鎌倉市の新年度予算で新庁舎の基本設計関連費用が焦点に?!(その1)

新年度予算案の新庁舎の基本設計関連経費
鎌倉市の新年度予算案には、新庁舎等基本設計およびDX支援業務委託事業費2億9500万円が、2024~25年度の債務負担行為として上がっています。

2024年度は、新庁舎の基本設計とDX支援サービス業務の受注者選定のプロポーザルを実施し、公開プレゼンテーションなどを経て12月議会に選定事業者(複数分野の事業者によるチームを想定)を提案する想定です。
2年間で2億9500万円ですが、2024年度の支出は実質的にはなく、年度をわたって事業が進められるように予算を通しておくという設定です。

予算計上に異論が寄せられた
この新庁舎基本設計関連経費の予算案への計上(債務負担行為の設定)に対し、2022年12月議会における市役所位置条例改正案の否決によって市役所の位置を深沢とすることが条例上定まっていない状態であることを理由に異を唱える陳情が出されました。

はじめに出された陳情は、予算計上が適法か否かを検証した上で、予算案から基本設計関連経費と同額を削除した予算修正案を提案することを議会に求めたものでした。この陳情は、予算案を審査する特別委員会の前に行われる常任委員会で予算修正案を出す、出さないの判断を下すことはできないという理由で、議員配付とされる(=委員会に付託しない)ことになりました。

すると数日後、他の自治体で位置条例改正案の議決前に議会が設計予算を通し、支出が行われた事例があるか否かを調査、検証することを求める陳情が同じ人から出されました。この陳情は、議会運営委員会で多数の委員が付託すべきだとしたため、建設常任委員会に審査付託されました。

藤沢市役所の建替えは、東日本大震災の後、築50年超の旧本館が耐震強度の問題で立入り禁止となったことで進められた。新庁舎は旧本館跡地で2015年9月に着工、17年12月竣工。陳情者は位置条例を定めてから設計に着手した事例に挙げていたが、位置条例はそもそも改正されていない。

 建設常任委員会で多数の他市事例が示される
陳情は、2月21日開催の建設常任委員会で審査されました。
市の担当課による説明では、
位置条例の改正前に基本設計に着手した他の自治体の例として
東京都小金井市茨城県結城市愛知県常滑市新潟県柏崎市滋賀県高島市三重県旧紀勢町、福島県南相馬市、岩手県 宮古市、島根県江津市香川県丸亀市香川県多度津町、佐賀県嬉野市、佐賀県神埼市沖縄県石垣市北海道砂川市
などがあることが報告されました。下線は位置条例の改正前に、基本設計の次の「実施設計」に着手した例、太字はさらに「着工」にまで進んだ例です(全該当事例を網羅しているのではなく、今回担当課が調べて把握したもの)。

加えて、旧紀勢町(現・大紀市)の庁舎移転を巡る住民訴訟の判例が参考として紹介されました。
名古屋高裁平成16年3月26日判決(抜粋)
地方自治法は条例を定める時期について何ら定めていないから、建設着工後において条例を定めても、同法違反とならず、庁舎位置条例案の 上程の時期は市町村長の裁量に委ねられていると解される。
そして、新庁舎着工前に議会に庁舎の位置変更条例案を上程していないが、新庁舎については、既に建築着工についての予算の議決を得ているというものであり、新庁舎の位置変更条例案を上程していないとしてもその裁量の範囲内というべきである。

基本設計関連費用の予算を通すことに違法性はなく、先行事例も多数ある
高裁で確定したこの判例(本サイトの2022年3月2日の記事※で紹介済み)からも、基本設計関連費用の予算計上が違法でないことは明らかです。
※ 鎌倉市役所の深沢移転は地方自治法4条に照らして違法なのか(その2)2022.3.2

陳情者は、「基本設計着手が、単に位置条例改正前だというのと、位置条例改正案が議会(の3分の2の同意を必要とする特別議決)で否決されているのとでは意味が違う」と指摘されていましたが、担当課からは、「紹介した事例のうち滋賀県高島市の例は位置条例改正案の議会否決後の基本設計着手である」との報告がありました。
上記の約2年前の記事でも触れているとおり、紀勢町の住民訴訟での裁判所の判断は「議員総数の3分の1を超える5名が庁舎移転に反対であったことが認められるものの、このことからただちに将来にわたって位置条例制定の可能性が全くないと断ずることはできないから、予算の執行が違法であるとまではいえない。」というものでした。

建設常任委員会の委員の一人は、「将来において位置条例改正が否決されたままである可能性だって否定できないではないか」と強弁していました。ディベートの場では使われる理屈かもしれませんが、司法の判断では採用されない理屈です。

陳情は議決不要に
「他の自治体の事例の検証」という陳情の願意は陳情審査を通して満たされたわけですから、結局この陳情は「議決不要」となりました。
もともと議員配付とした上で、予算等審査特別委員会の委員で陳情の要旨にある「検証」が必要だと考えた人が事前に資料請求をして特別委員会で議論すればよいところ、建設常任委員会に付託となった結果、「検証」は済んでしまった、ということです。
(以上は陳情審査の経緯ですが、設計費の予算計上についてどう考えるかなどについては、その2に続きます。)