学習会「測って知る 身の回りの電磁波」を開催

11月14日、神奈川ネットワーク運動・鎌倉の主催で、携帯電話中継基地局等が発する無線周波数電波を「身の回りの電磁波」ととらえて、現状とこれからのあり方を考える学習会を持ちました。

学習会の趣旨
携帯電話等通信会社(以下、事業者)は、「基地局の発する電波は、電波防護指針(700~900MHzの周波数帯で470~600µW/㎠、1.5GHz以上で1,000µW/㎠)の範囲内だから安全性には全く問題ない」という説明を繰り返しますが、基地局の電波のような「熱作用を伴わない微弱な電波」を長時間浴びることの身体への影響には、未解明の部分が残っています。
鎌倉市では2010年4月に「鎌倉市携帯電話等中継基地局の設置等に関する条例」が施行し、市内で携帯電話等中継基地局(以下、基地局)を設置・改造しようとする事業者は、工事の計画書を市に提出し、計画の概要を近接住民等に説明して理解を得るよう努めなくてはなりません。
条例があることも手伝って、鎌倉市ではかねてから基地局設置に対する市民の関心が高く、特にこの2年ほどは5G(第5世代移動通信システム)の通信エリア拡大で基地局の設置が加速化()していることを背景に、設置計画が持ち上がった地域からの相談を受けることが目に見えて増えました。(2021年度の鎌倉市への計画届出件数は約230件)

神奈川ネットワーク運動・鎌倉では今年度、簡易測定器を用いて基地局周辺の屋外・屋内の無線周波数電波の電力密度(単位μW/㎠)を測定するチームを立ち上げました。
今回の学習会では、大船・岩瀬・山ノ内・佐助・七里ガ浜東・腰越・梶原などの計9地域で測定した結果を報告し、NPO法人 市民科学研究室の上田昌文さんから講評・解説をいただきました。

基地局設置計画に向き合った市内7か所と藤沢市1箇所の住民も参加され、後半には「鎌倉市の基地局条例をどう活用するか」という視点での意見交換も行いました。

測定からわかった「身の回りの電磁波」の傾向(抜粋)
延岡市の住民が基地局の操業差し止めを求めた訴訟で原告側の立証資料を提供した九州大学の吉富教授は、延岡市ほかで基地局発の電波の測定を行い、「体調不良が発生している場所は数μW/㎠以上という共通点がある」と報告(2015年)されている。このことを念頭に測定した結果、次のような傾向を把握した。

各地点において様々な発生源からの無線周波数電波の総量を計測しているにしても、近傍の1基の基地局の電波が及ぶ範囲として見た場合、最大平均値が1.0μW/㎠を超える地点は、それぞれの範囲内で必ずしも多くない。
その一方、箇所数としては限定的であっても、数μW/㎠以上を超える地点が生じていることも確認された。

今回の測定では、大船の鎌倉街道沿いで7.48μW/㎠、山ノ内・瓜ヶ谷で6.4μW/㎠、腰越5丁目で5.26.4μW/㎠の最大平均値を計測した地点があった。
3地点のピーク値は、順に19.0μW/㎠、17.0μW/㎠、10.0μW/㎠。であった。

最大平均値が1.0μW/㎠を超える地点は、坂道(斜面)の途中などに位置し、下方に立つ基地局のアンテナと同等の高度である(同じ水平面にある)場合が多かった。

かつては高いビルの屋上に遠距離まで電波を照射できる基地局が設置されていたが、現在増加している基地局は、駐車場や空き地に16mほどの独立柱で立てる場合が多い。起伏に富んだ地形で、谷戸沿いの住宅、斜面の住宅が多い鎌倉市では、曝露する電力密度が周辺より著しく高い地点が生じる確率が高いのではないか。

 

上田昌文さんのコメント(抜粋)

総合電力密度が最大平均で1.0μW/㎠・ピーク値で10μW/㎠を超えている箇所は、どのような周波数の電波がその場において支配的かにかかわりなく、町中の路上で通常計測される場合と比べて2桁から3桁ほども大きな値であり、曝露量が「かなり強い」場所だと判定せざるをえない。

電磁波過敏症を発症させないための曝露基準は現時点では見出されていないが、(基地局を含む)電波放射源を設置するにあたっては、可能な限り曝露を小さくしていく配慮が求められる。その一つの目安として、イタリアで採用されている「注意値、品質目標」としての10μW/㎠は検討に値する。
:前項で「最大平均で1.0μW/㎠・ピーク値で10μW/㎠の計測値は『かなり強い』」と記載しているが、「国の電波防護指針は900MHzの周波数で600µW/㎠と桁違いであり、それとは別に予防原則に基づく目安を設けるなら、10μW/㎠というラインを目指してはどうか」という意味である)

5G基地局アンテナが増加すると、「低強度多頻度曝露」の水準上昇は避けられない。総合電力束密度でみた場合、2桁から3桁の増加を見込まなければならないだろう。

 

これからのあり方 国への提案
電波防護指針とは別に、10μW/㎠を目安とし、「基地局の電波の及ぶ範囲にこの数値を超える箇所が生じる可能性がある時は、携帯電話会社が対策を講じる必要性がある」という認識を事業者・国・住民が共有するよう、国に求める。

10μW/㎠は、イタリアにおける「注意値、品質目標」であり、フランスで2015年に制定された「電磁波のばく露に関する節度(sobriété)・透明性・情報及び協議に関する法律」が、電波が際立って強い「特異地点」としている6V/mに相当する(電界強度6V/m≒電力密度10μW/㎠)。
同法では、国立通信庁(ANFR)が、人々が居住・滞在し行き交う特異地点の調査目録を毎年作成し、携帯電話事業者に6カ月以内の改善を求めている。

 

これからのあり方 鎌倉市携帯基地局条例を生かす
鎌倉市の条例は、携帯電話中継基地局の設置をめぐる紛争の未然防止を目的にした手続き条例だが、少なくとも、「住民が知らないうちに近所に基地局が立ってしまった」ということがないようにする条例として機能させなくてはならない。

そのためには、市条例に基づく住民説明会が開催されることが望まれる。町内会長が、事業者の代理人の初回の訪問で設置計画の概要について聞き、その場で説明会の開催の要否を判断するのは適当ではなく、開催要否の回答に時間的な余裕をもたせたるような運用面での改善が必要である。

また、説明会の開催要請は、近接住民においても可能とするべきである。条例施行規則第5条2を「当該地縁団体または近接住民から説明会の開催を求められたときは」あるいは「1人以上の近接住民から賛同を得た当該地縁団体の構成員から説明会の開催を求められたときは」などとしてはどうか。

高い周波数の電波は直進性が高く、遮蔽物によって届きにくくなるため、基地局の設置で電力密度が著しく高くなる地点は箇所数としては限定的と見られる。
しかし、説明会で、そうした地点が生じる可能性への懸念が住民から表明された場合には、事業者は技術的見地からその可能性について回答することが強く望まれる。

上述のフランスの法律は、携帯電話会社が基地局設置計画を申請する2か月前に自治体に計画の概要を伝え、要請があれば被曝量の計算値を提供することや、自治体の長が提出を受けた情報を住民に提供し、住民に意見表明の機会を与えられることを規定している。

上田さんからは、今から10年以上前のドイツにおいて同様の住民参加を見聞したことが紹介された。ドイツでは専門知識を有するNPOが、計画中の基地局から発生する電波の曝露のシミュレーションを住民に提供し、住民がそれを使って携帯電話会社と交渉を行っていた。
鎌倉市の条例が本当に生かされるには、こうした住民参加を事業者が受け入れる土壌をつくっていかなくてはならない。

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「大事なのは情報公開。基地局は、住民にとっては自治の問題だ」という上田さんの結びの言葉は大変印象的でした。
電波の測定には、住民が自ら動いて状況を知るという大きな意義があり、取組みの輪を広げていきたい。