財政状況「引き続き好調」の令和4年度決算審査を終えて

10月4日の10月定例会最終日、令和4年度鎌倉市一般会計歳入歳出決算ほか決算6議案の採決が行われました。一般会計の決算を「不認定」としたのは、ネット・共産党・無所属議員2名でした。
採決前、決算審査の総括として、次のような「反対討論」(一部を省略し、小見出しを付記)を行いました。

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審査にあたっての問題意識
1年8カ月前に行った令和4年度予算にかかる会派代表質問では「様々な危機に対してレジリエントな社会にしていくための施策を手厚くしていかなくてはならない」と述べるとともに、松尾市長の就任以来、他市がやっていない新規の取組みに力を入れ、それを市政のアピール材料にしていることへの違和感と、事業の遂行にあたって市民との間で信頼関係が揺らぐ事例への危機感を表明しました。
そして、予算案採決前の討論では、激しい変化の時代においてこそ求められる「大きな構想」が見えてこないということを、福祉の分野と市民参加によるまちづくりの分野をあげて指摘した後、一般会計予算については反対をしております。

歳入歳出決算の審査では、予算審査時のこうした問題意識を踏まえて1年を振り返った結果、財政運営が適正に行われたかどうかということよりも、事業の取組状況に着目して不認定とすることに致しました。
判断材料としたことを全部上げることはできませんので、ここではいくつかに絞って触れたいと思います。

生涯学習センターの管理運営(利用者目線の利用枠の設定に)
2022年3月25日に市長は臨時会を招集し、1週間前の2月定例会最終本会議で可決した、鎌倉市生涯学習センターの利用区分を前年12月の条例改正による変更以前に戻す議員提案の議案を再議にかけ、これを廃案にしてしまいました。結果、生涯学習センターは、2022年10月以降、集会室の利用区分を2時間刻みにするなどの新たな利用区分で運営されています。
先ほど、「事業の遂行にあたって市民との間で信頼関係が揺らぐ事例への危機感」ということを申しましたが、生涯学習センターの利用区分を巡るこの経緯はまさに危機感を抱かざるを得ないものです。

議会の付帯決議を踏まえて2023年2月下旬から約3か月間にわたって「生涯学習センターの利用に関するアンケート調査」が行われました。先頃公表された調査結果は、変更後の利用区分に利用団体の利用実態・利用ニーズと乖離している部分があることを示しています。
「このままという訳にはいかないと考えている」との議会答弁もありました。アンケート調査に協力した利用団体・市民の声にしっかりと向き合うことで信頼の回復を図ってください。

鎌倉版フォルケホイスコーレ
新しさと独自性で市長がアピールする事業ということで、鎌倉版フォルケホイスコーレと不登校特例校について触れます。監査委員の審査意見書ではチャレンジ精神という言葉も使われていましたが、新しさや独自性がよくないと申し上げているのではなく、事業の狙いが定まっているのか、進め方が妥当なのか、ということを問題にしています。

鎌倉版フォルケホイスコーレは、事業の狙いを明確にする必要があります。
「委託先となっている、人材育成や産官学民連携のコーディネート事業を行う事業者ありきのプログラムではないか」という点、さらに「約600万円いう金額で委託するのが妥当なのか」という点について議論の余地があると思います。また、事業の対象とされている、「現状や将来に不安を抱く市民」「自分探しの途上の市民」の参加が実際にあるのかどうかも検証した上で、翌年度以降の実施について考えるべきです。

不登校特例校の設置が決まったプロセス
不登校特例校の設置に向けた取組は、第4期基本計画・実施計画の見直しが2022年度に行われた際に実施計画に位置づけられており、同年7月の総合教育会議及び11月の教育委員会会議で議決され、年度途中に埋蔵文化財確認調査業務委託料がつきました。
その前年、2021年秋に行われた市長選挙の松尾市長のマニフェストに不登校特例校の設置が掲げられていることは承知していますが、市長マニフェストから実施計画への位置づけに至る議論・検討の過程が見えてきません。

不登校の子どもに対して多様な学びの場を保障するということについては異存はありませんが、それが何故不登校特例校の設置なのか、どこでどのように決めたのかということについては、議論の過程がもっと示される必要がありました。

スマートシティと市民参加型プラットフォーム
理事者質疑を行ったスマートシティについては、基本構想の中で示されている、市民ニーズや課題を見据えた「市民起点」という理念が実際の取組みにどう生かされるのか注視したいと思っています。

2023年9月27日決算等審査特別委員会における理事者質疑

2022年度からモデル事業を続けている市民参加型共創プラットフォームは、バルセロナ市の市民参加型プラットフォーム、デシディムDecidimを参考にしているとのことです。デシディムは市民による草の根の政策提案などに使われ、オンライン版の直接民主主義のツールとも言えるものです。
「意見聴取のためのオンライン掲示板」の域を出ない使い方のままであれば、似て非なるものとなってしまいます。

「共生社会の実現をめざし、人に優しいデータやテクノロジーを活用する」ということに関し、「テクノロジーの活用は目的ではなく、テクノロジーを活用していることを意識しないで使っているというのが望ましい」という市長の答弁は理解できるところです。
ただ、現状は、市民参加型共創プラットフォームのモデル実施を除くと、データ連携の基盤作りと事業者等からなる官民協議会の活動が先行してるように見えます。「このようなデジタル技術やデータの活用で、こんなサービスが可能です」というユースケースの収集に偏らず、市民起点の部分をどう具体化させるかが問われると思います。

市民に向き合う説明責任
2022年12月定例会で市役所の位置を定める条例が否決されました。これは、その時点において出席議員の3分の2という議会の合意に至らなかったということを意味するものであって、市役所移転を不可とする市民の判断が下されたということではありません。

ただ、大きな背景として、市民の間に、鎌倉市は良い方向に向かっているという実感、市役所を深沢に移転すればもっと良くなるという期待感が高まっていないという状況はあると思います。
良い方向に向かっているという実感が持てないことの例を身近なところであげれば、学校施設の老朽化です。
学校施設の老朽化対策が市役所の移転・整備が優先された結果後回しにされているという関係性はありません。そうではあっても、ひとつの事業の計画が示され、、もう一方で示されていなければ、「ない」方に後回しにされている感覚は生じがちです。

学校施設の老朽化はひとつの例で、防災などについても同様ですが、市民の信頼や期待感を得るには、多くの市民が課題と感じていることについて、行政として取り組む道筋を示すこと、一つひとつについて説明責任を果たすことが必要です。