気候危機を考える

10月24日、気候危機について考えるオンライン学習会に参加しました。講師は、気候ネットーク国際ディレクターの平田仁子(きみこ)さんです。

石炭火力発電の全廃に踏み出さない日本は、国際社会から温暖化防止に消極的であると非難されています。政府は温室効果ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針をようやく固め、菅首相が26日の臨時国会での所信表明演説に盛り込むそうですが、平田さんのお話は、日本政府の取組み姿勢の問題点を鋭く指摘し、あるべき方向性を示唆するものでした。

2030年までの10年間が重要
IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)が2018年10月に発表した特別報告書は、世界平均気温の産業革命以前と比較した上昇幅を1.5℃未満に抑える目標を示し、2050年には世界全体のCO2排出量を正味ゼロにすることを各国に求めるものでした。

しかし、多くの国が「2050年温室効果ガス排出 実質ゼロ」の目標と施策を掲げているにも関わらず、このままでいくと早ければ2030年に1.5℃上昇してしまう恐れが大きいとのことです。平田さんは、この10年間の取組みの重要性を強調されていました。

では日本政府の取り組み姿勢はどうかというと、「CO2の大幅削減は現状では難しいが、将来の技術開発・イノベー ションで大幅削減し、脱炭素社会を目指す」というイノベーション依存であり、2030年までのCO2の大幅削減に照準を当てたものにはなっていません。

政府が今年1月に出した「革新的イノベーション戦略」は、脱炭素社会化を成長戦略として捉えたもので、特にエネルギー転換においては、再生可能エネルギーの主力電源化を掲げつつも、化石燃料から作られる水素の活用や核融合エネルギー技術の実現なども織り込まれており、またCO2分離・回収技術の確立に依存するなど、危うさが目立ちます。

革新的環境イノベーション戦略のサムネイル

革新的イノベーション戦略(抜粋)

欧州はイノベーション頼みではなく産業構造の転換、雇用の確保の視点
欧州委員会は、2019年12月に提示した政策案「欧州グリーンディール」において、2050年までに域内の温室効果ガス排出を実質ゼロ(≒気候中立)にする目標を掲げました。

続けて公表した、今後10年間で1兆ユーロ以上の投資を行う計画の中には「公正な移行メカニズム」という考え方が示されました。
気候中立的で競争力のあるグリーン経済への移行には、産業構造の転換が必要であり、それを公正かつ誰も取り残さずに実現するには、電力・化石燃料の業界や鉄・セメント・化学・製紙などのエネルギー多消費産業に従事している人々の他の分野への転職(雇用確保)のための多様な支援が重要であるという考え方です。

イノベーション頼みの日本とは大きく異なる姿勢です。

自治体の宣言の横並び化を超えて、地域から変えていく
神奈川県内で「2050年温室効果ガス排出 実質ゼロ」を宣言しているのは、県・横浜市・川崎市・相模原市・鎌倉市・小田原市・三浦市・開成町ですが、政府が宣言すれば、全国の自治体が次々と横並びで宣言をするでしょう。
既に宣言している自治体も、具体的な施策や工程表を明らかにしているところはほとんどなく、宣言をしただけにとどまっています。

神奈川にあっては、180万世帯分(神奈川県の排出量の約1割)に相当する726万t/年のCO2を排出する横須賀石炭火力発電所の問題から目を背けることはできません。
再生可能エネルギーの導入・創エネの実践・エネルギーの地産地消。
産業構造の転換の促進とそのための投資、雇用対策。
消費者として、グリーン経済・再エネ100%使用を実践する企業の支持。
CO2排出抑制の視点からの住宅・建築・交通部⾨での主体的実践や食生活の見直し…。

将来的イノベーションへの依存ではない、今できる取組みを考えなくてはならないと思います。