鎌倉市役所の位置を定める条例~賛成討論を行いました

12月定例会最終日の本会議で、市役所の位置を定める条例改正議案は、賛成16、反対10で否決(特別議決のため、可決には3分の2の賛成が必要)となりました。
採決に先立って行った「賛成討論」の全文を以下に掲載します。

討 論
神奈川ネットは市長の提案に対して、常に是々非々、すなわちどちらか一方の立場にとらわれず、良いことは良い、ダメなものはダメと判断する姿勢で臨んできました。これからも同様です。この位置条例改正議案には賛成します。市役所本庁舎整備については、子ども達、次世代の人たちにツケを残さないよう、長期的かつ広い視野に立って見ていかなくてはならないと考えます。

進捗の段階が異なる3つの取組み
本庁舎整備・市役所現在地の利活用・深沢地域整備事業の3つの取組は、事業の進捗段階が異なります。たとえば周辺交通環境の問題は、深沢地域整備事業がもう少し先の段階に至らないと具体策を示すことに限界があります。しかし、3つの取組みの足並みをそろえるために本庁舎整備の進捗を遅らせるというのは望ましくありません。後程改めて述べますが、新庁舎の整備は防災の視点から後回しにすべきではないからです。

深沢地域整備事業は、土地区画整理事業の年度内または新年度初めの事業認可申請を目指している段階です。向き合っていく課題は多々ありますが、それらを全て市役所の位置を定めることの是非に絡めるのは不適当です。

また、言わずもがなのことではありますが、深沢地区の31.1haのうち、JR東日本が土地区画整理事業前の現状において持っている土地は、鎌倉市の2倍の17haです。市役所の整備ではなく、別の「こんな用途に使うべきだ」という提案の多くは、全体の55%がJR東日本の土地であることを無視し、市民を混乱させるものです。

位置条例提案の時期への批判
9月定例会では、位置条例を改正せずに新庁舎等整備基本計画を策定したことへの異論がでました。
これは、全くテクニカルな異論であって、単に深沢での新庁舎整備に反対なので基本計画にも反対だと主張すればよいところ、それをしない、批判のための批判であると受け止めざるをえません。

また、ここに至って、なぜもっと早い時期に位置条例の改正を提案しなかったのか、という今更ながらの批判も出てきました。
鎌倉市役所本庁舎は、現存庁舎の敷地に余裕があり高さ制限も緩やかで、同敷地内の駐車場や他の建物があった場所に高層の新庁舎を建てることができる他の多くの自治体の庁舎整備のパターンとは異なり、現在地には高さ制限と埋蔵文化財包蔵地という土地利用における厳しい制約があるため、別の場所で整備する方針が選択されたものです。

移転した場合、現在地はどうなるのか、どうすることがよいのか、これは大変重要なことであり、一定の見通しが示されなければ、移転そのものの是非を判断することはできません。
もっと早い時期に位置条例の改正が提案がされたとしたら、私は乱暴な進め方だと言って反対したことでしょう。

確認したかったことはあったが…
実を申せば、現在地の利活用については、庁舎移転後に整備される複合施設が、現庁舎の増改築ではなく建替えとなることが確認でき、公共部分と民間部分の比率がわかる状態になった上で位置条例改正議案に臨みたいと考えていました。現状の基本構想段階では、これらのことは示されていません。

しかし、位置条例改正議案が提案された以上、中央図書館の機能と鎌倉生涯学習センターのホール・ギャラリーに加えて集会室機能の導入が図られること、および手続きや相談といった行政サービスの機能が維持されることが基本構想で確認できたことを条例に対する判断材料と致します。そして現在地利活用の基本計画策定は、引き続き注視していきます。

 

賛成の理由~現庁舎の強度不足
以上、位置条例改正議案に向き合う自身の姿勢について述べました。
続いて、核心的な部分に話を移して、新庁舎を深沢に整備することに賛成する理由を大きく2点に分けて述べます。

1つは、地震災害に強いまちづくりに向けて必要だということです。
東日本大震災では、庁舎が大きく被災した否かによって災害復旧の取組の明暗が分かれました。現庁舎は震度6超の地震が起きた際、倒壊は免れるものの、業務を継続できるだけの強度はなく、一刻も早く取り掛からなければならない災害復旧の拠点機能を発揮できません。

現庁舎はまだまだ使える、大事に長く使えばよいという市民の御意見もありますが、大地震はいつ起きるかわからず、庁舎の整備を後回しにすることは、市民の生命と暮らしを守るという市役所に課された大事な役割を果たせないことにつながります。

移転先の水害リスクとそれへの対応策
多くの人が懸念を抱く深沢の移転先の水害リスクについて触れたいと思います。
鎌倉市は2018年度に深沢地区まちづくり方針実現化検討委員会の下に防災部会を設けて専門的見地から検討してもらっています。私もこの部会を傍聴し、深沢の移転先が相対的に見て災害リスクが高いところではないという防災部会の見解は、否定されるものではないと考えております。

市は対策として、▽土地区画整理事業においては年超過確率100分の1の計画規模の降雨でも宅盤が浸水しない高さまで盛土を行い、▽新庁舎整備予定地では北側道路の計画高さに合わせて盛土して年超過確率1000分の1の想定最大規模の降雨であっても宅盤が浸水しないように図ること、▽そして整備事業用地に降る雨については基準を上回るキャパシティのある雨水貯留施設で貯留し、土地区画整理事業用地であふれた水が用地外に流出することにはならない計画であると説明しています。
ハードとソフトを組み合わせた対応策が示されていると考えます。

岐阜市役所の事例から
11月に建設常任委員会で行った岐阜市役所は、元あった場所よりも長良川に近い場所に移転して整備された庁舎でした。
庁舎の敷地はハザードマップで1.0mの浸水想定範囲に該当するため、庁舎1階の床レベルを周囲よりも1m嵩上げし、嵩上げした1階の床レベルを乗り越える浸水があった場合に備え、地下免震層に排水側溝と排水装置を設置する一方、公用車の駐車場などは地下には設けていません。また、庁舎機能の維持に不可欠な熱源機械室・電気室・発電機室などは、地階ではなく8階に集約し、庁内モニターを活用し、日常的に長良川の水位情報の提供を行っていました。

岐阜市役所の整備例を紹介しました。
様々なプラスの要素とマイナスの要素を勘案し、相対的に見てプラスの要素が多い方を選んでいくのが現実的です。

深沢に免震構造を採用した庁舎を整備することで、大地震が発生しても救助・災害復旧をはじめとした業務が継続でき、被災を免れた地域からの援助の受け入れがしやすくなり、消防本部との隣接により災害対策本部が効率的に機能すれば、市全体の減災・災害復旧がはかれると思います。

優先課題で議論をすり替えない
防災面で後回しにできないと申し上げましたが、若干付け足します。

市民から「小中学校の建替えや市民生活を支える諸施策などを本庁舎整備よりも優先すべきだ」という意見が寄せられていることも承知しています。
けれども、市民生活に関わる重要な取組みのための予算を削って本庁舎整備に充てるわけではありません。多くの市民から「本庁舎整備よりも先に取り組むべきだ」ということで具体的に挙げられた課題には、市長部局も議会も真剣に向き合うべきですが、それらの課題があることを本庁舎整備を後に回す理由にするのは、少し強い言葉ですが、議論のすり替えにならないように留意すべきです。

賛成の理由~現在地活用のメリットを活かさないと…
2つ目
として、現庁舎のあるJR鎌倉駅に近い場所を市民のための拠点として利活用できるメリットが挙げられます。

市役所現庁舎の竣工は1969年、中央図書館は1974年開館で老朽化しており、両者より築年数が浅い鎌倉生涯学習センターは1982年竣工ですが、耐震性不足がわかって急遽休館して改修を行っており、年間3000万円の土地賃借料を支払っています。これらをボロボロになるまで使うことで修繕を繰り返せば、その分経費はかさんでいきます。また、現在ある場所で建替えることは、建替え工事中の仮庁舎・仮施設の確保からして難しいばかりでなく、経費も高くなり、本庁舎では必要な面積が確保できません。

冒頭において「子ども達、次世代の人たちにツケを残さないように」と申上げたのは、現庁舎の災害復旧拠点機能の脆弱性とともに、施設更新を怠ることが長期的に見ると市財政を圧迫することを指したものでした。

これに対し、本庁舎移転後の現在地に中央図書館の機能と生涯学習センターの機能を集約化させ、これまで不十分だった青少年の居場所や市民活動支援スペースまで設ければ本当に市民による様々な活動の中核的拠点となります。

市民がまちの主役、市民が活動する拠点がまちの中心
鎌倉の行政府はずっと旧鎌倉の、現在の御成町に近いエリアであった、それを深沢に移すのはとんでもない、とお考えの方は確かにいらっしゃいます。

でも、市の中心は市長がいるところ、行政庁があるところですか。中世や近世ではないのです。市長が鎌倉市を治めているのではなく、まちの主役は市民ですから、市民が集って生き生きと活動する場所こそが鎌倉市の中心だと誇れる場所ではないでしょうか。

大和市のシリウスや武蔵野プレイスのことをよく例に出すので、またかと思われてしまいそうですが、仙台市の「せんだいメディアテーク」のことを話します。図書館・イベントスペース・ギャラリー・スタジオなどからなる仙台市を代表する複合施設ですが、東日本大震災で被災して休館となり、市民図書館などは2か月ほどで再開できましたが、全面開館は翌年2012年の1月でした。

私はその2か月後、東日本大震災から1年経った頃にメディアテークを訪ねました。館内に「3月11日を忘れないためにセンター」という市民による震災からの復興過程の記録アーカイブのスペースがあり、「ここに来れば仙台で起きていることがみんなわかる!」というキャッチコピーを目にして、心を動かされました。

「ここに来れば、まちで起きていることがみんなわかる」という市民活動の拠点があったら、それこそまちの中心ではないかと思います。
市民がまちの主役と考えるからこそ、この場所には市民の活動拠点があることが相応しいと考えます。

せんだいメディアテーク(2013年5月撮影)

地自法に4条2項が追加された時代背景と今日的解釈の余地
この2点目から派生して、法律の解釈に関する論点を提示します。
地方自治法第4条第2項に関することです。

既に建設常任委員会でも意見を付しましたが、第4条第2項は「町村合併促進法」制定の前年である1952年の地方自治法改正で追加されたものであり、「市町村の合併に際しては事務所の位置の決定が重要である」という考えに基づくと解釈されます。

70年前に追加された規定であることから、その後の情報通信技術の発達などの社会状況の変化も考慮した上で、「当該地方公共団体に関する諸般の事情を総合配慮した上で、政策的・技術的な見地から総合的に判断される」という裁判判例が出ているのだと思います。

もう一点この条文が付け足された際の時代背景に関して付け足すと、第4条第2項が「他の官公署との関係」を特記しているのは、市町村の事務の大半が国や県の機関委任事務であった時代であったからだと指摘することができます。

曲がりなりにも地方分権改革を経た今日とは、「国と地方の関係」が違っていました。

行政サービスへのアクセス権は保障する
本庁舎がJR鎌倉駅に近い現在地から深沢に移転するが地方自治法第4条第2項に照らして違法であるとは考えられません。
そうではあっても行政サービスへのアクセスが不便になっては困ります。

・市役所まで行かなくても日常的な行政手続きや暮らしの相談は身近な地域でできるようにすること
・もちろん現在地に整備する施設にもそうした行政機能を整備すること
・全市域の市民が利用する活動拠点は、鎌倉駅に近く市内のどこからでもアクセスしやすい現在地に設けること
・鎌倉エリアと深沢を結ぶバス路線の新設や再整備を行うこと
― これらの取組みは必須です。

結び~信頼に足る行政であること
長くなりましたが、最後にもう少し付け足します。
新庁舎整備基本計画に対する意見公募に寄せられた意見全部に目を通しました。

計画に反対する気持ちのある方が意見を出す傾向がある中で、移転に賛成と反対は人数比ではほぼ半々で、それよりも印象的だったのは、移転に反対の立場の人の理由の中で、(こちらは人数ではなく意見の比率ですが)「とにかく現在地でなくてはダメだからダメ」という意見の比率が2割に満たなかったことでした。
これは、2018年の頃とはだいぶ変わってきているのではないかと思います。

実際、新庁舎整備基本計画と現在地利活用基本構想の策定過程を通して、市民理解が広がってきていることを感じています。

それでも深沢への移転に反対する市民の方が積極的に声を上げ続けていらっしゃるのは事実です。市庁舎の整備のような大きな事業を進めるにあたって市民の賛同をえることができるかどうかは、ひとえに信頼に足る行政であるかどうかということにかかっています。

市民も議会も新庁舎整備をやり遂げられるのかどうかという、市長の本気度と力量を注視しています。やり遂げるというのは、新庁舎の整備で息切れしてしまうのではなく、現在地に「市民のためにはこれができて良かったのだ」と思ってもらえる施設を開設するところまでです。

保坂の討論の最中に話し込む他会派議員。
後日中継録画を見て驚く。