市民の暮らしに大切なことに向き合う市政運営を(新年度予算案 反対討論)

3月18日の最終本会議で新年度予算案が賛成多数で可決しました。採決に先立ち、新年度予算案に反対の立場で「討論」を行いました。
その内容を報告します。(※枝葉をカットして8割程度に縮めています。)

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鎌倉市の都市経営の目指すところは、高齢になっても様々な生き辛さを抱えていても安心して暮らせる福祉の仕組みと地域の支え合い、「子育てするなら鎌倉」と思ってもらえる支援の充実、歴史的風致と緑の保全、そして市民自治が息づくまちであることだと考えます。
外から見た時に「鎌倉って何だか進んでいる」と思われる目新しい施策を追求し、都市間競争で先頭を行くことは二の次でもよいのではないでしょうか。

川喜多映画記念館の庭(右端が景観重要建造物 旧和辻邸)

新奇な事業がその後につながっているか?
普通交付税不交付団体であるため、政府のその時々の地方施策の財源を活用した事業を打ち出すことはわかるとしても、「その後」につなげられているかどうかが問われます。古い話では、例えば、地域経営型PPP事業(2013)、新規循環バス「スーバ」(2014)、着地型観光のプラットフォーム・DMO(2017)などはどうなったのでしょうか。試しでやってみてデータが取れたからよいというものではないはずです。

今回、短期的観光渋滞対策でパークアンドライドや鎌倉フリー環境手形に再度脚光をあてたことは、むしろ珍しく、苦肉の策ではあっても評価しています。
本市の提案が初回の選定から漏れたスーパーシティ型国家戦略特区は、現政権では目玉施策でない印象です。提案の熟度をあげるとのことですが、市民を置き去りにして進めないでいただきたい。
SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業も、その後の市の施策における具体な展開は弱いと思います。確かにSDGsに紐づけはしています。SDGsつながりポイントのようにネーミングに入れたりもしています。しかし、紐づけだけになっていないでしょうか。

鎌倉市のSDGs未来都市は、社会・経済・環境の好循環をうたっています。社会の分野の取組みの中に位置づけられていたのが、(仮称)市民活動推進条例でした。「つながる鎌倉条例」と名付けられたこの条例の策定中、「条例という形をつくることを急ぎ過ぎている」と申上げました。
条例施行から3年が経ち、この間「市民活動と協働を推進するための指針」が作られ、市民活動推進基金が設置され、2022年度には基金を活用したかまくらエール事業に取りかかります。中身が後になりましたが、条例を作ったままでなかったのは良かったです。今後の展開を注視します。

大きな構想が見えてこない―福祉の分野
新年度予算案からは、激しい変化の時代における「大きな構想」が見えてきません。構想と言っているのは、「様々な事業を相互に関連付けてどちらの方向に持っていこうとするのか」というほどの意味で、その一つは、福祉の分野です。

福祉サービスは、従来、高齢者・こども・障害者など「対象ごと」に整備されてきました。加えて2015年には生活困窮者自立支援制度が施行されました。
一方、2017年の社会福祉法改正により、市町村は地域共生社会の実現という命題に向き合うことになり、2020年の法改正では、「属性を問わない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つを一体的に実施する包括的支援体制の整備が、重層的支援体制整備事業と位置づけられました。
複雑化・複合化した事例を対象とすることにより、介護・障害・子育て・生活困窮・心配な世帯の見守りなどの多分野にわたる支援関係機関の連携が促され、「支援対象者に対する支援」とともに、「支援する側に対する支援」の強化にもなるとのことです。
「対象ごと」の福祉事業の担い手不足の現状を前提にして進めるのではなく、担い手不足の現状の改善につながる展開を視野に入れてほしいと思います。また、健康福祉部内にも包括的支援体制の事業を全体的に把握する担当を置くべきではないでしょうか。同時に、地域共生の名のもとに進めるのであるなら、地域に事業のための拠点を配置することも必要ではないかと考えます。

ケアラー支援条例の制定に向けた準備を進めるにあたっても、専門家の知見を集めるだけでなく、支援を必要とする人に向き合う現場および現場を所管する各課等の連携を求めます。

予算審査の中では、高齢者保健福祉計画基礎調査を丁寧に行ってほしいと述べました。国は、介護保険制度の改正の度に保険給付から外す事業を検討しているような状況です。市としては、市民ニーズの把握に努め、必要となった時に必要なサービスがきちんと受けられるようはかってください。

大きな構想が見えてこない―市民参加型のまちづくり
大きな構想が見えてこないと指摘せざるをえないもう一つの分野が、市民が主役の参加型のまちづくりについてです。
かまくらエール事業については、協働の裾野を広げ、地域および社会の課題解決をはかる上で、新しい担い手の発掘・育成と共に、協働の分野・領域を広げることの必要性を指摘しました。
別の課題として、市民活動団体の活動場所(物理的な場所)の提供が挙げられます。その点で、多くの市民団体が利用し、市民自治の拠点とも言うべき生涯学習センターの集会室等の予約が取りにくい状況があり、充足率を高めるという目的で利用枠を細かくするセンター条例改正を行ったことは、元をただせば場所の不足を示すものであり、非常に残念です。

また、コミュニティ・スクールは、「地域学校協働活動」の深堀りがないまま、2022年度は小中学校ペアの2ブロックで先行実施されます。パイロット校から始めるのはよいとしても、その先に目指していることが見えてきません。

予算審査では、市営住宅集約化で大きな規模の地域コミュニティが形成されることに着目し、多世代が交流できる地域のコミュニティスペースや地域福祉の事業所が住居近接で配置されるように求めました。市民参加型のまちづくりの可能性があるところで、可能性を試すことは重要です。

スマートシティの取組の中で市民参加の合意形成プラットフォームの構築を目指すとのことです。
バルセロナ市のデシディムがモデルに上がっています。デシディムは、市民が主体的に多様な政策提案を行うプラットフォームであり、行政が行政情報や保有するデータを公開し、政策決定のプロセスを透明化して市民が主体的に参加できる環境を提供することと一体となった民主主義の装置です。形や名称を参考にするだけでなく、テクノロジー主導から市民主導・市民と行政の信頼関係の構築にシフトした点にこそ注目するべきではないかと思います。

これらいくつかの施策は、所管課は様々ですが、市民が主役の参加型のまちづくりという視点でつながりのあるものとして捉えていくことが大切です。

大きな危機は信頼感の問題
事業の遂行にあたって市民との間で信頼関係が揺らぐ事例が重なっています。予算等審査特別委員会の意見でも広報・広聴の課題があがりました。広報・広聴手段の多様化・アクセシビリティの観点と説明責任の観点の両面があり、説明責任が問われる直近の事例は、やはり生涯学習センターの管理運営の見直しの進め方です。

新年度は、本庁舎整備についての市民説明・市民対話を重点的に進めることになりますが、物分かりの良い若年層を対象にした説明や対話に逃げず、それぞれに考えがあって市の説明に納得されない方たちとの対話こそ重要です。プラスの情報だけでなくマイナスな情報も出して、そこから対話を始めるべきです。

行政DXの流れで全国の自治体の情報システムの標準化・共通化が進むことには合理性が認められない訳ではありません。一方、個人情報保護条例まで国のルールにぴったりと合わせるのはいかがなものでしょうか。個人情報の保護については大きな視点で捉え、これまでのレベルを後退させない「自治の気概」を示すべきです。