マイナ保険証だけでなく、マイナンバー制度そのものの見直しが必要(その1)

マイナ保険証一体化でトラブル噴出
今年6月、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)等の一部改正が行われ、マイナンバーカードと健康保険証との一体化が法律で定められました。ところが、カードと一体化した保険証に誤って他人の情報が登録されていたケースが累計8441件にのぼることや(「マイナンバー情報総点検本部」8月8日会合)、カード取得者が保険証登録申請をしたにもかかわらず紐づけがされていないケースが大規模に発生していることなどが明らかになりました。
国の給付金などを受け取る際の公金受取口座が別の人のマイナンバーに登録されるミスの発覚もあり、カード返納の続出、内閣支持率の急落という事態になっています。

政府は、マイナ保険証のメリットとして、利用者が、特定健診の結果や処方薬・医療費などの履歴をマイナポータルで閲覧できること 医療機関や薬局も、患者の同意があれば受診情報や健診結果が見られるため、データに基づく適切な治療につながり、過剰な検査や投薬の防止、医療費の節約につながること などをあげていますが、「理屈としてはそういうこともありうる」というレベルの話としか思えません。
昨年10月に河野デジタル大臣が「健康保険証の2024年秋廃止」を表明して以降、多くの人がマイナンバーカードの取得を急いだのは、マイナ保険証のメリットを評価したのではなく、現行の保険証が使えなくなるのを恐れたからに他なりません。
マイナ保険証メリットのサムネイル

 

法律上、マイナンバーカード取得はあくまで任意
日本弁護士連合会は、マイナンバーカードに健康保険証機能を付与する施策について「一体化する必要性の低い他制度機能の組み込み」であると喝破するとともに、今年3月末の会長声明では、健康保険証の廃止によって事実上マイナンバーカードの取得を義務化するのは、マイナンバー法が定める任意取得の原則に反するものであって、マイナ保険証への一体化は中止すべきであると述べています。

そもそも、マイナンバーカード交付が始まった2016年からの約6年間における取得率低迷の原因は、カードを取得することのメリットが感じられないこと 個人情報流出や監視社会化が進むことへの懸念利用範囲がどこまで拡大するかわからないことへの懸念 (①~③全般にわたり)政府の制度構築・運用が信頼できないこと にありました。

そうした状況に対し、政府は、第1次マイナポイントで5000円、第2次で20,000円をばらまくという「アメ」の施策を講じ、さらにはマイナ保険証への一体化による現行保険証の廃止という「ムチ」の施策で強引な取得率のアップを図りました。
取得率は確かに跳ね上がりましたが、同時に、④の「政府の制度運用が信頼できない」という意識は、これまでで最も高まっていると言えるでしょう。

法改正のさらなる問題は、利用範囲の拡大
6月のマイナンバー法等の改正では、マイナ保険証との一体化に焦点が当たっていますが、法改正におけるさらなる大問題は、マイナンバーの利用範囲の拡大です。
「マイナンバーは、悉皆性、唯一無二性を持つ、原則生涯不変の個人識別番号であることから、その利用分野・事務を拡大すれば、より広範な個人情報が番号にひも付けられた上、漏れなく・他人の情報と紛れることなく名寄せされデータマッチング(プロファイリング)されてしまう危険性が高まる。それゆえに、番号法は、その利用分野を社会保障制度、税制及び災害対策の3分野に限定し<中略>、それらの分野内の利用事務についても国会の審議に基づいて法律で定めた事務についてのみ認め<中略>るなど、厳格な規制を行ってきた」(前掲・日弁連会長声明)わけです。

それをなし崩しにしたのが、今回の法改正で、
国家資格等に関する事務にもマイナンバーを利用できるようにするなど利用分野を拡大すること
マイナンバー法・別表第1に限定列挙されていた利用事務を、それらに「準ずる事務」であればマイナンバーを利用できるようにし、また、別表第2に限定列挙されていた情報照会・提供が認められる機関と事務について、政省令で定められるようにすること―が新たに盛り込まれています。
(※なお、この法改正では、既存の給付受給者等の公金受取口座について、名義人が不同意の回答をしない限り、国がマイナンバーとひも付けて登録する制度も創設されています。)