非熱作用を考慮しない電波防護指針― 2022.8 電磁波特集 ② 

日本の電波防護指針とは
日本における電磁波の人体に対する安全性の基準である電波防護指針は、1990年と1997年に、総務省(旧郵政省)電気通信技術審査会が、10kHz~300GHzまでの電波を対象にまとめたものです。2015年には低周波領域、2018年には高周波領域について改定されています。

電波防護指針は「基礎指針」と「管理指針」から構成され、管理指針のベースである基礎指針は、電波が電子レンジのように人体を加熱する「熱作用」(thermal effects) が起きない値を算定したものです。電磁波問題市民研究会のホームページの網代太郎さんの記事を参照して、電波防護指針の構成を次のようまとめました。(比吸収率SARについては、末尾の《付記》も参照)

 

国際非電離放射線防護委員会の指針
世界保健機関(WHO)の協力機関である国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が策定した国際指針値も電波の熱作用をベースにしており、日本も含め多くの国の指針値がICNIRPの指針値に準じたものになっています 。日本・米国は周波数帯によってはICNIRPと同じ値を採用していますが、1.8GHzの周波数では ICNIRPの指針値が900μW/㎠であるのに対し日・米の規制値は1,000μW/㎠、900MHzでは ICNIRPが450μW/㎠で、日米は600μW/㎠です。

一方、欧州やアジアの国・地域の中にはICNIRPの指針値よりもはるかに厳しい規制値を独自に定めるところがあり、国際がん研究機関 (IARC) が2011年に「ヒトに対する発がん性分類」で無線周波数電磁波をグループ2B(発がん性の可能性がある)に認定したことを受けて、2015年に規制値を従来の約半分の 439μW/㎠(1.8GHz)に改めたカナダのような国もあります。【加藤やすこ著『5Gクライシス』】

 

規制値を厳しくする以外の施策をとる国も多い
ICNIRPの指針値も日本の電波防護指針も、「強い電磁波に短時間被曝して温度が上がる熱作用」を防ぐことを念頭にしたものです。
今日では「弱い電磁波に恒常的に被曝する」状況になっており、電磁波の「非熱作用」(non-thermal effects)に対する予防措置を講じる必要があります。非熱作用によって、酸化ストレス(活性酸素)の増大と血流変化が主原因となった神経系・免疫系の異常などが引き起こされるおそれがあると言われています。

ICNIRPの指針値よりも厳しい規制値を運用している国はまだ多くはありませんが、ほとんどの国では、規制値を厳しくする以外の施策()を講じて、電磁波の非熱作用による健康影響の予防を図っています。【上述の網代さんの記事。加藤さん前掲書】
携帯電話を販売する際に頭部の被曝を減らすハンズフリー装置のセット販売を義務付け (フランス)
3歳以下の子どもが過ごす保育園などでのWi-Fi使用を利用を法律で禁止(フランス)
電磁波過敏症の人を守るために、無線周波数電磁波のない電磁波フリー・エリアを作ることを求める(47か国が参加する欧州評議会)
一般の人の被曝制限値100μW/㎠のほかに、4時間以上過ごす屋内での「注意値」および大勢の人が頻繁に集まる屋外での「品質目標」として10倍厳しい10μW/㎠を設定 (イタリア)

疾病・症状を引き起こすメカニズムが解明されない限り措置を検討しない日本の状況は、諸外国との比較では特異とも言えます。

《付記》
お使いのスマートフォンのSAR値は 携帯・スマートフォンの SAR値 一覧 (hontono.net) といったサイトや「機種名 SAR」で検索すればわかります。
私が使っている機種は残念ながら1.18 W/kgという高めのSAR値です。通話時はイヤフォン(1,280円で購入)をなるべく使うようにしています。