鎌倉市の新年度予算で新庁舎の基本設計関連費用が焦点に?!(その2)

前掲記事で、深沢を鎌倉市庁舎の位置とすることが条例上定まっていない状態で新庁舎基本設計関連経費を2024年度予算に計上することに異を唱える陳情が出され、その陳情の建設常任委員会での審査において、同様の事例で「違法とは言えない」とした高裁判例があり、また、位置条例の改正前に基本設計に着手した他自治体の事例が相当数あることが確認されたと述べました。

では、市長が基本設計関連費用を予算計上した意図はどこにあるのか、またその説明に対し、建設委員会ではどのような意見が出たのか、委員長であるため質疑や意見が述べられなかった私自身はどう考えているのか ―これらのことを織り交ぜて述べていきたいと思います。

市長があげている基本設計着手の理由
2月議会に先立つ定例記者会見で、市長は次のように述べています。

市長「新庁舎整備に向けた基本設計を進めることで、市民の皆さんに
新しい市役所の窓口やデジタルの活用など、市役所の形が大きく変わり、市民の利便性が高まること、
新しい市役所が単なる手続きや相談の場ではなく、こどもからお年寄りまで幅広い年齢層の方々の居場所や市民・行政等の交流・協働・共創の場となること、
建物だけではなく、外構も含め、魅力的な場となること、
消防本部と合築することで、災害時の機能強化ができること
―などを視覚的に認識し、理解を深めていただきたいと考えています。
また、この基本設計の事業者選定過程の公開や基本設計における住民参加などにより、『新しい市役所のイメージ』を膨らませることができるよう努めていきます。」

要は、より具体的に示すことによって新庁舎整備についての市民理解を深めたい、ということです。
当然、言外から汲み取れるのは、市民理解と同時に「移転に同意していない議員」の理解を促したいということであり、同意していない議員の背中を より多くの市民に押してもらいたいという意図です。

2022年12月議会において位置条例改正議案は否決(16人賛成、10人反対。過半数が賛成であったが、地方自治法に定められた3分の2の特別議決の同意のラインに達しなかった)ということになりましたが、それによって深沢移転反対の「民意」が示されたというものではありません。改正議案に賛成した議員の立場からすれば、3分の2の同意ラインにあと2人足りない採決結果だったという事実に過ぎません(市側はもっと殊勝に受け止めた言い方をせざるを得ませんが…)。

また、市議会の議決には一事不再理(刑事事件の裁判で判決が確定している場合、その事件を再度審理することを許さないとする刑事手続上の原則)などというものは適用されませんから、「位置条例改正は否決された。否決されたことは覆されない」と一部の議員が発言しているのも失当です。

委員会での委員発言―市長は前言を翻した?
建設常任委員会では、委員から「市長は、(位置条例改正議案否決後の2023年2月定例会で)位置条例の可決なしには、新庁舎の基本設計委託費は計上しないものと考えていると答弁したが、自ら示した考えを変えるのか」という質問が出ました。
これに対し、市街地整備課長は「市は、この1年間市民への説明に努めてきた。その結果、基本設計に着手して理解を広めることが必要だと考えたため予算計上した」と、自らの立場で答えました。

では、市長は前言を翻したのかとどうなのか、と言えば、「翻した」ということになるのでしょう。
しかし、それが道義的責任を問われることなのかというと、答えは「否」であると私は考えます。理由は3つ。

1つは、深沢で新庁舎整備を進めたいという市長の考えは一貫しており、「位置条例の可決なしには、新庁舎の基本設計委託費は計上しない」という発言は、2023年度中の位置条例改正議案の再提出を前提としていたということです。

昨夏には、現在地利活用基本計画の中間とりまとめを行い、本庁舎が深沢に移転しても現在地において市民対応の行政機能が維持され、市民の多様な活動の拠点となる施設が物理的に整備可能であることを示すことで、市役所の位置を深沢に定める条例に対する議会の同意を促す「地ならし」をしています。
にもかかわらず(本当に、「にもかかわらず」です)、条例可決に必要な賛成議員の数を読めなかったため、改正条例の再提案をしなかったというのが、今年度の経緯です。

2つ目としては、災害時に市民の拠り所となり、救援・復旧の拠点となる本庁舎の整備は一刻の猶予もなく進める必要があるからです。能登半島地震の被災状況を見れば、その切迫感は強まって当然です。

仮に基本設計以降順調に進んでも開庁は最短で2031年以降です。深沢移転に反対する議員の中には、「現庁舎にもっと耐震補強を施し、修繕をしながら今後10年間程度使い続けながら、その後どうすればよいかを考えていけばよい」と主張する議員もいますが、あまりにも悠長であり、2015年度の「本庁舎機能更新に係る基礎調査」から9年間にわたって本庁舎整備の検討を積み重ねてきたことをあまりにも軽視しています。

現庁舎は老朽化して狭く、災害対応機能も不十分。移転による整備を進めないで「10年間待つ」ことに一体どんな意味があるのでしょうか。「移転を決めずによく10年間頑張って使ったものだ。ではそろそろ現在地で建替えか大改修をしようか」と言って整備案を決め、仮庁舎を作って(そもそも仮庁舎を作る場所は現庁舎の敷地内にはなく、近くに借りられる建物もないのですが! )引っ越し、現庁舎を解体して新庁舎を建て、仮庁舎からまた引っ越し、用済みの仮庁舎を解体するという一連の流れを想像すれば、それが移転に比べて如何に経費がかさみ、環境負荷が大きいかは明白です。そうやって悠長にしている間に大地震が起きたらどうするのか…。

そして3つ目が、課長が答弁し、市長が定例記者会見で話していた「基本設計に着手して、より具体的なものを示すことで新庁舎整備への理解を広める」ということなのですが、特に「基本設計の事業者選定過程の公開や基本設計における住民参加」というところがポイントです。

公募型プロポーザルでは、新庁舎の基本設計の設計案そのものを募るのではなく、基本設計に向けた「考え方」を提案してもらって、基本設計とDX支援サービス業務の受注者を選定するとのことです。公開プレゼンテーションにより、最終的に選定される事業者(複数分野の事業者から成るチーム)以外のチームの提案も含めて市民に公開し、新庁舎整備によって広がる様々な可能性を知ってもらおうという意図があるようです。

深沢での新庁舎整備に異を唱えている議員からは、「基本設計等の業務の完了は2025年度末(=次期市議選・市長選後)なのだから、それが済むまでは位置条例は再提案できない」といった声もあがっていますが、基本設計等の業務の完了を待たなければならない理由はありません。

法的には問題がなくても、位置条例の改正と基本設計への着手で一種の「ねじれ」が生じているのは確かです。しかし、ねじれの解消は、基本設計に着手しないことではなく、少しでも早く議会が3分の2にあたる議員の同意をもって位置条例を改正させることなのです。

 

委員会での委員発言―市民との関係?
建設常任委員会では、委員から「位置条例の改正前に基本設計に着手することについては、行政手続きとして違法性がある・なしの問題の他に、政治的な意味合いで市民との関係における判断ということがある」という発言がありました。

「市民との関係」というのは、「多くの市民が深沢に新庁舎を整備することに反対していることを、市も議会も真摯に受けとめなければならない」という意味だろうと思います。
しかし、本当に市民の優に過半数が反対されているのでしょうか。深沢での新庁舎整備と市役所現在地の市民のための利活用について、「よいのではないか」「どうしてダメなの?」という声を聞くことが、この1、2年の間にとても増えたと実感しています。

おそらく、反対を標榜している議員のもとには反対する市民が集い来るので、「反対は民意」だと思うのかもしれません。
同様のことは、陳情審査の際の趣旨説明で陳情者が言及したシール投票についても言えます。市役所移転についてのシール投票を街頭で行うと圧倒的多数が反対の方にシールを貼るので、市民は市役所移転に反対なのだと陳述されていましたが、「深沢への市役所移転反対!」の幟旗を掲げて呼びかけているシール投票に足を止めるのは、反対を表明したい人にほぼ限定されるのではないでしょうか。そうでない人は大抵スルーするので、賛成のシールを貼る人はいないのです。

折しも今週、「鎌倉市政を考える市民の会 有志(氏名記載)」の方たちが、「市役所移転について、私たちは次のように考えます」という意見書を議会や市長部局に出されました。市役所移転について、「今の場所に市役所はもったいない。鎌倉のために何かしたいと思っている市民、次世代の子どもたち、そして鎌倉に来られた人のためにあるべきです」という提言から始まり、広い視野に立った多角的な見解が述べられています。

市役所整備という命題には、市全体、市民全体(次世代の子どもを含む)のことを考えて向き合うことが基本中の基本だと、ずっと思っています。