまたはベースプランなどの言葉を使って、この計画がベースになることを示してはどうか」という意見が出ました。

私も、せっかくここまで検討を重ねて中身を固めてきた基本計画に「案」をつけたままにすることには強い違和感を覚えます。基本計画なのですから、設計段階に移行する際に情勢等の変化に応じて修正が生じることがあっても問題はないし、平面計画および断面計画・立面計画を示した箇所には既にモデルプランと書かれているわけですから…。一体どこに(誰に)対して慮っているのでしょうか。委員が的確な発言をしてくださってよかったです。

こちらの委員は、「基本計画素案では、新しく作る複合施設単体については議論を深められたが、面的な捉え方(鎌倉地域の災害リスクへの対応機能や周辺公共施設の集約化の意義)も押さえておく必要がある」という指摘をされており、これにも同感しました。

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両輪の基本計画が揃う
第16回整備委について長々と紹介しましたが、何はともあれ市庁舎現在地基本計画は、パブリックコメントを経て2024年3月に策定されます。
新庁舎等整備基本計画は2022年9月にできているので、これで深沢に整備する新庁舎 と、市庁舎移転後の現在地に市民の拠点として整備する複合施設 の両方の基本計画が揃うことになります。

市役所の位置を深沢に定める条例は、2022年の12月議会では地方自治法に定められた「出席議員の3分の2の同意」にあと2人届かず(18人の同意が必要であったところ、賛成16人/反対10人)、成立に至っていません。
ただ、位置条例否決が「市役所移転反対が民意であること」を示したものだとは言えません。「議員の賛否は有権者の意向の体現」というのなら、賛成の16人は過半数を優に上回っているのですから。また、鎌倉市民が2021年10月の市長選挙で市役所の深沢移転を最重点の公約に掲げた現市長を当選させていることも厳然たる事実です。
議会として、鎌倉市全体および将来にわたって鎌倉市で暮らす世代のことを考えて責任ある判断を下すべきなのです。