鎌倉市役所の深沢移転は地方自治法4条に照らして違法なのか?!(その1)

2月25日の建設常任委員会では、「本庁舎等整備事業の取組状況」について市街地整備課から報告がありました。
鎌倉市役所の深沢地域整備事業用地内への移転に関しては、かねてから一部の議員が「地方自治法4条2項に抵触するので違法である。ゆえに深沢への移転はできない」と指摘しており、この日も同趣旨の発言がありました。

市側は指摘内容を是とはしないものの遠慮がちな答弁に終始していたため、議員傍聴席で一緒にやり取りを聞いていた1期目の井上三華子議員から「深沢移転、違法なんですか!訴えられたら負けるってことですか?」と聞かれました。私は「違法ということはありえない」と首を振りました。
訴えられても(裁判長がよほど変わった考えの持主でない限り)負けません。

本庁舎整備に関しては、議論すべき大事なことが他にあります。
地方自治法4条2項問題は、もうこの辺りでクリアすべきなので、ここでまとまった形で論じたいと思います。なお、私は「何が何でも深沢移転推進」派ではなく、「市役所の建替えは必要だが、現在地では建替え困難で、移転できる広い市有地は深沢しかない。但し、現在地に市民活動・生涯学習などの質の高い拠点施設と行政の市民対応の窓口機能が確保されることが前提条件」という立場です。

地方自治法4条2項の解釈
第4条は次のような規定です。
第四条(第1項)地方公共団体は、その事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは、条例でこれを定めなければならない。
②(第2項)前項の事務所の位置を定め又はこれを変更するに当つては、住民の利用に最も便利であるように、交通の事情、他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない。
③(第3項)第一項の条例を制定し又は改廃しようとするときは、当該地方公共団体の議会において出席議員の三分の二以上の者の同意がなければならない。

4条2項において、「住民の利用に最も便利であるように、適当な考慮を払わなければならない」として挙がっている「交通の事情」および「他の官公署との関係」では、鎌倉市議会においては「他の官公署との関係」の方が問題視されているようです。
「交通の事情」については、JR鎌倉駅至近の現庁舎と湘南モノレール深沢駅至近の移転先とでは現庁舎の方の利便性が高いのは明らかですが、条文が「市内で最も交通の便が良いところでなければいけない」と解釈されるものでないことについては、一定の共通理解があるからだと思われます。

一方の「他の官公署との関係」の官公署は、国と地方公共団体の諸機関(法制定時には民営化前の郵便局も)を指し、地方自治法の逐条解説書には「学校、商工会議所又は商工会、農業協同組合の事務所等」もあがっています。現庁舎周辺の「官公署」に準じる機関としては、商工会議所、社会福祉協議会、市観光協会などがあります。

市役所の移転先される深沢にこうした官公署がないことをもって「移転は違法」とする指摘に対し、市側は「深沢地域整備事業用地では、市役所の開庁を端緒に新たなまちづくりが行われるので、官公署にあたる都市機能も集積されていく」と述べ、また「庁舎の位置をどこに定めるかについては、その事柄の性質上、当該地方公共団体に関する諸般の事情を総合配慮した上で、政策的・技術的な見地から総合的に判断されることが、判例でも示されている」と説明しています。

4条2項追加の時代背景と今日の状況 (私見) 
私は、もう一つの視点として、4条2項が昭和27(1952)年の法改正で追加されたものであることが大きな意味をもっていると考えます。「町村合併促進法」制定の前年における改正であるため、市町村の合併に際しては事務所の位置の決定が重要であるということが前面に打ち出されているのでしょう。

しかし、昭和27年当時の交通や情報通信の状況は、今日とは大きく異なります。今日においては、市職員が職務遂行上赴く必要があったり、市役所来庁の市民が来庁目的との関連、または来庁したついでに立ち寄ったりする「官公署」が市役所至近の徒歩圏にないと不便で困るということはまれであり、だからこそ判例も「総合的に判断」と言っているのだと思います。

とは言え、「住民の利用に最も便利」であるように図ることの大切さは70年経っても変わりません。
深沢移転を進めるのであれば、周辺道路の渋滞緩和、歩道の安全確保、行政窓口の地域分散化、新庁舎行の低額バスの運行、庁舎周辺地域の都市機能を高めるエリアマネジメントなどを通して「住民の利用に最も便利」となるように努めることは必要です。 ※「その2」に続く