命の水、水道事業について考える

5月21日、大船学習センターに、町井弘明さん(かわさきの安全でおいしい水道水を守る会・代表)、飯岡ひろしさん(都市と水の研究所)をお迎えし、「神奈川の水道問題と民営化」と題した学習会を開催しました。
内容は近代水道の前史や憲法25条(生存権)に始まって非常に多岐にわたっていましたが、主要な部分を紹介します。

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1.神奈川の水道

◆ 神奈川県営水道
・水道事業は水道法で、市町村が運営することが原則とされているが、水源開発などによる財政的負担が大きいことから、神奈川県は1933年より日本で最初の県営広域水道事業を開始した。

・現在、鎌倉市を含む12市6町を給水区域としている。給水面積が広いため人口密度が低く、効率的な施設配置が難しいという地理的条件を抱える。

・県営水道の水需要の大半は、自己水源(=相模川水系の寒川及び谷ヶ原地点からの取水)と水道企業団(後述)からの受水でまかなわれている。
神奈川県水道施設概要図のサムネイル (企業団HPより)

鎌倉市の水道水源は90%以上を相模川水系(相模川から取水する寒川浄水場経由の水)、残りを酒匂川水系に依拠している。

・水需要の減少から、神奈川県水道事業検討委員会は将来構想として浄水場等水道施設を統合する方向性を示している。
しかし、施設数を減らすことで大地震等の災害時に脆弱なインフラ網になる懸念はないのか。

◆ 神奈川県内広域水道企業団
・水道企業団は、県東部地域における高度経済成長期の急激な水需要の増加に対処して酒匂川の水源開発を行うため、神奈川県、横浜市、川崎市、横須賀市の4水道事業者が1969年に共同で設立した特別地方公共団体(「水の卸問屋」)。
その後、宮ヶ瀬ダム(相模川水系)の水も取水することとなり、現在では、4事業者の総給水量の約半分を企業団が供給している。

・企業団には県議会、横浜・川崎・横須賀の市議会から選挙された議員11名による企業団議会があるが、県営水道の給水区域の自治体議会の枠もなく、議会として機能しているようには見えない。

酒匂川水系の三保ダムは堆砂問題が深刻化。企業団は、酒匂川の水を最下流の飯泉取水堰で取水しているため、土砂流入の濁り対策で年間20億円近い費用をかけて浄化、農薬汚染対策も必要で年間100㌧近い活性炭を使用。

・水需要の減少により県全体として給水能力が水需要を上回る「水余り」の状況がある。
川崎市は、企業団による酒匂川の水の供給を受け続けるために、自前の水源である生田浄水場を工業用水道事業の施設部分だけを残して廃止した。
生田浄水場の水は地下水を水源にする良質な水であった。防災の観点からも自前の水源を廃止するべきではない。

<参考>小田原市には飯泉取水堰があるが、同市での企業団の水の給水は一部地域で、残りの地域の水道水は自前の地下水が水源。
秦野市は、水源の約7割を豊富な地下水で賄っている。

 

2.改正水道法で民営化が可能に? ~水道コンセッションは問題が山積

◆ 水道コンセッションとは
改正水道法(2018年12月成立、2019年10月施行)により、水道事業者である自治体は、自らの判断でコンセッション方式を採用することができるようになった。
水道コンセッションでは、水道インフラの所有権は公に残すが、水道事業の運営権は、20年以上の長期間の契約を交わした民間に全面的に委ねる。

◆ 政府があげている水道法改正理由はおかしい
理由「人口減少による水道料金の減少で独立採算の水道事業経営が困難になっている」
 ⇒ 反論 公営企業のあり方、独立採算性が揺らいでいることを真正面から受け止め、税金を投入するべきで、公営は非効率だから民間に委ねるという「新自由主義」「市場原理主義」に走るのは危険。水は憲法25条の生存権保障の要であるから、水道施設の耐震化、更新費用は国が負担していけばよい。道路と比較すると水道に対する税金投入はあまりに少ない。

理由「高度経済成長期に建設した水道施設の更新は水道事業者が担いきれない大きな負担になる」
 ⇒ 反論 インフラ更新を民間がやれば安くできるという保証はない。民間は採算が取れないことはしないから、施設更新を怠るおそれもある。
 ⇒ 反論 また、水道管路の老朽化ということがしきりに言われるが、耐用年数40年というのは公営企業会計における減価償却の計算要素としての耐用年数であって、タグタイル鋳鉄管であれば実際の耐用年数は80年程度と考えられる。

理由「水道事業を支えてきた技術者の年齢があがり退職していく」
 ⇒ 反論 民間に運営の全てを長期にわたって委ねてしまったら、もっと技術者がいなくなる。水道法改正では、コンセッション方式のモニタリングを誰がやるかが問題となった。モニタリングができるだけの知識と経験が自治体に蓄積されなくなるのは大問題。

◆ 問題は山積
・責任の所在が不明確になる。改正水道法が強調する「水道基盤の強化」は、国から自治体に対する「自分のことは自分でやれ(大変だったら民間に委ねろ)」という指示。

採算性重視の運営で、施設の維持・更新経費が削られたり、水道料金の値上げにつながりかねない。

・水道技術の継承を困難にし、地方公営企業の技術力・人的基盤の喪失につながる(モニタリングができる体制も維持できなくなる)。

災害時に十分な対応ができるのか。

再公営化という状況になった際、自治体が民間事業者に巨額の違約金を支払うことになるおそれが大きい。

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結 び
神奈川県が近い将来において水道コンセッションの導入をはかる確率は低いとしても、国が水道法を改正させた背景・意図については警戒が必要で、注意深く見て行かなくてはならないと思います。
県営水道や水道企業団は大規模で水道事業の全貌や将来像が把握しづらいですが、暮らしに欠かせないライフラインという意味では、これ以上身近なものもない訳で、もっと「私たちの水は私たちで守る=自治」と捉えて取り組んでいかなくてはならないテーマであると感じました。