仙台市沿岸部と山形県東根市のPFI活用施設を行政視察

鎌倉市議会建設常任委員会の行政視察で、10月19日に仙台市沿岸部の南蒲生浄化センターと震災遺構荒浜小学校、20日に山形県東根市の「まなびあテラス」を訪ねました。

仙台市南蒲生浄化センター
100万都市・仙台の汚水の70%を浄化処理(処理区域人口75万人)して海に放流する施設です。
東日本大震災では大きな被害を受けましたが、センターで処理をする2本の汚水幹線のうち第一幹線は概ね自然流下、中継ポンプ場を経由する第二幹線は、主要なポンプ場が停電時も非常用自家発電機で起動して流下が保たれ、仙台市内では大規模な溢水は発生せずに済みました。

復旧にあたっては、▽水処理施設を大震災時の津波の高さ10.4mを考慮した高い構造に再建▽新たな防水扉の取り付け▽広い敷地内の海岸に近いところには津波避難施設を設置▽処理施設上部に太陽光発電パネルを敷設 するなど、津波対策を講じた「強い施設づくり」が行われました。

センターの敷地は23.48haと広大(山崎浄化センターの4.4倍)ですが、押し寄せた波の力で壁が変形した海岸寄りの建物(第3ポンプ場)まで案内してもらい、津波の驚異的な強さを垣間見た思いでした。地震・津波に対して脆弱な鎌倉市の下水道の再構築が急がれると改めて実感しました。

津波対策をした水処理施設

津波の水圧で凹んだ第3ポンプ場の壁面

震災遺構 荒浜小学校のある荒浜地区の津波に対する多重防御
南蒲生浄化センターから南に4㎞弱くだったところにある旧荒浜小学校(海岸から700m)は、校舎の2階まで津波が押し寄せましたが、避難した児童・教職員、住民320人は、全員が地震発生から27時間後までに屋上からヘリコプターで救助されました。

2017年5月から震災遺構として公開されており、私は遺構指定前の2016年5月に1度、指定後に2度訪ねています。
今回は4回目の訪問でしたが、仙台市防災環境都市推進室震災メモリアル事業担当課長と荒浜の隣の地区の出身で地域コミュニティ再興の活動に取り組んでいる若い職員のお二人にに案内していただき、住宅などの建築が禁止される「災害危険区域」に指定されて約1,540世帯の「防災集団移転」が行われたこの地域における震災遺構の位置づけなどについて詳しく知ることができました。

鎌倉市の防災との関係で最も注目されるのは、この沿岸部における多重防御の考え方による津波防災施策です(展示模型の写真下の説明 参照)。

集団移転の対象となった荒浜地区・南蒲生地区と市街地が広がる鎌倉市の沿岸部とでは事情が全く異なるのですが、堤防あるいは津波避難施設といった単独の防御策ではなく、多重防御が必要だという点はどの沿岸部においても共通していると切実に感じました。

多重防御: 海岸線に海岸堤防、海岸防災林 ➡ 堤防内側の防災集団移転跡地に整備された公園や周辺施設等利用者の津波来襲時避難場所となる避難の丘を造成➡ その先にかさ上げ道路(県道 塩釜亘理線)を新たに敷設 ➡ その先の津波浸水想定区域(居住区域)には、タワー型施設6箇所・消防団施設併設ビル型施設5箇所・小中学校の津波避難屋外階段2か所の計13か所の津波避難施設を新たに整備➡ 東日本大震災の津波は、盛土上に敷設されていた仙台東部道路 (模型奥) に阻まれてその先には侵入できなかった。この道路には避難階段が付けられた。

 

東根市まなびあテラス
2日目は仙台駅前から高速バスに1時間20分ほど乗って山形県東根市へ移動。

図書館・美術館・市民活動支援センターからなり、様々な世代の芸術文化活動と交流の拠点となる公益文化施設「まなびあテラス」(2016年11月開設)を視察しました。
とにかく敷地面積が広い。22,491㎡は、鎌倉市役所現庁舎の敷地の1.57倍の広さです。そこに、建築面積4,381㎡の平屋(延床面積4,401㎡)でゆったりと配置した開放感のある施設で、芝生広場・読書広場・交流広場の緑に3方を囲まれています。

まなびあテラス(駐車場側)

児童図書のスペースの書架は低い(幼児用はさらに低い)が一般図書もこれより1段多いだけの低い書架

利用者にとって居心地のよい空間、という意味で羨ましい限りの施設ですが、視察先に選んだ理由としては、PFI()手法の調査ということがありました。
PFI:民間の資金と経営能力・技術力を活用し、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を行う公共事業の手法

まなびあテラスで採用されている手法
整備手法PFI(BTO)方式。BTO(Build Transfer Operate)は、PFI事業者が公共施設を設計・建設して竣工した後、直ちに行政が施設を買い取り、その代金を契約期間を通して割賦で支払う方式。
まなびあテラスでは、鹿島建設・NECキャピタルソリューション・図書館流通センター等が「(株)メディアゲートひがしね」というSPC(特別目的会社)をつくって設計・建設等を行いました。施設完成後、東根市はSPCに20年間の割賦払いをしています。
施設の管理運営は、SPC構成企業の図書館流通センターが行い、その経費は指定管理料として支払われています。

PFI採用のメリットPFI導入可能性調査において、整備においてPFIを採用しない場合よりも6億5千万円の経費削減が見込まれた ▽性能発注により、質的に市側で考えていた以上のレベルの施設整備ができた ▽管理運営において、事業者の専門性やノウハウが活かされている  ーとのことです。

鎌倉市の新庁舎等整備基本計画の「事業手法の分析」では、官民連携において「まなびあテラス」で採用されたPFI-BTO方式(割賦型)は有力視されていませんが、市庁舎整備では有力視されない理由が腑に落ちたことも含めて、「こういう官民連携の手法もあるのだ」というケーススタディとして、現場で担当者から説明を受けられたのは有意義でした。

2023.10.19 仙台市南蒲生浄化センター (元)第3ポンプ場