マイナ保険証だけでなく、マイナンバー制度そのものの見直しが必要(その3)

マイナンバー強制政策は何のため―➁DXの遅れの挽回(?)
前の記事で、マイナンバーカードを誰もが持たざるを得ないようにすることに政府が躍起になっている2つ目の理由としてあげたのは、「DXの遅れの挽回」でした。こちらの方が政府にとってのオフィシャルな理由です。
経済・社会・行政の全般においてデジタル改革が遅れていることが日本の競争力を弱めていると考える政府は、デジタル社会形成の司令塔として2021年9月にデジタル庁を発足させました。同年12月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、マイナンバー制度をデジタル社会における社会基盤として利用すること マイナンバーの社会保障・税・災害対策の分野以外での利用について検討を行い、制度面の見直しを行うこと デジタル社会の実現に向けて、公的個人認証の機能を搭載しているマイナンバーカードが2022年度末までにほぼ全国民に行き渡るようにすること ーが盛り込まれています。

日本のマイナンバーは、先行した国の「失敗」を無視している?!
諸外国においても、日本のマイナンバー制度と同様の、「行政手続等において利用することを目的として、国民一人ひとりに割り当てた番号等を用いて、特定の個人を識別するための制度(共通番号制度)が導入されていいます。ただし、共通番号制度の利用対象となる事務分野・利用方法、管理の在り方、情報システムの構成等、共通番号制度の活用状況は国によって様々です。

行政分野ごとに異なる識別番号をずっと利用しているフランスやドイツのような国もあれば、複数の行政分野で共通の識別番号を用い、かつ民間分野でも共通の識別番号を用いていることに起因して個人情報の大量流出や「なりすまし」の被害が実際に起きている米国や韓国のような国もあります。
日本政府は後発で共通番号を導入したのですから、DX推進のための社会基盤という位置づけであれば、汎用性が問題を引き起こしている米国や韓国のモデルに近いものではなく、1つの番号に紐づけないフランスやドイツのモデルに近いものであってもよかったはずです。

共通番号が「諸外国」で一様でないことは、デジタル庁がアクセンチュアに委託して取りまとめた調査報告中の一覧でも明らかです。

この表では、共通番号の利用範囲の観点から、
A:行政分野ごとに異なる識別番号を用いて手続を行っている
B:複数の行政分野で共通の識別番号を用いて手続を行っている
C:行政分野のほか、民間分野でも共通の識別番号を用いて手続を行っている に分類されています。

調査対象の14の国・地域の中では、共通番号が幅広い範囲で利用されている国(基本分類:C)が7か国と多いですが、世界全体を見渡せば少数派です。
基本分類Cのデンマーク・スウェーデン・シンガポール・アメリカ・韓国・台湾等は、コンピュータが台頭する1960年代までに共通番号制度を導入して利用範囲の拡大を進めていたとのことです。日本がマイナンバーのお手本のように言っているエストニアは、2000年代に入ってからデジタル技術の活用を前提として共通番号制度を導入しましたが、同国の人口は133万人(川崎市よりも20万人少ない)です。この規模であれば、政府による共通番号制度の運用が適正に行われているかを国民が直接チエックすることが十分に可能でしょう。

一方で、行政分野を跨ぐ共通番号が無い国(基本分類:A)では、ドイツやフランスのように、1970-1980年代に、共通番号の導入や分野別番号の利用範囲の拡大を検討したものの、プライバシー侵害に対する不安や司法判決等を踏まえて導入しなかった国が多いそうです。

オーストラリア… 行政分野ごとに異なる番号(納税者番号、個人ヘルスケア識別番号等)を用いて行政事務を行っている。物理的又は電子的な本人確認(個人認証)として利用できる、日本のマイナンバーカードに類似するIDカードはない。

フランス … 行政分野ごとに異なる番号(社会保障番号、税務登録番号等)を用いて行政事務を行っている。IDカードとしては、Vitaleカード(電子健康保険カード)などがある。

ドイツ … 行政分野ごとに異なる番号(税務識別番号、医療被保険者番号等)を用いて行政事務を行っている。1983年に汎用的な個人識別番号の違憲性を示唆する連邦憲法裁判所の判決が出されている。行政サービス等の利用にあたっては、ICカード(eIDカード)に格納された電子証明書を用いた個人認証が利用されている。

イギリス … 基本的には行政分野ごとに異なる番号を用いて手続が行われているが、分類としてBとなっているのは、国民保険番号が社会保険分野と税務分野において共通的に利用されているため(但し、複数の行政分野を所管する歳入関税庁に閉じた形での利用)。

米国 … 行政分野のほか、民間分野でも共通番号(社会保障番号)を用いて手続を行っている。1960年代以降、個人情報の流出やなりすまし等の犯罪が社会問題化しており、現在でも個人情報保護に向けた法改正等が行われている。社会保障番号が記載されている社会保障番号カード(SSNカード)があるが、ICカードではなく、紙である。

以上、抜粋して紹介しましたが、詳細は「報告書」をご覧ください。上掲の一覧表中のセパレートモデル・フラットモデル・セクトラルモデルの分類はp25に図解されています。
「諸外国における共通番号制度を活用した行政手続のワンスオンリーに関する取組等の調査研究」 報告書(概要版) (digital.go.jp) (2022年5月)

 

マイナンバー制度そのものの見直しを
マイナンバー法が成立して既に10年が経ち、カードの取得者も8割に達っしそうな状況ですが、今般のマイナ保険証のトラブル続出は起こるべくして起こったとも言えます。

個人にとっては利便性が実感できなかった一方で、個人番号・カード(券面)・電子証明書のシリアル番号(公的認証機能)の3様を併せると極めて汎用性の高い(=機能てんこ盛りの)共通番号制度であり、結果的に「安心して使える制度という信頼感」を持てなかったことで低迷していたカード取得率を、ポイント付与というアメと紙の健康保険証の廃止というムチで押し上げた強引さが、さらなる不信感を招いています。

政府は、保険証の廃止時期を延期するには6月に成立した改正マイナ関連法を再び改正しなければならないことから、2024年秋に保険証を廃止する方針は維持する構えです。
しかし、点検を徹底してトラブルの再発を防げるようになればそれでよい、というものではありません。健康保険証を廃止することでマイナンバーカードの取得を実質的に義務づけることは、カードの任意取得を原則としたこの制度の根幹を揺るがすものであるから許されないのです。
まずは、保険証廃止の撤回を求めたいと思います。

そして、欧州各国の共通番号制度の多様な展開と、その底流にある、「個人情報保護と個人の権利の尊重という考え方」を参考にすれば、日本のマイナンバー制度は個人よりも企業の利益と行政の業務効率を優先したものと言わざるを得ません。抜本的な見直しが必要だという認識を今こそ広めていかなくてはならないと痛感します。