鎌倉市携帯基地局条例 一部改正で説明会をこれまでより開催しやすくなる?!

現在会期中の2月議会には、「携帯電話等中継基地局の設置等に関する条例」の一部改正議案が上程されています。
同条例は、2008年の9月議会で制定を求める陳情が採択されたのを受けて、市長部局が1年以上かけて条例案を検討・策定し、2010年3月に成立、同4月1日に施行したものです。

計画周知の範囲を決めるのが難問だった
民間事業者による基地局設置に住民の同意を義務付けることは、法律に基づかない不当な権利制限を課すことになるため、自治体としてはできない ―というのが同条例の大前提です。
では、条例を鎌倉市が作った意義はどこにあるのでしょうか?
それは、「少なくとも、地域住民が知らないうちに自宅のすぐ近くに基地局が立ってしまったということがないようにする」ということだと考えられます。

問題は、基地局設置計画の周知の対象となる住民の範囲です。条例案策定にあたった市の担当者を一番悩ませたのは、この範囲の設定の仕方だったようです。

結局条例では、事業者が「基地局の高さの2倍の範囲の近接住民」と設置計画地が位置する地縁団体の代表者(自治会町内会長。以下、町内会長と表記)を設置計画の概要を記した書類を持参して訪問する対象に定めました。これには、「近接住民だけではあまりにも限定的だが、個々の基地局から発せられる電波の供用範囲とすると、広範囲になり過ぎて合法的に事業を進める民間事業者に多大な負担を強いるおそれがある」という配慮がありました。

「地縁団体を代表する者」の条例上の実質的な位置づけは?
事業者が訪問して説明を行う対象に町内会長を含めたのは、地縁団体を代表して説明を聞いてもらうためではありません。町内会長からの開催要請により事業者が自治・町内会の住民等に向けた説明会を開催することを定め、「近接住民」のひと回り二回り外側の住民が説明会に参加できるようにするためです。
要は、町内会長に地縁団体説明会の開催を通して住民周知の範囲を広げるための「取次ぎ役」を果たしていただくということです(と敢えて断言させていただきます)。

しかし、説明会はほとんど開催されないできた
「少なくとも、地域住民が知らないうちに自宅のすぐ近くに基地局が立ってしまったということがないようにする」ために重要な意味を持つ説明会ですが、開催件数は非常に限られており、一度も開催がなかった年が何年も続きました。また近年は住民有志からの要請で説明会が開催される事例が増えていて、開催されること自体は前向きに捉えられるものの、条例に規定された手続きにのらないことを巡るトラブルも生じています。

せっかく作った条例が活かされる(=説明会開催率のアップ)には、
①事業者の訪問を受けた町内会長さんに、できるかぎり説明会の開催を求めていただく
②町内会長以外の住民(※)も条例にのっとって事業者に説明会の開催を求められるようにする ― の2つの方向が考えられます。

①については、地域共生課が各年度はじめの町内会長の会合を利用して条例の趣旨説明を行うことが定着しつつあります。

②については、市民からも議会からも条例および条例施行規則改正を求める声が長年にわたってあがっていました。
実は、事業者の間にも現状の仕組みについて「やりづらい」という声が、町内会長さん達の中にも「事業者に開催要請をするかどうかの判断の責任を一身に引き受けるのはいかがなものか」という声があったと聞いています。

このような状況があり、地域共生課は昨年8月、全町内会長を対象にアンケートを実施し、現行の条例および条例施行規則にもとづく事業者説明会の開催方法(事業者が町内会長の意向を確認して実施の有無を決定)についての意見を集約しました。

条例改正の文言は?!
町内会長あてアンケートの結果を踏まえたということだと思いますが、2月議会に上程されている条例改正案は、基地局設置計画予定地の地元住民(※末尾)からの個別の要請に応えてた形でも事業者説明会が開催されるようにする内容となりました。

実際の改正部分は条例第7条への赤字部分の追加です。
(近接住民等への説明等)
第7条 事業者は、前条の計画書の提出後、規則に定めるところにより近接住民及び地縁団体を代表する者に当該設置等の工事の計画の概要を説明し、周知に努めるとともに、必要に応じて説明会を開催するなどして近接住民等の理解を得るよう努めなければならない。

2 事業者は、前項の規定により近接住民に説明したとき又は説明会を開催したときにあっては近接住民説明実施報告書を、地縁団体を代表する者に説明したとき又は説明会を開催したときにあっては地縁団体説明実施報告書を規則で定めるところにより、市長に提出しなければならない。

第7条を表にしてみました(要はダブルで事業者説明を要請できる)。

※改正の方向は歓迎。気になるのは開催要請ができる住民の範囲
改正条例は、2月議会の最終本会議(3月15日)で可決、成立した後、4月1日に条例施行規則と共に施行されます。

改正によって新たに説明会の開催要請ができるようになるのが「基地局の高さの2倍の範囲の近接住民」に限定されるのか、近接住民(=近接住民および地縁団体)なのかは、条例本体ではなく、条例施行規則に規定されます。施行規則の改正は市長決裁でよく、議決は不要なので、現時点で改正条例案とセットでは示されていません。
このことは、改正条例案の報告が予定されている2月22日の総務常任常任委員会で確認したいと思っています。

【追記】総務常任委員会における条例改正についての説明
22日の総務常任委員会では、所管の地域共生課から、
自治町内会長が事業者説明会の開催を判断することについて、回答者の60%が「過剰な負担」「やや負担」と回答
計画されている基地局の近接住民からの個別の要請によっても事業者説明会を開催できる運用とすることについては、回答者の70%が賛成
という町内会長宛アンケートの調査結果が示されました。

「事業者説明会の開催を個別に要請できる基地局の近接住民」というのが、条例の定義どおりの基地局の高さの2倍の範囲の住民を厳密に指すのか、2倍の範囲を超えた当該地縁団体の区域内住民の発意もよしとするのかを傍聴議員席から質問しました。
課長の回答は、「基地局の高さの2倍の範囲の近接住民」とのことでした。
そうだとすると、ほとんどのケースにおいて開催を個別要請できる住民は少数(数軒程度のケースが多い)となります。
アンケート調査を実施してくれたことには感謝していますが、町内会長さん達の負担軽減の視点ではではなく、周知の範囲を広げる(説明会開催率のアップ)視点での条例および条例規則の改正と運用の改善にもっていってほしいと思います。

私は、2022年12月定例会での高野議員の一般質問に対する関連質問で「近接住民というのはかなり定義としては限られていて少数である場合も非常に多いので、例えば『1人以上の近接住民から賛同を得た当該地縁団体の構成員から説明会の開催を求められたときは』などといった改正を考えていってはどうかと思います」と述べており、条例可決後に市長決裁となる施行規則の改正では、近接住民のところでとどまってしまわない運用となるような文言を工夫してほしいです。
最後に課長から「(説明会開催を求める声の)取りこぼしがない組み立てになる運用をめざす」と言う趣旨の発言があったのは、かろうじて良かったです。