5Gの通信エリア拡大に向けて加速化する基地局の設置

対象に「モノ」が加わる5G
通信事業者4社が5Gの宣伝を派手に繰り広げています。
一般のユーザーが5Gのスマートフォンに切りかえて可能になるのは何でしょう?頭に「スゴイ」がつくオンラインゲーム、ライブ視聴、マルチストリーミング画面…。
1日のうちの多くの時間をスマホの画面を眺めて過ごす人にとってはワクワクするサービスなのかもしれませんが、そうでない人にとっては、特に必要のないサービスでなのですが!

そもそも5Gは、人と人のコミュニケーションというより、電波で「モノ」を動かすことを新たなターゲットにした移動通信システムです。
移動通信システムは、1980年代の第1世代(1G。G=ジェネレーション)から約10年ごとに進化し、2020年春に第5世代(5G)の商用化が始まりました。4Gまでは、電話、コミュニケーション、インターネットなど「人」に対するサービスがメインでした。5Gでは今までインターネットに接続されていなかった夥しい「モノ」― 建設機械、工作機械、車両、物流パレット、手術ロボット、監視カメラ等々 ーが接続されます。

 

基地局から発生する電波は桁違いに増える
5Gの特徴は「超高速」「低遅延」「多数同時接続」だと喧伝されています。
高速化を支えるのが、周波数帯の帯域幅の広さです。帯域幅が広いことは電波をたくさん使うことを意味し、車両数と道幅に例えた下記のイメージ図がよく紹介されています。

(NTTドコモのウェブサイトより)

2019年4月に総務省が割り当てた5G周波数は、ハイバンドの28GHz(ギガヘルツ)帯とミッドバンドの3.7および4.5GHz帯です。28GHz帯は極めて周波数が高く、「ミリ波」と呼ばれます。「2時間の映画を3秒でダウンロード」という謳い文句の高速・大容量は、このミリ波が使われて可能になります。

一方、電波は周波数が高いほど届く距離が短いため、28GHz帯の5G電波は届く距離が100m程度とのことです。そのため、基地局が約100mおきという高密度で設置されるおそれがあります(ミッドバンドでの5G展開は、基地局の「高密度」設置なしでもできますが、「スゴイ」5Gサービスにはなりません)。

総務省が公表しているデータをもとに計算すると、5Gの基地局1基あたりの電波は現在主流の4Gよりも1桁は強くなるそうです。場所によっては100m以下の高密度で設置され、さらには当面は3G・4G基地局との併存であることから、基地局から発生する生活環境中の電波は従来よりも2~3桁(2~3倍ではない)増えると見られます。

 

5G通信エリアの拡大はどのようにはかられる?
通信事業者は、初期の段階では既にあるLTE(4G)ネットワークを拡張させて5G基地局を増やし(Non StandAlone, 略称NSA)、その後に5G単独型(StandAlone)のネットワーク構成に移行させます。

NTTドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルの各ホームページには5G通信エリアのマップが掲載されています(トップページに表示されていない場合は、検索欄🔍に「5G通信エリア」「サービスエリア」などのキーワードを入れて検索してください)。

現有の基地局数がダントツに多いNTTドコモの場合、「7月18日現在の通信エリア」「2021年9月末の通信エリア」「2021年12月末の通信エリア」から選択してマップが見られます。鎌倉市域では、ピンクに色分けされた5G通信エリアは「7月18日現在」ではごく限られていますが、「9月末現在」では一気に拡大しています。NSA構成での増強だと思われます。
一方、後発の事業者では、いきなり5G対応の基地局を建てたと思われる箇所がありました。

鎌倉市携帯電話中継基地局条例では、既存基地局の「改造」についても、事業者は計画を市に届け出て、計画を近接住民や地縁団体代表者に説明することになっています。
電波出力の変更・追加も「改造」ですから、「9月末現在」で5G通信エリアが大幅に拡大するのであれば、今の時期に届け出ラッシュがあるはずですが、どうなっているのでしょう?これについては要確認です。

 

小さな5G基地局が身近に設置される
5Gのミリ波での展開では、カバー範囲が狭い基地局(スモールセル)を高い密度で設置しなくてはなりません。携帯電話中継基地局は2020年の集計で既に全国に90万局超もあり、さらに増やすのは並大抵のことではありません。そこで、国は、全国に設置されている約20万8000基の信号機に5G基地局を設置できるようにする法整備を進めています。

また、地中埋設型の基地局やオフィスビル等の窓に貼り付け屋外に向けて発射するガラス状アンテナなどの開発も進んでいます。

(総務省 情報通信審議会 第16回情報通信技術分科会 資料16-4より)
5Gでは、アンテナとアンテナパネルが一体となったタイプが増える。

明らかに従来とは電波の被曝様態が変わってきます(これに加えて、電波特性や電波の飛ばし方も変わってくるのですが、この記事では省略します)。

 

スーパーシティと5G
鎌倉市に特有な事情でたいへん気になるのは、スーパーシティ(スーパーシティ型国家戦略特別区域)に応募していることです。応募した全国の31団体(複数団体の共同提案は1団体とカウント)から5団体程度が選ばれて区域指定される予定で、神奈川県では鎌倉市と小田原市が手を挙げています。

鎌倉市の提案内容は、
「交通・観光」を主軸に「防災」「ヘルスケア」「デジタルガバメント・まちのDX」 「コミュニ ティ・市民参画」「社会・文化へのつながり」の6テーマから、先端的なサービスの実装及び規制緩和要望等に関してアプローチする
―というものです。

冒頭で述べたとおり、5Gはモノをインターネットにつなぐことで本領を発揮するシステムですから、提案の実現(例えば混雑状況をデータ化したり河川の増水などを監視するAIカメラ、ロードプライシングの課金システム)は5Gを前提にしていると考えられます。

4Gまでは人口カバー率上げることを目指した基地局整備方針だったが、5Gでは「都市部・地方部を問わず需要の見込まれる地域での早期の5G展開の促進を図る」のが国の方針なので、スーパーシティを名目に携帯電波を多用する事業が始まる場合は、5Gが早めに整備される可能性がある。(電磁波問題市民研究会 網代太郎さん)
とのことです。

未解明なことが多く、影響の予測も難しい5G(特にミリ波)。予防原則に基づいて対処する必要があります。
スーパーシティの動向も踏まえ、今後とも注視していきます。