フランスの法規制の方向性に注目― 2022.8 電磁波特集 ④

電磁波による健康被害を未然に防止する施策を講じている国として、フランスが注目されることについては、特集記事②でも触れました(携帯電話の販売時に頭部の被曝を低減させるイヤフォンなどのセット販売を義務付け/3歳以下の子どもが過ごす保育園などでのWi-Fi使用を禁止)。

これは、2015年2月に制定された「電磁波のばく露に関する節度・透明性・情報及び協議に関する法律」(以下、法律の制定を推し進めたロランス・アベイユ議員の名前から、アベイユ法と略)で規定された措置です。
小学校のWi-Fiは授業時間のみオンにし、授業で使わない時は電源を切ることも、同法に盛り込まれています。

携帯電話中継基地局に「節度」を求めるアベイユ法
アベイユ議員ら環境派は、法案に無線周波数電磁波の規制値の厳格化を盛り込むことを目指しましたが、それは叶いませんでした。フランス政府はICNIRP指針に準じた電磁波規制値を維持したままです。

さらに法律の名称にも、抑制・低減という意味合いが弱まったsobriété(節制・節度・控えめであること)という用語が使われることになりました(もっとも、「節度」は基地局に関する用語として意外に良い表現かもしれません)。

成立のために妥協を強いられたアベイユ法ですが、一方で、実効性のある仕組みを打ち出しています。
同法に基づき、国立通信庁(ANFR)は、人々が居住・滞在し行き交う場所で電磁波が際立って強い特異地点(「typique典型的・定型的」でない地点)の調査目録を毎年作成します。ANFRから当該地点の電磁波の強さを示された携帯電話事業者は、技術的に可能な限りにおいて、6カ月以内に改善をはかることを求められます。事業者対応後の電磁波の数値も調査目録に掲載されます。

上記の仕組みは、6V/m以上の場所を特異地点と見なして運用されています(6V/mは電波密度に換算すると10μW/㎠に相当)。
2021年7月公表の『2020年調査目録』を見ると、1年間に行われた4696か所の測定のうち51地点が特異地点と確認されています。調査目録には2017~2020年の4年間に特異地点としてリストアップされた114地点の一覧表が掲載されています(下記に一覧表の最初のページを転載)。

また、同法は、携帯電話会社が基地局設置計画を申請する2か月前に自治体に計画の概要を伝え、要請があれば被曝量の計算値を提供することを定めています。自治体の長は、提出を受けた情報を住民に提供し、住民に意見表明の機会を与えることができます。

 

「特異な地点」での低減策を促し、状況を公表するのは画期的
アベイユ法の詳細、例えば ANFRが各年に測定する箇所をどうやって決めているのか 6V/mを超える地点が全測定箇所の1%程度(2020年の例では4696か所中51地点)だと考えてよいのかどうか住民からの要請で測定箇所が決まることがあるのか 住民はどのように協議に参加するのか ― などについては把握しきれていません。

ただ、国の機関が毎年大掛かりな電磁波の測定を行い、6V/mを超える場合は事業者に低減策を講じることを促し、その結果を公表しているということだけ取っても、同法が画期的であることは確かです。

ANFR 2020年調査目録(2021.7)
6V/m以上の電界強度が測定された地点の一覧表の最初のページ

 

政府に求めること(その2)

既存の基地局が発する電磁波の強さを懸念する声が住民からあがり、測定の結果「低減が必要な数値」であった場合に、携帯電話会社に低減策を促せるようにしてほしい。

新規の設置計画については、住民からの求めに応じて「ばく露量の計算値」を提示することを携帯電話会社の標準的な対応とし、それが「低減が必要な数値」であった場合には、同様に低減策を促せるようにしてほしい。

そのためには、国として「低減が必要な数値」を予防原則に従い、非熱作用も勘案した上で定めることを求めます。「低減が必要な数値」は、フランスのアベイユ法からも10μW/㎠(6V/m)を目安とすることが望ましいです。結論的には特集③の「政府に求めること(その1)」と同じことを述べていますが、「低減策を促す目安」という視点から求めています。