GIGAスクールの「1人1台端末」は子どもたちの学びを高めるのか(1)

9月2~25日の会期で鎌倉市議会9月定例会が開かれています。
初日2日に行った一般質問では、コロナ禍の影響のもとで新学期を迎えた子ども達を支える体制や、松尾市長が文科省出身の新教育長の手腕に期待を寄せているGIGAスクールについて聞きました。
20.9.4一般質問のサムネイル

コロナ禍の影響で端末整備を前倒し
全国の小・中学校の児童・生徒に1人1台のPC端末を供与し、小・中・高校、特別支援学校に高速大容量の通信ネットワーク(校内LAN)を一体的に整備するGIGAスクール構想。
2019年12月に閣議決定され、全国の自治体はこの構想を国の補助金を得て進めるため、翌年の2・3月議会で補正予算を組みました。

「1人に1台端末」の小中全学年での達成は2023年度までとされていたので、2020年度はまず小学5・6年生と中学1年生が対象となる予定でした。
ところがその後、新型コロナウイルス感染拡大によって休校が長期化する事態となりました。そこで国は、「GIGAスクール構想の加速による学びの保障」と言いだし、残りの小1~4、中2・3年分の端末を整備する経費を2020年度補正予算にあげました。


鎌倉市の準備状況
市立小中学校25校の校内LANについては、整備業務を委託する一般競争入札を5地区に分割して8月に行い、一般質問の時点では4地区で請負業者が決まっていました(腰越地区は入札不調で随意契約に移行)。工事は来年2月末までに完了する見込みです。
前倒しで調達するPC端末もその頃には全学年分が揃うとのことです。また、8月には教師向けの研修が2回開催されました。


GIGAスクールと家庭でのオンライン学習
今、学校現場が取組んでいるのは、休校による授業の遅れの影響を小さくすることであり、そのために各教科の指導計画の見直しが差し迫った課題になっています。それに加えて、2021年度からのGIGAスクールの展開に向けて、学校の授業で「1人1台端末」をどのように活用するかという研究も必要になっています。

国が「GIGAスクール構想の加速による学びの保障」を掲げて予算を追加したため、GIGAスクールの「1人1台端末」が即、家庭でのオンライン学習に活用されと受けとめられている向きがあります。
確かに大災害や感染症蔓延で登校できなくなった際に、どの子どもも家庭で「自分の」端末を使うことができるようになります。

しかし、ほとんどの自治体では、家庭でのオンライン学習の実施に向けた準備を優先する状況はないと思います。それよりも差し迫った課題があるためです。仮に今学校が再び休業となって家庭でのオンライン学習を余儀なくされた場合、教育産業等が提供する学習コンテンツが利用される可能性が高いでしょう。国が唱える「学びの保障」は、そんなに容易なものではありません。


端末を使った学習と基礎学力
政府は、2019年に国際競争力を高める目的で「AI人材戦略」を策定し、2025年には年間25万人のAI人材を育成するという現実離れした計画を示しました。
GIGAスクール構想では、この戦略の思惑は表に出さず、「子どもたちが予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力を育成するために、ネットリテラシーなどの情報活用能力を高める」といった言い方をしています。

しかし、ICT教育やデジタル教科書が果たして学力を向上させるかどうかは疑問です。端末を使い慣れれば、OECDの国際学力調査PISAのコンピュータ利用の回答方式に戸惑うことはなくなりますが、それは学力、特に最も基礎となる読解力とは関係ありません。

数学者の辻元(つじ はじめ) 上智大学教授は、
「学習には集中力が必要だ。デジタル機器は視覚を刺激するが、必ずしも理解を深めるとは限らず、強い刺激は思考を妨げることにもなる。人間の思考は、思考の材料をワーキングメモリーとして頭の中に並べて情報処理することで成り立っており、深い思考をするには、メモリーの使用量を少なくすることが望ましいが、大量の競合する情報や刺激に溢れているコンピュータ画面ではワーキングメモリーがオーバーフローし、主体的に思考をめぐらせることが難しくなる」と指摘されています(雑誌『世界』本年5月号)。

こうした観点からすれば、小学校低学年からの端末の導入には、考える力を育む上でのデメリットすら懸念され、低学年に限らず、基礎学力・学ぶ力を養う時期のデジタル端末の利用には、適切なオケージョンを選ぶ必要があると考えます。

「1人に1台端末」は、子どもたちの個別最適化された学び(個々の習熟度に合わせた学習)を可能にする面もあり、関心を広げたり深めたり、主体的に学ぶ姿勢を育んだりする面では一定の効果があるかもしれません。
しかし、必ずしも基礎学力(思考力、読解力)の向上に資するものではないという認識に立って、「1人に1台端末」の利用を考えるのが賢明であると思います。

一般質問の中継録画はこちらです。http://kamakuracity.gijiroku.com/g07_Video_View.asp?SrchID=3361