北鎌倉隧道開削決定の根拠が揺らいでいる

 1028日の総務常任委員会で、北鎌倉隧道の開削工事にかかる経費を含む補正予算案が賛成2、反対3、退席1で否決されました(反対は、神奈川ネット、共産、無所属)。
補正予算案は、30日の本会議では賛成多数で可決し、北鎌倉隧道の開削工事に今年度8,020万円、来年度4,130万円の予算が付いてしまう可能性が高いですが、安全対策として開削工法を最終的に決定したことについて、建設と総務の両常任委員会では、多くの問題点が明らかになりました。

安全性の確保と景観保全の両立で、なぜ開削工法?
鎌倉市は、
821日開催の建設常任委員会協議会において、北鎌倉隧道の安全対策を開削工法で行う決定をしたことを報告しました。安全性と景観保全の両立ができないかどうかの検証業務をトンネル技術協会に委ねたが、開削せずに残す「補強案」でも外観は人工的なものと化して景観の保全とはならず、一部を素掘りのままにすることで安全性に不安が残るが、一方の「開削案」では、安全性も確保でき、周辺景観と調和する工法の選択の幅がある、というのが開削決定の理由でした。
これに対して私は番外発言を行い、補強案のイメージ図が人工的外観を強調したものになっていて、開削案への誘導を意図しているとも認められ、方針決定の理由の説明が不十分である旨を指摘しました。この時の市の説明は、トンネル技術協会が818日に提出した検証業務の中間報告書に基づいて行われました(以上、同日付のHP記事参照)

最終報告書を見て浮かび上がった疑義
トンネル技術協会に委託した検証業務の期限は831日。しかし9月に入っても、協会が納品したはずの検証業務の最終報告書の情報は議会には何も入ってこないので、私は情報公開請求を行い、9月中旬に最終報告書を入手しました。
 道路課の説明は、最終報告書は中間報告書に検証業務の経過資料が加わっただけで、実質的には同じだ、ということでしたが、追加された検証業務の資料を細かく見ていくと、新しい発見がいくつもありました。その一部を挙げると、
◇報告書に示された方策案についての「総合所見」は、検証委員会の委員から出た意見をかなり取捨選択して集約したものである。安全性についての重要な指摘が反映されていない
◇検証委員会そのものが、625日と717日の2回しか開催されておらず、第2回は4名の委員のうちの3名のみの出席であった(欠席の委員は開削に慎重な立場)。717日以降委員会が開催されなかったということは、総合所見を含め中間報告書の内容を委員全員そろった場で検討することもされなかったことを示す。
◇検証委員会の開催は2回だが、委員長との打合せは、打合わせ記録簿にあるだけでも5回行われた。委員から追加調査の必要性の指摘があったにもかかわらず調査を行わなかったのは、委員長から指示がなかったからとのことである。

 821日の時点では、中間報告書で示された両案の中から開削工法を選んだ理由の説明が不十分であると考えましたが、検証業務の経過資料を目にして、報告書自体が適切なまとめ方をされているのか疑問を抱くに至ったのです。この間私は文書質問も行っています(HPで既報)。

トンネル技術協会に委託した検証業務は、第三者性が担保されているか
そして、1026日の建設常任委員会で陳情者の口頭陳述を聞くに至っては、トンネル技術協会に委託した検証業務の第三者性についての信頼が大きく揺らいでしまいました。陳情は第17号、18号、21号と3本ありましたが、21号の陳情提出者が開陳された情報は非常にインパクトのあるものでした。
 陳情提出者は、情報公開で入手した協会への委託時の起案文書や委託契約書を読み込んでおられ、協会が市長に提出した見積書の添付資料と思われる「運営業務所要経費」の中に「外注費 320万円」という記載があること、そして、これが平成17年度、25年度の調査を請負ったサンコーコンサルタント(以下サンコー)への再委託であることに気が付きました。協会への業務委託の目的は、17、25年度の既往調査の結果に対する専門的・客観的な検証と、それを踏まえた隧道整備方針の検証と提案です。検証される対象である既往調査の担い手のサンコーが、検証する側の協会の「作業班」(←道路課による呼称)を務めていて、その検証作業の第三者性は保たれると言えるのでしょうか。私は陳情提出者の陳述の後、今回もまた番外から発言して、この点を指摘しました。
 サンコーがこの検証業務に関与していたことは、報告書中の図面を見ればわかりますし、説明要員として打合せや検証委員会の場に出席することについては合理性があり、全否定はできないと思っていました。しかし、鎌倉市が協会に対して支払った業務委託費450万円(税抜)のうち320万円が外注費として協会からサンコーに支払われていた以上、話は違います。検証委員会委員への出席謝礼はわずか165千円です。
 私の質問に対しては、サンコーもトンネル技術協会の会員団体である、委託した業務の経費の大半を占めるのはデータ・資料作成にかかる「人」の経費であり、作られたものは検証委員会の専門家の委員がチェックしている、といった答弁がありましたが、再委託における第三者性が確保されていない疑いを晴らすものとは全くなっていません。
 しかも、赤松委員が行なった理事者質疑では、松尾市長が、1023日に北鎌倉緑の洞門を守る会のメンバーと面会して彼らから聞くまで、サンコーへの「外注」の事実を御存じでなかったことが明らかになりました。

開削の補正予算をつけて本当によいのか
 1028日の総務常任委員会にかかった補正予算案の中には、道路維持補修事業「北鎌倉隧道安全対策に係る経費の追加」として、開削工事の工事請負費5,220万円、JRが行う工事の経費の負担金2,800万円の計8,020万円(別に来年度の工事請負費として4,130万円)が計上されています。

 このうち、負担金は、開削時に土砂がJR構内になだれ込むのを防ぐ防護柵をホームのフェンスに接して設置し、ホームの屋根の一部を外したり、電線の位置を変えたりする工事をJRが行う経費を100%市が持つもので、設置工事等は終電と始発の間の3時間くらいしか行えません。
開削工事は、隧道の鎌倉寄りの隣地に重機を置いて作業するもので、駅ホームの防御壁の完成後は、電車が通る時間帯も工事を行い、全体で2712月から286月までの180日間で工事を完成させると言っています。山側の高さを少し削って低くして7mの法面をつくりますが、法面(表面)の工法は住民と話合って決めていくそうです。

 委員会では、先に行った文書質問に対し、「土地所有者や近隣住民への協力要請は、予算が措置された後に行う」と回答してきたことを重く受けとめて、工事の実施が支障なくできるのか、協力が得られなければ工事経費が膨らむのではないか、工事完成後の通行が地域での争いごとのタネになる恐れはないのか、といったことを質しました。
 隧道の鎌倉側の入り口付近は民有地で、現況で道路として人々が通行している「公衆用道路」とのことです。従前の通行の状態とは異なり、重機などの工事用車両を移動させたり、開削後に不特定多数の車両が通行することも、「公衆用道路」の現況があれば可能なのだ、というのが都市整備部の見解です。建築基準法上の道路に該当すれば、公道でなくても「公道に近い性質をもつものとして所有者の許可を要せず自由に通行できる」という性質があることを認めた判例があることについては私も聞き及んでいます。しかし、現実問題、土地の所有者が開削工事はさせない、と強硬的な姿勢に出た時にそれを易々と無視するのでしょうか。少なくとも、事前に協力要請をしていないというのは問題であり、そのステップを踏まずに予算を付けることは禍根を残すことになる、と述べました。
当該地の地権者の同意だけでなく、工事の手法や工程について詳しく聞けば聞くほど、工事ためのスペースが限られていて、しかも駅ホームに隣接という現場の状況からして、予定の工期と工法、予定の経費での開削工事の実現可能性に首をかしげざるを得ません。開削工事に予算を付けることには反対、という結論以外見出せません。

 検証委員会の専門委員の一人が、隧道の形を残しての保全策の方が開削して急傾斜の法面を作るより、はるかに安全性が高い、一刻も早く生い茂った樹木を根本のところで切り取らなければ危険、と指摘されているのは、現場の状況を客観的に見た重みのある意見だと思います。
 保全を求める多くの市民にとっては、緑の景観、歴史的風致を将来の世代に残せるかどうかの問題です。委員会でのやり取りの中で都市整備部は「これは道路の改良工事です」と繰り返していました。この溝はとても深い。