デジタル社会と自己情報コントロール権の現在地

2022年8月26日 デジタル大臣メッセージ(総務省ホームページ掲載動画の画像)

健康保険証廃止・マイナンバーカードと一体化は2024年秋と発表
10月13日、河野デジタル大臣が記者会見を開き、2024年の秋に現在使われている健康保険証を廃止し、マイナンバーカードへ一体化した形に切り替えると発表しました。

政府は来年3月末までにマイナンバーカードがほぼすべての国民に行き渡ることを目標とし、マイナポイントの大盤振る舞い等でカード取得を促してきました。
それでも、10月11日時点の申請枚数が、全国民の56%にとどまっていることから、健康保険証廃止の時期を明らかにして「早く所得しないと困る」と思わせる策に出たということでしょう。

医療機関を受診するのに必要な健康保険証を廃止してカード取得を迫るのは、カードを取得するか否かを個人の判断に委ねてきた制度から事実上の義務化に転換することで、国会で議論を深めることも経ずに「決めました」と発表したのは、あまりに横暴です。

マイナンバーカードについては、2021年7月8日付 本サイト記事で、カードの仕組みも含めて論じているのでご覧ください。
急速に進む自治体DX? そしてスマートシティ | 保坂れい子 (kanagawanet.jp)

 

日弁連の決議
日本弁護士連合会は、さる9月30日に次の決議を行いました。
日本弁護士連合会:デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守るため、自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める決議 (nichibenren.or.jp)

日弁連が、この決議を行った背景にある現状認識は、
●2021年9月に発足したデジタル庁が進めるのは、データの徹底的な利活用、個人番号カードの全国民への普及、個人番号(マイナンバー)の利活用促進を中心とした計画である。
●個人番号は、当初言われていた税・社会保障の分野にとどまらず国家行政事務に利用範囲が広がり、個人番号カードを通じた民間事業者におけるデータベースの作成には制限がない。デジタル改革関連6法により個人情報保護法制も改正され、地方自治体による住民のプライバシー保護機能の低下が懸念される。
●デジタルプラットフォーマーの活動が著しく広がり、政府主導で官民を横断するデータの利活用が強く推進されている。
というものです。日弁連は、「国に対しデジタル社会において人間の自律性と民主主義を守り、プライバシー権・自己情報コントロール権を確保するための法制度や原則の確立を求める」としています。

マイナンバーについては、
2-(3) 個人番号や個人番号カードが、行政機関や民間事業者による情報監視の基盤とならないよう、個人番号制度は抜本的な見直しを行うか、個人番号及びマイキーID等といった個人識別符号の利用範囲の大幅な限定等を行うこと  を求めています。

提案理由まで含めると23ページにわたる長文の決議ですが、関心のある方は是非ご一読ください。

 

鎌倉市の動き~個人情報保護条例改正パブコメ
デジタル改革関連法によって個人情報保護法制が大きく変わり、自治体の個人情報保護条例が「一律化」の方向で改正せざるを得ないことについては、本サイトでも触れてきました(2022年3月4日、9月29日記事)。

鎌倉市では、10月3日~11月2日の1カ月間、個人情報保護条例改正の意見公募(パブリックコメント)を行っています。
鎌倉市/鎌倉市個人情報保護条例の改正に対する意見公募(パブリックコメント)の実施について (city.kamakura.kanagawa.jp)

「条例の改正方針について意見を募集」とのことで、意見公募のページに改正条例の条文案は載っていないのですが、掲載されている「鎌倉市個人情報保護条例の改正について」というワード文書には、市の考え方が要約されています。

 

鎌倉市の動き~スマートシティ
スーパーシテイ型国家戦略特区
については、昨年4月の提案、10月の再提案ともに特区指定から漏れています。
内閣府は、「自治体により提案内容の『熟度』に差異がある」としていますが、指定されたつくば市と大阪市以外の提案は規制緩和の件数や度合いが不十分ということが大きいようです。規制緩和策を無理やり絞り出してまで、スーパーシティの特区指定を受けるメリットはありません。
なお、政府はデジタル田園健康特区という別の枠も設けて、吉備中央町、茅野市、加賀市を指定しました。

 

スマートシティについては、2022年3月に「鎌倉市スマートシティ基本構想」が策定されました。
6月議会の総務常任委員会で報告されたスマートシティの「令和4年度事業計画」には、次の4本の柱が位置付けられていました。
【柱1】多くの市民が参加できる合意形成プラットフォームの構築
【柱2】データ連携基盤の整備・オープンデータの拡充
【柱3】官民協業のユースケース等の創出とスマートシティサービスの実証
【柱4】戦略的広報と調査・研究の推進

スマートシティ「令和4年度事業計画」より

【柱3】のスマートシティサービスは、リーディングプロジェクトに位置づけた「防災・減災」、「交通・混雑」の分野において考案し、サービスの実証までを目指すようです。

【柱2】のデータ連携基盤の整備については、データ連携基盤の初期投資等の経費補助を目的とした総務省事業に応募し、財政支援を受けることになりました。

スマートシティのスマートシティたる所以は、テクノロジーとデータの活用であり、産官学民の連携です。鎌倉市スマートシティ官民研究会には、一般会員として10月17日現在158団体が加盟しています。
20221017_ippannkaiinntourokujyouhou.pdf (city.kamakura.kanagawa.jp)

2022年度は、データ連携基盤を構築し、上記スマートシティサービスを接続し、運用を開始するとのことです。
スマートシティサービスがどのようなものになるかわかりませんが、注目したのは「事業計画」に「(データ連携基盤は)オープンデータのみを扱う基盤として整備するため、パーソナルデータは扱わない。」と書かれていたことです。委員会でも課長が 「パーソナルデータ(個人情報)は扱わない」と述べていました。