もともと間尺に合わない日本遺産(9月議会報告 ①)
9月15日開催の市民環境常任委員会で、文化庁から日本遺産に認定された「いざ、鎌倉」~歴史と文化が描くモザイク画のまちへ~ が、認定更新を保留する「再審査」に付されたことについて報告がありました。
「平成28年度認定 日本遺産の総括評価・継続審査」結果公表
文化庁はさる7月29日、同庁が2016年に認定した19件の日本遺産について、これまでの取組みや今後の計画を評価し、16件を「認定継続」、3件を「再審査」とする結果を発表しました。鎌倉市の「いざ、鎌倉」は認定継続とならなかったため、9月末までに計画書を提出して再審査を受けます。再審査の結果は年内を目途に発表されるとのことです。
文化庁による総括評価を見ると、再審査とした一番の理由は、
●鎌倉観光一般と日本遺産を生かした観光との差異がわかるように、さらなる検討・具体化が望ましい
ということのようです。
他にも様々な指摘がされています。
●民間事業者や寺社をはじめとした文化資源関係者等が参画した組織体制の構築が望ましい。
●日本遺産を活用した戦略立案がされることが望ましい。
●地域プロデューサーが不在であり、総合的な企画・立案を行う司令塔となる地域プロデューサーを確保することが望ましい。
●民間事業者との連携を強化し、日本遺産ストーリーの関連商品が販売されることが望ましい。
これらの指摘は、「書き手は本当に文化庁?観光庁ではないの?」と思わせるものです(鎌倉市の所管も、現在は「歴史まちづくり推進担当」ではなく観光課ですが…)。
日本遺産は、東京オリンピックを控えて新たな観光資源の掘り起こしで創設された
文化庁が、地域の文化・伝統を語る「ストーリー」を「日本遺産」と認定する目的は、有形無形のさまざまな文化財群を地域が主体となって総合的に整備・活用し、戦略的に発信していくことにより、地域の活性化を図ることだとされています。もっとも、国が2015年度からこの制度を始めたのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに約100件の認定を行い、内外にアピールしたいと考えたことが背景にあります。
鎌倉市では、鶴岡八幡宮を初めとする社寺関係から2016年度の認定に向けて取組むよう強い要請があり、歴史的風致維持向上計画の策定作業を通じて日本遺産のストーリー作成のめどが立ったこともあいまって申請に至った、という経緯があります(過去の議会答弁)。
世界遺産とは根本的に異なる。補助金は情報発信などのソフト対策向け
世界遺産が、登録により歴史的遺産、文化財・史跡を保存して次世代に引き継ぐことを目的としているのに対し、日本遺産は、文化財あるいは史跡を活用して地域づくり・地域の活性化を進めるもので、実際の取り組みは観光の分野で行われます。
認定されると日本遺産魅力発信推進事業の補助金の交付を受けられます。金額はそれほど大きくなく、ハード面での整備よりも、ストーリーの補強や情報発信などのソフトの取組みに使われることを想定した補助金です。
「いざ、鎌倉」については、認定から3年間だけ数百万円規模で補助金が交付され、ブックレットやポスター、紹介動画の作成、ポータルサイトの開設などが行われました。
そもそも…に立ち返る必要がある
日本遺産は、もともと観光資源の認知度が低く活用されてこなかった地域で、点在する文化財や史跡を共通の「ストーリー」でパッケージ化し、観光振興や地域活性化に活かすことを目指した仕組みです。文化財・史跡が昔から広く認知され、既に完成した(むしろオーバーツーリズムが問題化している)観光都市である鎌倉市が、新たなストーリーを梃にしてさらなる観光振興や地域活性化をはかるというのは、鎌倉本来の取り組みの方向性―「歴史的遺産と共生するまちづくり」―とはズレがあります。
鎌倉市が日本遺産に認定されたこと自体、日本遺産という制度に対する貢献でもあったわけで、さらなる貢献を求められてもなぁ…というのが実感です。市民環境常任委員会の一部委員の質疑の趣旨が私のこの実感とあまりにかけ離れていたので、本稿をまとめた次第です。
付記
本サイトの2016年4月25日の記事では、同時期に地域に配布したビラの中で述べた日本遺産についての所見を紹介しています。ビラには「認定後、情報発信等の事業に 3~5 年間補助(今年度は 3400 万円位)がつく見込み」と書いていますが、交付は3年間で金額もそこまで付かなかったということのようです。