鎌倉市役所の現在地はどうなる?―まもなく中間とりまとめ

鎌倉市は、市庁舎を深沢地域整備事業用地内に移転する計画と並行して、移転後の御成町の現在地の利活用の検討を進めており、「現在地利活用基本計画」(以下、基本計画)の2023年度中の策定を目指しています。

基本計画は、御成町の現在地に市民が集ってつながる拠点施設『ふみくら』が整備され、行政サービス機能も維持されることについて、昨年9月につくった「基本構想」よりも具体的な内容を示すものです。鎌倉市は、市役所移転にかかる市民や議会の理解を広げる意味からも、来年3月と見込まれる基本計画策定の前段として、「中間とりまとめ」を8月中に行い、公表する方針です。
7月11日開催の第13回本庁舎等整備委員会(委員長 国吉直行・横浜市立大学客員教授)では、この「中間とりまとめ」に向けた協議が行われました。
同委員会の資料は、既に市のホームページに載っています。https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/chousya-seibi/documents/01_shiryou.pdf

 

本庁舎等整備委員会の委員から出た意見
中間とりまとめの柱は、市庁舎現在地における(1)複合化の方針(2)導入機能(3)施設規模です。「(4)整備手法・事業手法・民間施設部分の機能」については、今後の検討事項とされています。委員からは、次のような示唆に富んだ指摘がありました。

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①「既存施設改修+増築」の整備手法は複合化の方針と折り合わない
整備手法としては、(ア)既存の本庁舎を改修し、敷地の容積率の範囲で増築も行う と、(イ)現在の本庁舎と分庁舎を解体して新築する の2パターンが併記されている。(ア)に関し、多数の耐震ブレースを追加して耐震補強を行う図面が示されているのに対し、複数の委員から「『ふみくら』の複合化のイメージを、場(空間)を機能ごとに分割するのではなく、一体的なスペースを構成するものにしているのだから、(ア)の整備手法は折り合わない」という指摘があった。

➁ 図書館の床耐荷重を考慮すると既存施設活用案には無理がある
既存施設に図書館の書架を設置するには、通常6段の書架を3段程度にしたとしても床の耐荷重を増やすための小梁の増設・柱の補強・地中杭の補強が必要となり、かつ、書架を3段にすると図書館部分の床面積が2倍必要になるーというシミュレーションに対し、委員長から「既存施設(現庁舎)の活用案は疑問である」との発言があった。

建物整備に関し、敷地の一部が津波浸水想定域であることを考慮すべき
・既存施設をそのまま使って1階部分に図書館を入れるという考えは捨てた方がよい。
・東日本大震災の被災地では、1階に重要な施設を入れない配置がスタンダードになった。低層部分に何をどう配置するかをよく考える。
・ピロティ構造や盛土なども検討すべき。
・「市民を守る」観点から、防災性能は新庁舎と同等のIs値0.9を目指すべき。
・防災機能では、3階に当たる屋上のルーフテラスにいつでも上がれるようにすることに大きな意味があるのではないか。
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全体として、「利活用のビジョンを体現する施設とするには、新築の方向でしっかりと検討を進めることが必要」とする意見が多く出ました。
委員長からは、「既存施設を改修する案を併記するのであれば、その利点と欠点を明確にしたまとめ方が必要」という指摘もありました。

 

市議会の特別委員会でも報告を聴取して質疑
本庁舎等整備委員会から8日後の7月19日、鎌倉市議会「新庁舎等整備に関する調査特別委員会」が開催されました。昨年10月に設置された特別委員会は、委員長と各会派1名の委員の計7名で構成され、保坂は副委員長です。本庁舎等整備委員会に示された資料(上掲URL)に沿った報告の聴取と質疑が行われました。

全体を通して関心が集まったのは、①現在地に確保される行政サービス機能、➁整備可能な施設の規模、③想定されている防災機能 でした。

①現在地に確保される行政サービス機能
昨年9月策定の市庁舎現在地利活用基本構想の中では「鎌倉地域の住民の方を中心に、これまで市役所本庁舎へ手続・相談等で来庁していた方が、引き続き、安心して、行政サービスの提供を受けられるよう、支所と同等以上の行政サービス機能を配置」するとされていました。

そのサービス提供の具体的な方法が、【A】対面相談の窓口スペース【B】オンラインで新庁舎の窓口と接続する個室ブース【C】来庁者自らオンラインで手続きを行うスペース の配置という形で示されました。施設規模は、A~C合計の222㎡に職員15名の執務スペース105㎡を加えた約330㎡と算出しており、これは現在の大船支所の専有面積に相当します。

本庁舎等整備委員会資料p.13

整備可能な施設の規模
現在地に整備する複合施設『ふみくら』の総床面積は8,390㎡と算出されています。

委員からの「新築で施設整備をする場合、(風致地区条例の高さ制限等を遵守しても)整備可能な規模なのか」という質問に対しては、「現在地の用地面積は14,361㎡、第3種風致地区の建ぺい率4/10で建築面積は5,744㎡となる。(10mの高さ制限に従って)低層2階のとして既存の地階面積2,700㎡を加えると、5,744㎡×2+2,700㎡=14,188㎡で、公共機能(ふみくら)8,390㎡は余裕で収まる」との答弁でした。

また、別の委員からの「公共機能8,390㎡は、整備可能面積全体に対して何割か」という質問に対しては、「約6割(8,390㎡÷14,188㎡=0.6)」との答えでした。
同委員は、昨年9月の基本構想において、<公共機能面積 対 民間機能面積>をおよそ4対6と仮定して複数のゾーニング・パターンを検討していることに言及し、この時とは公共と民間の割合が逆になっていることを確認し、今後公共機能の内容を詰めていく中で、民間機能のスペースが減っていく方向にあるのではないか、と発言していました。私も同様に考えています。

想定される防災機能
防災機能については、フェーズフリー(平常時と災害時という社会のフェーズ(phase時期・状態)を取り払い、平常時に使っているものが災害時に適切に使える、役立つ)の考え方に立った施設整備とすることが示されています。

委員からの質問に答えて、具体的な防災機能として鎌倉生涯学習センターが担っている帰宅困難者の収容施設 腰越備蓄倉庫(現在鎌倉地域にあるものよりも大きい)と同等の防災備蓄倉庫災害発生時の鎌倉地域担当班の活動場所 ーなどがあがっていました。

 

今後の検討課題は残るが、一定の進捗
まだ中間とりまとめ(案)ということで、整備手法・事業手法・民間施設部分の機能の検討は今後に委ねており、現在地利活用の全体像が示されたとまでは言えません。

ただ、支所と同等以上の行政サービス機能の確保(現本庁舎にある手続き・相談の環境に相当する施設環境の整備)が可能であることと、施設規模において中央図書館・鎌倉生涯学習センター・NPOセンターの機能の集約化が可能であることの両方が示されたのは、進捗と認められると思います。

整備手法については、「既存施設を活用するのか新築とするのか、課題を整理して検討」する状態を長引かせないでほしいと思います。
本庁舎等整備委員会で多くの委員から出た意見も踏まえて新築とすることを決めた上で、風致地区の高さ制限を遵守し、地下埋蔵物に影響を与えない低層の建物とすることと浸水対策との両立といった課題に向き合うことが望まれます。それがあって漸く、民間施設部分の機能の検討を適切に行うことができるのではないでしょうか。