「鎌倉市役所の現在地に高層の庁舎は建てられない」とは?

鎌倉市役所本庁舎については、2022年9月に「新庁舎等整備基本計画」が策定されたものの、12月議会に市長が提案した市役所の位置を深沢地域整備事業用地内に定める条例案は出席議員の3分の2の同意に至らず未成立だという現状です。

2月議会では、無所属議員が一般質問で「市は、現在地では風致地区の高さ制限のために(必要な執務スペースが確保できる)高層の庁舎が立てられないから新庁舎は深沢につくるのだと言っているが、風致地区条例や条例施行規則を仔細に読めば、市が整備の主体である場合は風致地区の高さ制限の適用を免れることは明らかではないか」と市長や所管の部長に迫りました。

市長や部長は答弁に窮したわけではなく淡々と説明をしていましたが、このやり取りがあった後、「本当は現在地で高層の庁舎が立てられるのに、市は条例を正しく解釈していなかった」とか「移転という結論を導くために高層の庁舎が立てられることを隠していた」といった話が一部で拡散されているようです。
「本当のところはどうなの?」というお問合せもいただいているので、以下に説明を試みます。詳細については末尾の【資料1・2】もご覧ください。
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7年前の「基礎調査」報告で既に説明
一般質問で取り上げた議員は、自身が鎌倉市風致地区条例・同条例施行規則・同条例による許可の「審査基準・解釈と運用」(以下、「条例等」と略)を読み込んで、条例第10条(許可の基準等)の「第1項第1号ウ(ア)ただし書」が適用されうる(よって、風致地区条例が定める第3種風致地区の建築物の高さ制限「10m以下」を免れる)ことを発見したように述べたため、「新たに明らかになった事実」だと受けとめた人もいるようです。(後掲の【資料1】参照)

しかし、「新たに明らかになった」わけでは全くありません。「ただし書」を適用して風致地区の高さ制限を緩和させた整備パターンは、7年前に報告された『本庁舎機能更新に係る基礎調査』の中で検討の選択肢として掲げられているものです(下記図表の案 A~C) 。
市は、「条例等」の規定および解釈を知らなかったのでも隠していたのでもなく、「こういう選択肢もあります」と基礎調査報告の中で示した上で、翌年度の本庁舎整備方針策定員会による検討を経て、2017年3月に「本庁舎は移転により整備する方針」を決定しました。ただし書を適用して高さ制限を緩和した庁舎の現在地整備パターンは採用されませんでした。

6 整備パターンのうちの風致地区制限超過の3 パターン(2016.3 「本庁舎機能更新に係る基礎調査・ダイジェスト版」より)

6つの整備パターンのうちの風致地区制限超過の3パターン (2016. 3本庁舎機能更新に係る基礎調査・ダイジェスト版より)

「法規的に」ではなく「民間に規範を示す立場の市として」高い庁舎はつくれないという判断
では、なぜ「ただし書を適用して高さ制限を緩和した庁舎を現在地に整備するパターン」を選択肢から外したのでしょうか。
2月議会で都市景観部長は「歴史的風土特別保存地区との関係や(市が整備主体である以上)周辺において規範となる建物であるべきことを考慮すれば、風致地区条例の許可基準の高さを遵守すべきものと考える」という趣旨の答弁をしていました。

上述の本庁舎整備方針(2017年3月)の中では、「現在地建替え(風致地区制限超過、用途地域変更)」の整備パターンの課題として、「風致地区制限超過の適用、都市計画変更の理由づけ、景観行政等の取組や都市マスタープラン等の上位計画との不整合等について大きな検討が必要となる。日影等の周辺への影響も大きい」と書かれています。

まさか2023年2月に至って「条例等からすればできるんじゃないですか」などという発言が飛び出すとは思ってもいませんでした。私の場合、「現在地に高層の庁舎を建てることができれば、別の場所に移転して整備しなくてもよいのではないか、何とかならないのか」ということは、2016~2017年度の頃にしきりに考えていたことだったからです。

様々な資料を調べ、考えた結果たどり着いたこの件についての見解は、
鎌倉市自ら風致地区条例の高さの基準から逸脱することは、条例の解釈運用という「法規的」な面では可能であっても、景観行政に力を入れて民間にも街並みの景観の維持に協力するよう求めてきた市の立場としてはできないし、仮にそれを強行しようとすれば、それまでに市が自ら決めてきたこととの整合性を取るのに長い期間を費やすことになってしまう ―というものです。

2017年9月定例会では、一般質問でこの件について取上げています【資料2】。本サイトでも記事にしてきました。

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【資料1】
市役所現在地で庁舎を建替える場合に風致地区の高さ制限の緩和が「できる」とする根拠となる条例等の規定
HP記事2023.5.4条例・規則・解釈のサムネイル

■【資料2】

2017年9月定例会 一般質問(現在地に高層庁舎を整備するという選択肢について)
一般質問(現在地で高層庁舎に建替える選択肢について)のサムネイル