強まる一方の身の回りの電磁波- 2022.8 電磁波特集 ①

はじめに
5G対応端末の販売が進み、5G通信エリア拡大に向けて携帯電話会社の中継基地局設置・増強が加速化している中で、健康被害を懸念する声も多く聞こえてきます。しかし、身体への影響は、「5Gだけが問題で、それ以前の世代の移動通信は心配無用」というものではありません。

5G、さらには6Gの導入が進む今だからこそ、国の電波行政の転換(「予防原則」の尊重)がはかられるべきですし、「携帯電話会社に条例の趣旨の遵守(第7条 近接住民等の理解を得るよう努めなければならない)を求める!」という住民の訴えが相つぐ鎌倉市の携帯電話中継基地局条例の運用の改善も必要です。

今回は、電磁波特集と題し、そもそも論からはじめて具体的な提言まで5回にわたって記事を掲載する予定です。

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電磁波は、「電界と磁界が互いに影響し合いながら空間を光と同じ速さで伝わっていく波」全般を指し、可視光・紫外線やX線・ガンマ線などの放射線までも含む広い概念です。
電磁波が1秒間に振動する回数を「周波数」といい、電磁波のうち周波数300万MHz(メガヘルツ)以下が「電波」と定義されます(300万MHz=3000GHzギガヘルツ=3THzテラヘルツ)。【末尾の分類表 参照】

電磁波の中で最も高い3000THz 以上の周波数である放射線が、電離した原子による遺伝子損傷により細胞をがん化させる作用があることは広く知られています。原理的に捉えれば、電磁波には(放射線の億分の1のエネルギーの電磁波も含め)、体内の微弱な電気的伝達による生命活動を乱す作用があります。

人工の電磁波に曝されるようになった歴史は浅い
地球に固有の電磁波・太陽光線・微量の宇宙からの放射線などの自然界の電磁波は太古の昔からあり、人類はこれに適応して生命をつないできました。人工の電磁波が生活環境中に溢れるようになったのは、わずかこの数十年です。スマートフォンやタブレット端末が生活の必需品とされ、モノとモノをインターネットでつなぐ IoT (Internet of Things) の技術が拡大する今日においては、特に無線周波数帯電磁波(30MHz~300GHz)が私たちの身の回りで強まっています。

国の研究機関が10数年で電波ばく露レベルが3倍に上昇と発表
電磁波問題市民研究会の会報134号(2022.1.30)で、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が生活環境中の電波測定結果を発表(2021.12.7)したことが紹介されています。
携帯電話基地局等からの電波ばく露レベルの変動を東京都下の市街地・郊外・地下街における500地点以上で調査し(2019~2020年)、同一地域における過去(2006~2007)の測定結果と比較したものです。

NICTは、
それぞれの地域について過去と現在の測定結果を比較すると、市街地・郊外共に、過去よりも現在の方が電波ばく露レベルは約3倍上昇している傾向が示された。
電波ばく露レベルは上昇傾向にあるものの、いずれの場合も電波防護指針に対して十分に低いレベル(中央値で約1/10,000以下)であり、今回得られた電波ばく露レベルは、最近の海外での測定結果と比べて約1/15である。
ーと結論づけています。
そして「今回の結果は、5Gが測定地域に導入される前のもので、5Gにより電波ばく露レベルがどのように変動するかの参照データとする。今後は導入が進む5Gによる電波ばく露も対象として、長期に測定を継続する」としています。

調査の主たる意図は、今後に向けて5Gの電波に対する健康不安を打ち消すデータを得ることにあるようです。裏を返せば、国もそうしたデータを示していかなくてはまずい、と考えているのでしょう。

電波防護指針の約1/10,000の電波密度だったというと安心してしまいがちですが、同指針が安全性の目安なのかどうかは、次の記事(電磁波特集②)で述べたいと思います。なお、「最近の海外での測定結果」というのは、2020年にロンドンなど英国10都市の主要交通機関やショッピングセンターなど22か所で行われたもので、1/15に大きな意味があるとは思えません。

NICTの公表内容で重要なのは、この10数年の間に電波ばく露レベルが約3倍上昇しているということに尽きるのではないでしょうか。

経験したことのない環境なのだから予防原則が重要
かつてなく強い電磁波が生活空間を飛び交い、スマホなどの端末を長時間身体に密着させ、仕事のほとんどの時間をスクリーン画面を見て過ごす人が急拡大していることが、今後10年先、20年先にどのような影響を及ぼすのか…。本当はいかなる専門家にもわかりません。わからないからこそ、電磁波の規制は、欧州などで採用されている「予防原則」()に基づいて考えるべきものなのだと思います。

(予防原則(Precautionary Principle):環境保全や化学物質の安全性などに関し、環境や人への影響及び被害の因果関係を科学的に証明されていない場合においても、予防のための政策的決定を行う考え方 )

【一社電波産業会 電磁環境委員会HPより】