自治体の個人情報保護を後退させない

デジタル化の推進でデータ流通を重視した法改正
2021年5月、国はデジタル改革関連法の一部として、個人情報保護法を改正しました。改正法の施行は2段階で行われ、2023年春には国の行政機関に関する規定が自治体にも適用され、自治体は2022年度中の個人情報保護条例の改正を迫られています。

個人情報保護については、国が電算情報に限定した法律しか制定していない中で、1985年に川崎市、1988年に神奈川県が都道府県で初めて条例を制定しました。その後全国の自治体が、法律よりも手厚く個人情報保護を規定した神奈川県の条例にならって条例を制定していったという経過があります。

改正法は、自治体によって条例の規定に差異があることを「データ流通を阻害するもの」と捉えて、自治体が長年運用してきた条例を国と同じルールに合わせて画一化しようとしています。憲法に定める地方自治、条例制定権の観点からも看過できない問題です。

個人情報保護委員会は監督機関。「法の解釈運用を一元的に担う」として、自治体の主体的解釈を否定するようなことがあれば問題!

後退が懸念される個人情報の取り扱い
国が設定した共通ルールと異なるため、見直しを迫られる条例の規定には次のようなものがあります。
自治体の条例は、病歴、障害、犯罪歴、犯罪被害歴などプライバシー性の高い要配慮個人情報については原則として取り扱ってはならないとしたうえで、例外的に取り扱う場合を制限しているが、国は取扱いの制限を規定していない
条例は、個人情報の収集は原則として本人から収集しなければならないとしているが、国は規定していない
条例は、オンライン結合による個人情報の提供の制限を定めているが、国は「デジタル化の推進に反するのでオンライン結合を制限することは許されない」としている

また、非常に大きな問題として、自治体が設置している個人情報に関する審議会の役割を極めて限定的なものにしていることがあります。
審議会の最も重要な役割とされてきた「個人情報の取得・利用・提供・オンライン結合等について、類型的に諮問すること()」を認めない、としているのです。
(参考:鎌倉市の審議会への諮問 鎌倉市/情報公開個人情報保護運営審議会答申一覧 (city.kamakura.kanagawa.jp)

行政機関匿名加工情報
もう一つの大きな懸念材料は、行政機関等匿名加工情報の導入が義務付けられることです。そもそも2021年の法律改正は、匿名加工した個人情報の利活用が政府の成長戦略に組み込まれたことを背景に、個人情報を民間のビジネスにも利用しやすくすることを狙ったものだと言っても過言ではありません。

改正法では、自治体も匿名加工情報の利用を希望する民間事業者等からの提案募集の義務付け対象とされます。民間から「匿名加工した個人情報を利活用したいので提供してほしい」と言われたら原則断れない、という意味です。当分の間は 都道府県と指定都市だけがこの義務付けの対象になりますが、一定期間の後に一般市にも義務付けが及ぶ可能性があります。

代表質問への市長答弁は ?
2月18日に行った会派代表質問では、国のガイドライン等に従った条例改正を行って個人情報保護施策を後退させないこと 匿名加工情報提供制度の導入には慎重であること ― を求めました。
これに対し、市長からは 新年度中に条例改正を行うにあたり、必要に応じて市の情報公開個人情報保護運営審議会の意見を聞く 匿名加工情報提供制度の導入とその時期については先行自治体の取組を注視して判断する ― との答弁がありました。

審議会への諮問
共通ルールに合わせることを自治体に要請している改正法ですが、一方で「地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、(略)区域の特性に応じて(略)個人情報の適切な取扱いを確保するために必要な施策を策定し(略)実施する責務を有する」と規定しているのも事実です(同法5条)。

条例改正にあたっては審議会に諮問することが必須ですが、個別の規定が改正法に照らして見直す必要があるかどうかだけを諮問するのでは不十分です。
国が掲げる「個人情報保護とデータ流通の両立」を敢えて真正面から受け止めれば、データ流通に便宜をはかることばかり重視して、現条例の個人情報の保護と市民サービスの水準を低下させてはいけないことになります。「個人情報保護とデータ流通の両立」を鎌倉市の条例改正において如何に実現させるか(具体的には、法律の範囲で許容される独自の保護措置のあり方)について諮問し、個人情報保護を後退させない姿勢を示した条例改正にしてほしいと思います。

条例改正後、審議会には「類型的に諮問すること」が認められないとのことですが、鎌倉市の個人情報保護の水準と一定の自主性の維持のために審議会が機能を発揮し続けられるよう、その位置づけや諮問の仕方を工夫していくことも必要でしょう。