鎌倉市の1人5千円の「電子商品券」とは?!

鎌倉市長は、7月臨時会で補正予算案から削除された電子クーポン配付事業を、金額を1人3千円から5千円にあげて9月議会に再提案しました。
9月11日の総務常任委員会で、この議案は賛成多数(賛成3、反対2)で可決しました。今月25日の本会議で採決されます。

 

「全会一致で反対」がひっくり返る?!
7月臨時会では、電子クーポン配付事業の経費を削除した「修正案」に全会一致で賛成(=電子クーポン配付事業に議員全員が反対)しましたが、市長が9月議会に再提案をしてきたということは、過半数の会派(7会派中5会派?)が議案に賛成する見通しが立ったからに他なりません。

反対から賛成に転じた会派は、その理由を何と説明するのでしょう?
総務常任委員会では、委員間討議も行いましたが、賛成に転じた総務委員の言い分はよくわからないものでした(敢えて言えば、「顔の見える関係を地域でつくる」意義を大仰に唱えることからわかったのは、「日頃地域のお店で買い物や飲食をされていないのだな…」ということ)。

 

再提案の事業規模は9億9千万円!
この事業では、QRコードを印刷したカードタイプの電子商品券(7月提案では「電子クーポン」と言っていたのを改めた)が市民全員に送付されます。額面は1枚3千円から5千円に増額されました。
市は電子商品券を取り扱う店舗を募集し(成果指標は600店舗)、登録店舗は決済用アプリをダウンロードしたスマートフォンで買物客が提示するQRコードを読み取ります。

電子商品券を使った決済のサムネイル

常任委員会配布資料(抜粋)

【事業の予算】(カッコ内の「旧」は7月臨時会への提案)

電子商品券: 5千円×177,500 人=8億8,750 万円 (旧 5億2,050 万円)

事務費  : 1億0 341 万円 (旧 1億2,927 万円)

合 計   : 9億9,091 万円 (旧 6億4,977 万円)

事務費が2,586万円圧縮されたのは、電子商品券を市民の手元に届いてからチャージするようにして普通郵便での発送を可能にしたことと、端末(スマホ)貸出費用の減額がはかれたことによるそうです。
7月提案時には、「事業費に占める事務費の割合が2割というのは高すぎる」と批判しました。商品券の金額が増額されたので事務費の比率が下がるのは当然ですが、今回の事務費の比率は13.5%になりました。
9億9,091万円の財源は、国の臨時交付金5億7千万円、市費4億2千万円とされています。

 

この事業に反対する理由
(1) 中小店舗の収益増の効果が小さい
7月臨時会でも指摘しましたが、電子商品券が現金や普段使うカードの代わりに日常的な買物や飲食に使われるのでは、売上増にはなりません。5千円としたことで、一部は「少し奮発した、或いは電子商品券がなければ試さない」買物や飲食、理美容などに使われるかもしれませんが、大半は「プラスα」の利用にはならないでしょう。
それは、消費増税対応等で過去に発行されたプレミアム商品券の約7割が、スーパー等での日常の買い物で使われていたことからも明らかです(今回は店舗面積1,000㎡以上の大規模商業施設とチェーン店を取扱い店舗から除くとしていますが、日常の買い物・飲食に使われ、プラスαの利用につながりにくいという点では大差はないでしょう)。

また、中小店舗が実際に潤う額が小さすぎます。
発行する電子商品券の額8億8,750万円に市が成果指標としている使用率90%をかけると7億9,875万円です。これを取扱店舗数の目安600店舗で単純に割ると、1店舗当たりの電子商品券による売上は133万円になります。
これが(実際には違うと思いますが)売上増だとしても、飲食店の場合で粗利率が仮に33%だとすると収益分は43万円、営業利益率が仮に4%だとすると53,200円にしかなりません。
飲食店とそれ以外の業種では利益率が違いますが、単純計算で600店舗の合計は53,200円×600=3,192万円です。
10億円近いお金を使って電子商品券事業を行うことで中小店舗が潤う額が数千万円の規模でしかないのは、あまりにも効率が悪すぎます。

事業者から「現金の直接給付の方がずっと助かる」という声が出るのは当然です。

商工課は、「市民による市内での消費行動を活発化させることで中小事業者を応援する、市民とお店との関係作りだ」と言いますが、電子商品券が使われる店は人気店や5千円という金額とマッチングした店、そして普段の買い物で重宝されている店に偏るでしょう(キャンペーンで地域の店の再発見が促されると考えるのは、前述のとおり普段買い物をしない人の発想)。

結局のところ、この事業は「中小店舗の応援」と言いながら、電子商品券で買い物や飲食ができる市民を喜ばせるための事業であることが問題です。

 

(2) コロナ禍で行政がやるべきことは他にある
商工課は「これまで行ってきたような直接的な金銭補助は一時的な効果に終わってしまう」として電子商品券事業の優位性を説いています。しかし、事業を継続できるかどうかの瀬戸際にある事業者が必要とするのは、やはり現金給付であり、各種支援の利用等についてのコンサルティングだと思います。

また、少し広い視野に立つと、消費行動の活発化には、安心して日常生活を送れるようにすることが不可欠です。そのためにはPCR検査の拡大にもっと力を注ぐべきです。
世田谷区は、感染症が疑われる人や濃厚接触者に対する従来のPCR検査に加えて、1日1,000人程度の「社会的調査」を行うそうです。区内の介護施設の職員や幼稚園・保育園の職員、特別養護老人ホームの新規入所者など合わせて2万人以上を対象に、症状の有無にかかわらず検査を実施します。総額約4億円の費用は世田谷区が公費で負担するとのことです。
国の臨時交付金は、この社会的検査のような取組みにこそに使われるべきです。

 

(3) 災害などの緊急事態に備え、5億円近い市費を投じるべきではない
昨今の自然災害の激甚化や感染症の再拡大などに備え、緊急対応の財源確保は極めて重要です。

9月議会には8億5700万円もの減額補正が提案されています。学校施設の老朽化対策工事や道路の維持・整備などの今年度の執行を見送るものです。また、大幅な税収減を見越して来年度以降の事務事業の見直しを行い、歳出を抑えようとしています。市の財布がこれ以上軽くならないように最大限の努力しているのですから、効果が小さい事業に5億円近い市費を投じるべきではないと思います。

総務常任委員会では「この事業を行わないと5億7千万円の国の補助金をみすみす逃すことになる」と発言した委員もいました。しかし、そんなことよりも5億円近い市費を使わない意義の方が大きいのではないでしょうか。
また、市民の間に「国の補助金だって市民の税金なのだからバラマキに使ってほしくない。電子商品券をもらっても嬉しくない」という声が根強くあることも市長は認識すべきでした。

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この事業の予算は25日の本会議で通ってしまうと思われます。
予算成立後、この事業の事務はどんな法人に委託されるか…。そのあたりも含めて事業全体を注視していきます。