GIGAスクール~端末を使いこなすのが「生きる力」なのか?

6月定例会の一般質問の後半では、GIGAスクールを取上げました。

教育長に質問

コロナ禍を背景にGIGAスクール構想の「1人1台端末」と学校のWi-Fi環境整備の前倒しが図られ、全国で2020年度中にほぼ完了しました。鎌倉市立学校の普通教室には、端末用充電保管庫と大型電子黒板も設置されました。
 

デジタル教科書の導入は?
文科省は、デジタル教科書の2024年度からの本格導入において、紙の教科書との併用を認め、段階的な移行とすることを決めました。
鎌倉市では、腰越小、深沢小、腰越中の3校をGIGAスクール推進校に位置付けました。
今年度、教師が大型電子黒板に映し出す「指導者用デジタル教科書」については、この推進校に主要教科分を導入します。児童・生徒が自分の端末で閲覧する「学習者用デジタル教科書」については、推進校が文科省による有効性の実証事業に参加し、各校1教科ずつ導入して効果・影響等を検証します。 

学習履歴は誰がどう管理
デジタル教科書に先んじて鎌倉市立の全小中学校に導入されるのかAIドリルです。市は8月に(株)すららネットとシステムの賃貸借契約を結び、2学期以降AIドリル「すらら」を全学年の児童・生徒を対象に導入します。

ドリルで正答が得られなかったら、どこでつまずいたのかずっと遡って見ていくことができます。一方、理解度・習熟度が高い子どもは、どんどん先に進めます。また、教師は子ども達の理解度を確認する豆テストの作成や採点業務から解放されます。GIGAスクール構想で喧伝される「個別最適化した学び」を可能にするのがAIドリルであるとも言えます。

しかし、手放しで礼賛するわけにはいきません。AIドリルを使えば、詳細な学習履歴(学習ログ)が蓄積されます。
このことについて質問しましたが、データの管理に関する明確な答弁はありませんでした。

児童・生徒の苦手な部分を見つけ出して指導に生かすこと、卒業までは教育委員会において管理することは当然想定されます。
危機管理が必要なのは、AIドリル等を提供する企業等に蓄積されるデータの二次的利用についてです。過去に、教育再生実行会議の技術革新ワーキンググループでは「学校以外の学びの場においても、第三者に学習ログへのアクセス権を許可をすることにより、最適な学び・指導を得ることが可能(学校での履歴を塾に共有等)」という話が出ていました。
これは序の口で、二次的利用の拡大は十分考えられることです。

経済産業省「未来の教室」

個別最適な学びと協働的な学び
経産省は、「1人1台端末と様々なEdTech(教育とテクノロジーの合成語)を活用した新しい学び方を実証する『未来の教室』実証事業」を行っています。この「未来の教室」を突き進めれば、子ども達が学校に集って学ぶ必要性はなくなっていきます。

さすがにそれは困ると考えたであろう文科省は、「個別最適な学びと、協働的な学びの一体的充実」ということを強調し始めています(2021年1月 中教審答申の中の「令和の日本型学校教育」)。「協働的な学び」というのがポイントです。

デジタル教科書の導入について質問したところ、教育長は「子ども達がiPadの画面でデジタル教科書をずっと見ていると、(検索や他の子どもとの画面共有、発表などの機能に使えなくなり)協働的な学びが十分できなくなることも考えられるので、一気に導入することはしない」という趣旨の答弁でした。

長い文章を正確に読解するには紙媒体の方が優れており、紙の教科書は子ども達の学びにとって必要だ―という発想ではありません。
「1人1台端末は個別最適な学びを保障するからEdTechはどんどん進めていきますが、同時に協働的な学びも大事にしています」というタテマエを重視するのでしょう。

大人の都合で考える「生きる力」ではなく
デジタル人材の大量育成という国家的要請に導かれた「1人1台端末」によって、学校教育は土台から大きく変わります。

懸念されるのは、
第1に学力の低下などの学びの質の問題、
第2に教育の市場化、民間事業者による学習履歴の取得・利用の拡大、
第3に学校のWi-Fi環境とタブレットの長時間使用による子どもの健康への影響です。

教育のICT化の流れには必然的な面もありますが、大人や社会の都合ではなく、子どもの成長段階に合わせた最善の学びを追求していくことを忘れてはいけないと思います。