子どもの権利の保障を条例でうたう意味

今日は9月1日。明日からの新学期を思って不安やつらい気持ちを抱えている子どもたちが沢山いることでしょう。学校や今の人間関係だけが全てではない、大事なのは何よりもかけがえのない自分だと思ってほしいです。自分を大事にするのは自分勝手でもなんでもありません。自分を大事にしない人は他者も大事にできません。
子どもたちが日々を送るのをつらいと感じる時、問われるべきは子どもたち自身ではなく、学校であり、社会であり、大人たちのありようです。

この夏、私は「まず、おとなが幸せでいてください おとなが幸せじゃないのに子どもだけ幸せになれません」という、ズシンと胸に響く子どもからのメッセージに「再会」しました。

子どものびのび条例?!
今年度鎌倉市では、12月議会での条例制定に向けて、「(仮称)鎌倉市子ども総合支援条例」の策定が進められています。

(仮称)子どもがのびのびと自分らしく育つまち鎌倉条例のサムネイル

条例策定スケジュール

6月議会では、「(仮称)子どもがのびのびと自分らしく育つまち鎌倉条例」に条例名をアレンジした修正案が示されました。
昨年の9月議会では、一般質問で策定中のこの条例について取上げました。

1994年に日本政府が「国連子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」を批准して以降、子どもの権利の視点を大切にして子ども支援の施策を方向づける条例が全国各地で作られています。県内では、川崎市が全国に先駆けて2001年4月に「川崎市子どもの権利に関する条例」を、近年では2015年4月に相模原市が「相模原市子どもの権利条例」を施行しています。
これに対し、鎌倉市の条例の当初案は、総合的に子どもを支援していくことの必要性を前面に出した内容でした。
子どもを支援の対象と見ることと権利の主体と見るのでは、根底にある子ども観が大きく異なります。一般質問では、他市の先行事例を参考にし、子どもの権利の視点を織り込んだ条例にすることを求めました。

6月議会で示された修正案は、条例名に「子どもの権利」が冠せられることはなく、「子どもがのびのびと自分らしく育つまち鎌倉条例」というニュートラルな仮称にとどまったものの、
①前文に「児童の権利に関する条約の考え方にのっとって、子どもがひとりの人間として尊重されなければなりません」の文言が、
②基本理念に「子どもの最善の利益を追求し」の文言が、
③市の責務に「子どもに関する施策、事業及びさまざまな取組について、子どもの意見に耳を傾け、子どもが参加できるように努める」の文言が追加され、
「子どもの居場所の確保」の条文が設けられるなど、子どもの権利の視点を意識したつくりに変わっていました。

理念的にはかなり前進したと言えます。
次は「理念条例」で終わらせないよう、条例に紐づける施策の実効性が問われます。9月議会の常任委員会では、パブリックコメントに向けた条例素案が示されるものと見られます。

川崎市条例の先進性と周知の現状
条例の実効性について考えていた矢先の8月19日、元市立学校長で、人権担当の指導主事として川崎市子どもの権利条例の策定に関わった山田雅太さん(かわさき子どもの権利フォーラム代表)からお話を聞く学習会に参加しました。

川崎市条例は、理念や大切にしたい権利、子どもの参加・意見表明のあり方、居場所の考え方、権利学習の方法、子どもの人権救済、子ども施策についての提言機関など、子どもの権利に関する事柄を網羅的に規定しています。
そして条例によって次のような制度や仕組みができて、条例に実効性を持たせています。
①川崎市子ども会議の設置(子どもの参加の保障)
子ども夢パークの創設(子どもの居場所・活動拠点)
③学校教育推進会議(子どもの意見表明の重視)
④子どもの権利学習教材の配布
⑤子どもの権利担当部署の設置(行動計画を作成)
子どもの権利委員会の設置(子どもの権利状況や施策の調査・検証)
子どもオンブズパーソンの設置(子どもの人権救済機関)
⑧子どもの権利の日の制定

このように踏み込んだ内容の川崎市条例ですが、策定時の市民集会では「子どものが権利を知るとわがままになる」「権利を主張するためにはまず義務を果たせ」という意見も多く出たそうです。
憲法に定められた国民の義務は、教育の義務・勤労の義務・納税の義務の3つだけであるのに対し、権利は元々生まれながらにして誰もが有しており、何かをしなければ(義務を果たさなければ)与えられないというものではない、という基本的な認識を広げ、かつ子どもの権利保障のあり方を議論するために、市民集会は何と2年間で200回も開催されたそうです。

子どもたちによる子どもの権利条例 子ども委員会も組織されました。
条例前文の3段落目の「また、自分の権利が尊重され、守られるためには、同じように他の人の権利が尊重され、守られなければならず、それぞれの権利が相互に尊重されることが大切である」という部分は、子どもたちが関わってまとめられたものだそうです。山田さんは、子どもの力は凄い、と語っていました。
そして、冒頭に掲げた「まず、おとなが幸せでいてください おとなが幸せじゃないのに子どもだけ幸せになれません」というメッセージ。これは、子ども委員会の解散の日に子どもたちが発したものだということです。
これに比べると、鎌倉市条例の策定過程での市民参加、特に子どもたちの参加は十分であったとは言えません(上掲の策定スケジュール参照)。
今後まだできることとしては、条例素案の中身をやさしく解説し、広く子どもたちからのパブリックコメントも受け付けられるにしてはどうかと思います。

施行から18年経った川崎市条例を「知っている」と答える子どもは、現在では40%程度にとどまっているそうです。条例が作られた時の思いが受けつながれていくことを願います。
川崎市条例が県内のトップを走り続け、振り返っても後続がほとんど見えない、という状況も変えていきたいものです。